多くの人が気づかない「インフラ危機」の深刻な現実《埼玉県八潮市道路陥没事故の衝撃》
日本はこのまま崩れ去ってしまうのか? 道路、鉄道、水道、インフラ、橋……なぜ全国各地で次々に事故が起きるのか? お金も人も足りない……打つ手はあるのか?
注目の新刊『日本のインフラ危機』では、私たちの暮らしを揺るがす「大問題の正体」を豊富なデータと事例から解き明かす。
(本記事は、岩城一郎『日本のインフラ危機』の一部を抜粋・編集しています)
埼玉県八潮市道路陥没事故の衝撃
〈昨日と変わらない交差点の風景。そこで信号待ちをしていると、車が一台、また一台と進んでいく。
ところが、トラックがウインカーを出して左折しようとした瞬間、めりめりと音が鳴り、地面に穴が空いたのです。
その4秒後、巨大な穴に吸い込まれるように、トラックは頭から突っ込んでいきました。
ドライバーは3ヵ月以上見つかりませんでした。
なぜこんなことが……
ほかの道路は大丈夫なのだろうか……
もし自分が車を運転していて地面に突然穴が空いたらどうしよう……
2025年1月に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故は、多くの人に衝撃と恐怖を与えました。〉(『日本のインフラ危機』より)
現場の構造はどうなっていた?
事故の内容、現場の構造を具体的に見ていきましょう。
〈一部の専門家は硫酸劣化によりこのシールドトンネルに穴が開き、土砂が流れ込んで空洞が発生し、道路が陥没したとの見方を示しましたが、私は懐疑的でした。
その理由は内径4.75メートルのシールドトンネルであれば1次覆工(鉄筋コンクリート)と2次覆工(無筋コンクリート)合わせて50センチメートル近いコンクリート厚さになり、いかにコンクリートが硫酸に弱いとはいえ、使われ始めてから四十数年程度でこのコンクリートに穴が開くほどの侵食が進むことはないと思ったからです。
加えて、2022年の点検調書では、この箇所で管路の腐食状態を3段階のうち中程度の「B」と判定していることも重要な情報です。
もし管路に穴が開くほど侵食が進行して いたとすれば、1次覆工コンクリートには鉄筋露出が見られ、腐食状態が最も深刻な「A」と判定されているはずでしょう。
一方、点検の精度が十分であったかについては疑問が残るところです。下水道管の中は暗く、臭いも含め劣悪な環境で、硫化水素による健康被害のリスクもある。このような環境で目視による適切な点検をおこなうのが厳しいことは容易に想像できます。
そう考えると、そもそも2次覆工が剝れ落ち、1次覆工がむき出しの状況にさらされていたとしても不思議ではありません。そこで、別の問題が生まれてきます。
劣悪な環境下での目視点検という行為そのものをどこまで信頼できるかということです。
また、この問題は下水道管の老朽化、すなわち硫酸劣化の問題だけでなく、そもそもきちんと施工されていたのかという点も考えなければいけません。〉(『日本のインフラ危機』より)
大事故の背景には複数の原因がある
〈このシールドトンネルの施工は四十数年前だったわけですが、当時の技術は今ほど成熟しておらず、かなり無理があった可能性がある。その結果、施工当初から1次覆工と2次覆工の一体性や、1次覆工(セグメントと呼ばれるコンクリートブロック)同士の接合、さらには1次覆工と地盤との間に隙間がなかったかなどの問題が懸念されます。
施工の不具合によって設計で考えられたものとは異なる構造物が出来上がってしまうと、想定とは異なる力が働き、コンクリートに穴が開いてしまうことも起こり得ます。特に施工の不具合で接合部に隙間が開いていたりするとそこから硫酸が入り込み、コンクリートだけでなく接合部の鋼材を腐食させてしまうため、セグメントそのものが落下することも想定されるのです。
このように事故の原因を短絡的にインフラの老朽化問題と片付けるのではなく、適切な設計、施工がおこなわれていたか、その上で、維持管理として適切な点検、診断、措置、記録がなされていたかを俯瞰的に考える必要があります。
大きな事故は、たいてい複数の原因が絡み合って起こります。逆にいえば、多くの原因のうち一つでも解決していればこのような大事故は起きなかった。八潮の事故も、設計-施工-維持管理に関わるすべてのプロセスにおいて問題がなかったか、詳細に検証していく必要があります。〉(『日本のインフラ危機』より)
さらに、「日本はこのまま崩れ去ってしまうのか…意外と気づかない「インフラ危機」本当の実態」」では、いま大問題として迫っているインフラ老朽化問題をひきつづき見ていく。
