介護離職は「お勧めできない」 3つの理由。現場のプロが教える、後悔しないための立ち回り方
身近な人に看護・介護が必要になったとき、みなさんはどこに相談しますか?総合的な相談先として、主治医の所属機関を問わず、活用できるのが「訪問看護ステーション」です。その地域に開かれた独立した事業所である「訪問看護ステーション」に、黎明期から関わり、自ら起ち上げた「桂乃貴メンタルヘルスケア・ハートフル訪問看護ステーション中目黒」で、自分自身も看護に当たるのが渡部貴子さん。自らの経験を元に、介護や看護で困っている方への質問・疑問に答えてもらうのがこの連載です。第31回目は、「介護離職は本当に『現実的』? 現場のプロが教える、後悔しないための立ち回り方」についてです。(構成:野辺五月)
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前回「新生活を乗り切るためのメンタル管理術。心を守るための<コミュニティ整理>と<スケジュールに余白>のススメ」はこちら
離職にメリットはほとんどない
Q:親の介護をサービスに頼ることに罪悪感があります。離職してでも、自分で向き合うべきでしょうか?
実は介護や看護の現場でも、「介護離職をしてよかった」という話はあまり聞きません。厳しい言い方かもしれませんが、現実的に見て、離職にメリットはほとんどないからです。
逆に介護や看護の現場では、そのまま働けるような環境になるよう、状況を整え、推奨する動きすらあります。なぜならば、「仕事」は社会と繋がる重要な場であり、家庭と社会を繋ぐ大切な位置づけだからです。
そもそもの話をしますと、まず、経済的な現実から目を逸らしてはいけません。介護休業などは有給ではなく、実質的な減給になる場合も多いものです。老後の蓄えを考えれば、資金はあればあるほど安心材料になります。一度キャリアを断絶させてしまうと、数年後に介護が終わった際、元の条件で再就職できる保証はどこにもありません。
離職は、親の人生のために、あなたの残りの30年、40年の人生を質に入れるようなものです。「疲れすぎて仕事を休みたい」という際の、自分への一時的な言い訳として離職を選ぶのは、あまりに代償が大きすぎます。もしあなたが経済的に困窮してしまえば、天国にいる親御さんは果たして喜ぶでしょうか。「共倒れ」は、親が最も望まない結末なのです。
自分たちだけで介護を抱え込まないこと
特に、いわゆる「2025年問題」といって、昨年から、団塊の世代が75歳以上となることで介護需要が急増し、離職者の増加が懸念されています。離職の原因は、相談口のなさが6割を占めると言われています。しかし実際には介護離職を防ぐ「両立支援制度」が整えられています。 一例をここに挙げますと、
●介護休業:対象家族1人につき、通算93日まで取得可能(賃金の低下を防ぐ介護休業給付金あり)。
●介護休暇:要介護状態の家族の世話のために、年5日(2人以上なら10日)まで、1時間単位で取得可能。
● 所定労働時間の短縮措置:短時間勤務、フレックスタイム制、始業・終業時間の変更など。
●残業の免除・制限:介護を行う社員からの申し出により、残業を免除・制限する。
これらは厚生労働省のHPにも掲げられています。また昨年4月から企業側でも育児・介護休業法改正により、制度の周知や意向確認・窓口の設置が義務付けられています。離職を防ぐためにもまずは上司に相談すること、そして、デイサービスや訪問介護などケアマネジャーに相談することが考えられます。

イメージ(写真提供:Photo AC)
離職を勧めない最大の理由は、自分を犠牲にして狭い世界に閉じこもってしまうと、「逃げ場」を失ってしまうからです。家の中で24時間、自分たちだけで介護を抱え込むと、社会との接点が断たれ、人間関係も含めた「外」がなくなります。孤立すればするほど、いざ限界が来た時にどこへ助けを求めればいいのか、声の上げ方すら分からなくなってしまうのです。
また、「自分ばかりがこんなに大変なのに……」という被害者意識の負のループに陥るケースも少なくありません。外に出られない状況で、SNSやテレビを通じて見える「楽しそうな他人」と自分を比較しては落ち込む――そんな悪循環に陥りかねないのです。
心の余白を手放さないで
仕事は単に稼ぐ手段ではありません。職場での何気ない雑談や、目の前のタスクに没頭する時間は、あなたにとっての「介護から解放される唯一の聖域」にもなります。外の世界で別の役割(=社員、友人、一人の人間)を持つことは、心の毒抜きです。
仕事があるからこそ、家に戻った時に親に優しくなれる。その心の余白を、どうか手放さないでください。

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プロを頼ることに罪悪感を持つ必要もありません。むしろ、素人が慣れない手つきでイライラしながら介護をするより、技術と知識を持ったプロが適切なケアをする方が、親御さんにとってもはるかに快適で尊厳を守れる場合が多いのです。あなたがすべきなのは、排泄介助や入浴介助という「作業」を一人で背負うことではありません。
それはプロに任せ、あなたは親御さんと「思い出話をする」「一緒に美味しいものを食べる」という、家族にしかできない役割に専念すればいい。介護をサービスに外注することは、親子の良好な関係を守るための「賢い選択」なのです。
特に地域やご家庭によっては、「女性が世話をするものだ」という旧来の文化的な圧力を受けることもあるでしょう。けれど、実際の過酷な現場を知っている人間からすれば、その犠牲の上に成り立つ介護が、親子双方にとって幸せだとは到底思えないのです。
サービスを知らないことこそ、介護における最大の敵
忘れないでほしいのは、介護は基本的に「長期戦」であるということです。
抱え込まず、持続できる体制を整えなければ、心身が持ちません。もし余命が「あと1週間」と分かっているのなら、付きっきりでいたいと思うのは自然なことでしょう。しかし、終末期で「あと1ヵ月」と言われていても、実際には半年、1年と続くことも多々あります。その間、ずっと一人で寄り添い続けることが現実的かといえば、決してそんなことはありません。
「自分がやれば……」という自己犠牲は、いつしか自分自身を元の生活から乖離させ、生活そのものを壊してしまう危険を孕んでいます。家族が認知症であることや、病気の身内がいることを「隠したい」という心理は誰にでもあるものです。しかし、家の中で解決しようとすることだけが正解ではありません。
「サービスを知らないこと」こそが、介護における最大の敵なのです。
なお介護離職後でも遅くはありません。特定の条件を満たせば、失業保険(基本手当)も受給可能です。詳細は「仕事と介護の両立」について厚生労働省のHPにも載っています。
今は、他人に頼めることがたくさんあります。制度も整ってきています。まずは周囲に助けてもらう勇気を持ち、使えるものはすべて使って、仕事を続けてください。社会と繋がっていることは、経済面だけでなく、あなたの精神を守るための「命綱」になります。
いざという時こそ、閉ざされた介護ではなく、外へ開かれた介護を。もし離職という選択肢が頭をよぎったら、まずは役所や介護現場、病院などに相談してみてください。制度を使い、社会と繋がり続けることを恐れないでくださいね。どうぞ諦めないでください。
