「ヴィーガン」「スーパーフード」は”お金持ち”のためのビジネス!? 欲と偽善まみれのサステナビリティとは
環境保全は誰のため? リサイクル、再生可能エネルギー、カーボンオフセット―。
すべて超富裕層が潤うための虚偽、巨大マネーのためのグリーン・ビジネスだった!
「サステナビリティ・クラス」とは、高学歴で可処分所得と意識が高い「いい人」たち。エコや倫理的正しさをSNSでアピールし、「環境」を意識した高額商品を買う余裕がある中流階級だ。彼らが「地球の未来のためだ」と思ってやっていたことは、実はグリーン・ビジネスに加担し、弱者を追いやり、格差を広げる原因になっていた……。新たな植民地主義ともいえる「グリーン・ビジネス」の実態を、豊富なデータをもとに明らかにした著書『欲と偽善のサステナビリティ』。サステナビリティの名のもとの「欲と偽善」を、気鋭の研究者が暴くセンセーショナルな意欲作より、一部の章をピックアップしてご紹介。
ベニスの素敵な二人
こうしたウェルネスとイノベーションが融合したおかげで、カリフォルニアは何の問題もなく「グリーンな未来」を目指しているように見せてこられたのだ。1960年代にサイケデリックムーブメントの最前線に立っていた心理学者ティモシー・リアリーが1983年の自伝『Flashbacks』で、かの有名な言葉「ターンオン、チューンイン、ドロップアウト」の真意を説明している。「ターンオン」とは心と経験をフル活用して、それまでとは違う意識のレベルまで感覚を研ぎ澄ますこと。そして「チューンイン」は、社会と調和しながら、人間と自然をひとつのものとして見ること、「ドロップアウト」は、独立独歩の姿勢で、自らの特異点を見つけ出し、自分のエネルギーを他人に横取りされることなく、自力で生き抜く方法を学び取ること。
リアリーは1990年代になると、この表現を「ターンオン、ブートアップ、ジャックイン」(電源を入れろ、起動させろ、接続しろ)に言い換えた。これは老いていくカウンターカルチャー世代に、非効率な政府や面倒な政治と関わることなく、インターネット革命を受け入れるよう促すためだ。ベニスもリアリーのようにブートアップを果たし、今まさにサステナブルな未来に「ジャックイン」するときを迎えている。混乱した政治などお呼びではない。
とはいえ、どこに「ジャックイン」すればよいのか。政治では解決できないなら、あとはどのようなライフスタイルを選ぶのかの問題だ。ヴィーガンのインフルエンサーで、サステナブルフードのブログを書いていたジェシカの話を聞いたのは、陽射しがじりじりと照りつける暑い日の午後だった。グリーンリーフ・カフェの人工芝が敷かれたパティオで、僕たちはターメリックラテをすすっていた。ジェシカがヴィーガニズムに興味を持ったのは、政治やニュースを聞いていて心が折れてしまったときだという。世の中を変えられるとしたら、自分自身で選択するしか道はない――政治家や企業は気候変動やパンデミックから私たちを守ってくれないでしょう? でも、ヴィーガンになると選択すれば、世の中を変えられるんです。
ヴィーガニズムのイメチェン
それでも、ヴィーガンをやれと説教したり、政治の問題を絡めたりすると厄介だという。それに、グイグイこられると、周りが恐れをなす。「ムダ毛を剃らない人とか、『この人と一緒だと肉を食べられないな』と思わせる人とか、そういった変わった人たちは煙たがられますよ」。ヴィーガニズムを受け入れてもらうには、ファッショナブルで、今風で、理解しやすくなければならない。最近では、NFL選手からジェームズ・キャメロン、ジェイ・Z、レオナルド・ディカプリオまで、ヴィーガニズムを紹介するインフルエンサーは増えるばかりですとジェシカは話す。まるで掘っ立て小屋がシックな空間に大変身したかのような、ヴィーガニズムのイメチェンだ。
ジェシカが働いているのは、ヴィーガニズムのシックなイメチェンで中心的存在プラント・フード・アンド・ワインだ。この世界的に有名なレストランの創設者マシュー・ケニーは生の食べ物を口にするようになり、ふと気づいたのだという。「生の物(ローフード)を食べるようになってから、気力も体力も充実してきたようです」とジェシカが教えてくれた。肉製品を食べるのを止めた頃、ケニーはニューヨークでピュア・フード・アンド・ワインを始めた。後にスキャンダルの渦に巻き込まれて物議を醸したレストランだが(ネットフリックスのドキュメンタリーシリーズ「バッド・ヴィーガン」に詳しい)、そこを去るとカナダのモントリオールでスピリチュアルヨガをしながら心と身体を休めてから、オクラホマシティでローフードのヴィーガニズムを教える学校を開校した。
それから間もなく、サウジアラビアの王族とジョイントベンチャーを立ち上げ、ヴィーガンであるカレド・ビン・アルワリード王子のためにフォーシーズンズ・ホテルで料理を作り始める。ケニーは『タイムアウト』誌にこう話している。「今や植物由来の食べ物はどこでも大人気。それにサウジの王族はいつも新しいもの、盛り上がるもの、格好いいものに目がありません」
「まるで異星人の惑星に足を踏み入れたよう」
ベニスでは、ウェルネスのブームとライフスタイルのグリーン化が相まって盛り上がりを見せているが、それを「勘違いしているけれど害はない」と笑い飛ばすのは簡単だ。とはいえ、そこには何か得体のしれないものが隠れていた。環境にやさしい高級スーパーマーケットのエレウォン(この名称は、「nowhere[どこでもない場所]」のアナグラムであり、英国の作家サミュエル・バトラーが1872年に発表した風刺小説の題名でもある)もその一例だ。エレウォンはグリーンウォッシュをこれまでにない邪悪なレベルに押し上げている。
『ロサンゼルス・マガジン』誌のスティーブ・ブラムも書いているが、「ヤマイモと芽キャベツが山のように盛られた食品売り場に、ジム帰りの筋骨隆々な男たちとヨガのアスレジャーウェアをまとったガリガリな女たちが群がる姿」は、エレウォンでおなじみの光景だ。売り場には、有機栽培で本物の「生」ナッツから作られたパイント30ドルのナッツバター、オリジナル商品の海藻ジェルのほか、番号のついたビビッドな色合いのウェルネスショットやスムージーも置かれている。コロイドシルバー(銀の微粒子)やキョーリックニンニクが含まれたショット「ジャーム・ウォーフェア・ショット」、食品トレーサビリティで管理されたアダプトゲン〔訳注:ストレスに対する抵抗力を高める効果があるとされる天然生薬類〕が原料のホットチョコレート、アサイーやスピルリナ、小麦若葉を使用したヴィーガンミールの代用シェイク。それに、チャーガマッシュルームやアシュワガンダの根(別名インド人参)など、滋養強壮作用のある成分が含まれたスーパーフードのミックスも外せない。ブラムはこうも書いている。「まるで異星人の惑星に足を踏み入れたよう……食べ物の概念が根底から揺るがされる」
エレウォンの店内に立てば健康的になる!?
エレウォンは、昔からある伝統的な手法をあれこれ寄せ集めて、色とりどりの華やかなアイテムとして提供している。それを原色の魔法薬のように混ぜ合わせると、意識高い系の消費者が思わず手に取ってしまうようなオシャレな新製品が生まれる。ここでもまたジョナサン・リッチマンのつぶやくような歌声を思い出さずにはいられない――「古き世界に手が届く 今いるのはベニスビーチの下宿屋だけど」。エレウォンは遠く離れた古き世界を今風に変えて、人々に届けているのだ。
エレウォンのマーケティングは実に見事だ。チャクラのバランスや調整に、サステナビリティという言葉をちりばめながら、バイオダイナミック農法や放牧のナチュラル感を巧みにブレンドし、消費者にトータル・ウェルネスを達成できているかのような感覚を抱かせる。副社長のジェイソン・ワイドナーは『ニューヨーク・タイムズ』紙にこう語っている。「健康によい食べ物を扱う店がカッコいいというのは一見矛盾しているように見えるかもしれない。でも、今さら誰がビール片手に崖から飛び降りるのがカッコいいと言うだろうか? 今ならグリーンジュース片手だ」。ワイドナーはさらにこう話す(口調は、まるでリラックスしたサーファーのよう)。「そもそもカッコいいからという理由で体にいいものを食べるだなんて、そんなニセモノがいるのかな? まぁ、いないことはないか。でも、そんなの気にしない。むしろ大歓迎だ。食べていれば好きになるよ」
エレウォンの店内を歩くだけで、健康的なライフスタイルを実現しているような気になる。パチョリオイルとセージの香りが漂う―――健康万歳! まさに自然回帰だ。エレウォンで買い物をするとエコになる。店内で立っているだけでもいい。実際、浄化の儀式のようなものだった。エコでない、有害で無責任な西洋社会にあって、ラップで包まれた精白パンとスパムのサンドウィッチを絶えず食べ続けて溜まった毒素を洗い落とすために、特別なソープでゴシゴシ洗うような感じだ。ある意味、それは異文化から借用した実践や知識、食べ物、つまり、新たな「映えグルメ」として再構成されたものを身体に取り込む前のデトックスのようでもあった。インスタントなウェルネスに、インスタントなサステナビリティ。まさにインスタ……映えだ!(翻訳:保科京子)
