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医師で作家の鎌田實先生は、人とは違う自分らしさやユーモアを「変さ値」と表現し、「あなたらしさであり、ほかの誰も持っていない『自分だけの武器』」だと語ります。これまでさまざまな人々に「変さ値」の重要性を話してきた鎌田先生ですが、そんな中で、自分らしくあろうと挑戦している「変さ値」の高い女性たちの存在に気づいたといいます。そこで今回は、鎌田先生の著書『女の“変さ値”』より、女性初のNHKアナウンス室長を務めた山根基世さんのインタビューをお届けします。

【写真】山根基世さん

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現場でのやりにくさ

山根基世さん自身は決して上昇志向があるタイプではなかったようだが、それでも現場でのやりにくさのようなものは実感していたそうだ。

ある程度の年齢になり、経験を積むと、現場でリーダーシップを発揮しなければならない局面が出てくる。

ところが、山根さんが意見を言っても、無視されたり、冷笑されたりといったことが少なくなかった。

「決して間違ったことを言ってるつもりはないんですけどね。ただ、それがジェンダーギャップによるものだったのかは定かではありません。というのも、私はよく現場のトップに歯向かっていたんです(笑)。組織で偉くなるためには、トップの権威を蔑ろにしてはいけない。その一番の鉄則を私は知らなかったわけです」

相手の自尊心を大切にすること

アナウンス室長になる前のそうした経験から、山根さんは二つのことを学んだ。

一つは、役職に限らずすべての人の自尊心を大切にすること。相手の自尊心を大切にすることが、その人を大切にすることになる。


『女の“変さ値”』(著:鎌田實/潮出版社)

もう一つは、自分自身の言葉で語ること。自分の言葉で話せば人はついてきてくれる。

「いま振り返ってみると、自身の経験からこの二つの教訓を得たからこそ、アナウンス室長という大役が務まったんだと思います」

最初は言下に室長の打診を断った

上昇志向はほとんどないとはいえ、問題意識は持っていた。かつてのNHKでは、異動の面でもジェンダーギャップがあった。

男性は室蘭から鹿児島への異動があったりするものの、女性にはほとんど異動がなかった。いまのままではこの組織は長く続かない。そう感じていた山根さんは、毎年、人事に提出する書類には、異動についての提言を書いていたという。いずれは女性がアナウンス室長になるべきだとも考えていた。しかし、それは自分ではなく、誰かがやってくれればよい。そんな感覚でいたところに、室長の打診があった。

「最初は言下にお断りしましたよ。私は組織運営に携わったことがないし、現場しか知らないと。すると理事がね、こんなふうに言うんです。『君ね、いままでアナウンサーとして楽しくやってきたんだろう。最後に恩返ししてくれよ』って。もっともらしい口説き文句ですよね。ただ、私は先輩のやり方を見て学んだりはしましたけど、手取り足取り教えてもらったことは一度もありません。アナウンサーとしては自分で勝手に育ったつもりでいました。組織の世話になった気なんてないわけです。むしろ、私のほうこそ恩返しをしてもらいたいくらいでした(笑)。

でも、同時に女性の異動のことや、アナウンサーの処遇改善なんかの問題意識は持っていましたから、室長になればそれを改革できるかもしれないと思ったんです。そうして、最終的にお引き受けすることになりました。目の前にある課題を解決する。そのために私は室長になったんだと、運命のようなものを感じましたね」

周囲に助けてもらえる自分になろう

自ら望んで就いた役職ではない。改革は大変だろうけれど、2年ならやり遂げられるだろう。2年間のうちにやれるだけのことをやろう──。これが室長に就任したときの山根さんの思いだった。まず着手したのは、アナウンサーの処遇改善。アナウンス室制作の大型番組「100年インタビュー」をつくったり、アナウンス室から海外に人材を派遣したりした。


鎌田實先生(写真提供:潮出版社)

「新任の室長として心がけたのは、分からないことはすぐに周囲に聞くことでしたね。部下に対する敬意を忘れたら、誰も協力してくれませんから。例えば、アナウンサーを海外に派遣する際には、『まずは何から始めればいい?』『誰と話をするべき?』って、周囲に聞くんです。そうすると『まずは外信部長と話してみてください』といった答えが返ってくる。そう言われたら、その足で走って外信部長のもとに行って話をする。そんな感じでした。とにかく、周囲に助けてもらえる自分になろうと決めて動いていましたね」

山根さんの素晴らしさは、女性初のアナウンス室長という大役を、苦労しながらも楽しんで務めていたところにある。リーダーが周囲の意見に耳を傾け、率先して動く。そうすると、皆は自発的に仕事をするようになり、組織には活気が生まれる。

「あくまで私の感想ですけど、アナウンス室が生き生きした空気感になったように思います」

※本稿は、『女の“変さ値”』(潮出版社)の一部を再編集したものです。