暴対法の施行や暴排条例の制定によりヤクザ組織が弱体化している。現在、彼らの懐事情はどうなっているのか。ノンフィクションライターの溝口敦さんの書籍『やくざは本当に「必要悪」だったのか』(講談社+α新書)より、紹介する――。

■バブル期には「年収1477万円」に上った

暴力団の経済面、つまりシノギの変化を見よう。

警察庁の調査によれば、バブル盛期(1989年)、暴力団の構成員は約8万8000人(2023年は総数が2万400人)いて、1人当たりの年収額は1477万円に上ったという。

今、年収1400万円以上の層は、暴力団の中でも上納金で食えるか、よほどのうまいシノギに恵まれた者か、ごく一部の中堅層以上に限られよう。それ以下の層は住民税の非課税世帯ギリギリと考えてよい。

バブル期、暴力団は地上げや株を手がけ、我が世の春を謳歌した。末端の組員であっても、いつか俺の懐にも億というカネを、と夢見ることができた。

しかしバブルの破裂直後に地上げからも株式取引口座からも暴力団は排除された。

■「身内の麻雀」が関の山

賭博(とばく)は暴力団の伝統的な資金源の一つだったが、常設の盆(ほぼ毎日開設されている博打場)は根こそぎ潰され、総長賭博など身内で行う大賭博の開帳も禁圧された。

かといって競馬、競輪、競艇、オートレース(公営競技)のノミ行為もダメ、自ら行う野球賭博も警察により各個撃破された。パチンコホールからの用心棒代の取り立てや景品買いも禁止され、闇カジノの開設も潰され、みすみす太客(ふときゃく)は海外のカジノやオンラインカジノに持って行かれる始末である。

彼らが行えるギャンブルは身内だけで行う麻雀ぐらいなものだろう。賭博は彼らのシノギから永久消滅した。

写真=iStock.com/polkadot
「身内の麻雀」が関の山(写真はイメージです) - 写真=iStock.com/polkadot

同じく伝統的なシノギだった管理売春も、売春するような女性の多くがヒモや客引き、ボディガード役を必要とせず、スマホの出会い系サイトやパパ活行動などを通じて客になる男性を自ら探し、万一の事故は自分持ちという自己責任を負う形で客の男性と向かい合い、カネの授受を行い、完結する。

やくざが中間搾取する余地は狭まり、管理売春をシノギにすることは難しくなった。

女性のスカウトや他店替えの請負も新宿歌舞伎町では、専業化した会社類似の組織が手がけ、暴力団は会社からわずかなみかじめ料をもらう程度で、ほぼ排除された。

■暴力団事務所には仕事がない

覚醒剤や大麻の密売だけが依然としてやくざのシノギであり続けているが、これも大麻流通のネット化や一般人や外国人による大麻栽培、大麻密輸などの増加で決して安泰とはいえない。

科学警察研究所の調査によれば、組員の多くは理想的な親分像の要件として「カネがあり、カネを作る能力があること」を最重視しているという。

つまり暴力団の組員はいわば暴力団を仕事の基地として、そこでの指示や自分の才覚による働きによって生活したいと考えている。

だが、暴力団事務所には仕事がなく、自分で探そうと街を歩いても、やはり仕事は転がっていない、という現実がある。

■「半グレのマネ」をするまで落ちぶれている

暴力団の首脳部はついに低落する伝統的なシノギとは別の、新しいシノギを創出することができなかった。新シノギの創出は主として半グレ、匿流(トクリュウ)が担い、暴力団はわずかに彼らからノウハウを習い、マネすることぐらいしかできず、凋落(ちょうらく)の一途を辿(たど)った。

カネが大きく流れている分野に参入できればカネになるというのはシノギの真実だろう。

たとえば、かつて総会屋は大企業の総務部に名刺を置くだけで多少のカネをもらえた。与党総会屋になれば、企業からの礼金は億の単位になったし、野党総会屋でも顔が売れればそれなりにカネに恵まれた。

総会屋は1981年と1997年、二度の商法改正でほぼ絶滅した。以後、企業からカネを引き出すことが難しくなったわけだが、ご存じの通り、末期の総会屋は暴力団とイコールだった。総会屋の絶滅で暴力団のカネづるとしての企業はほぼカットされることになった。

同様にパチンコ業界には巨額のカネが流れていた。最盛期、30兆円産業といわれたが、その呼称に偽りはない。暴力団はパチンコホールにたかり、開業時には設置台数1台につき100万円の挨拶料とか、用心棒代で月500万円とか、景品買いで年商何億円とかは夢物語ではなかった。

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パチンコ業界には巨額のカネが流れていた(写真はイメージです) - 写真=iStock.com/tupungato

建設の下請けや不動産関連の地上げ、生コンなどの資材でも1立米(りゅうべい)当たり5000円とか、暴力団やその組員は巨費を得ることができた。

だが、これらはパチンコ不況や不動産不況、警察の取り締まり、暴力団排除の世論などでほぼ雲散霧消した。暴力団は主要な資金源をここ何十年かであらかた失ってきた。

■今の暴力団は「マネ乞食」

その間、暴力団の首領が何をしていたかといえば、首領同士で紅白の胡蝶蘭を贈ったり贈られたりしていただけである。彼らより後の世代がどう食っていくか、まるで考えなかったこともあり、この間、暴力団が生み出した新しいシノギは皆無である。

これに比べ新興の半グレや匿流はオレオレ詐欺などの特殊詐欺やSNS利用の投資詐欺、危険ドラッグの密輸と密売、金インゴットの密輸など、その時々に食えるシノギを工夫してきた。

今では一部暴力団も特殊詐欺などを手がけているが、それは半グレの始めたシノギのいわばマネ乞食としてやっているだけだろう。

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今の暴力団は「マネ乞食」(写真はイメージです) - 写真=iStock.com/MikeyGen73

ただ詐欺の被害者は詐欺のやり手側に暴力団組員が一人でもいると判明すれば、民事法廷で「使用者責任」を問うことができる。すなわち組長は被害者側の損害を賠償するハメに陥る危険が伴う。

よって多くの暴力団では組員が特殊詐欺に関わることを禁止している。トップが損害賠償という被害を被らないためである。

■特殊詐欺のほうが断然儲かる

暴力団の手がけるみかじめ、用心棒代は今1万、10万円の単位である。最近のニュースによれば、大分市で山口組と関係のある35歳の男が同市都町(みやこまち)の飲食店の女性に因縁をつけた上、月6万円のみかじめを払えと要求して警察から中止命令を受けたという。

溝口敦『やくざは本当に「必要悪」だったのか』(講談社+α新書)

かと思えば、名古屋市の男(73)は警察官をかたる詐欺犯から1億円以上を騙し取られたあげく、自ら特殊詐欺の受け子になって、愛知県警に逮捕された。

やくざの仕切るみかじめでは6万円、他方半グレや匿流が手がける特殊詐欺では1億円――、明白に流れるカネの額が違うのだ。

暴力団がカネに詰まり、終焉を迎えるのは当然だが、生き残り策として残るのは覚醒剤の密輸・密売だけだろう。乱用者の心身を損なう薬物を商うのは倫理的に問題が多すぎるが、それでも特定の人が欲する物を売って何が悪いと開き直ることは可能だろう。

カナダやオランダ、ニュージーランドなどにはハームリダクションといって、依存者に少量の薬物を摂らせながら薬物依存から抜け出させようとする法律と施策がある。やくざはそうした例を心頼みに覚醒剤密売を自分の中で合理化するかもしれない。

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溝口 敦(みぞぐち・あつし)
ノンフィクション作家
1942年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。『食肉の帝王』で2004年に講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『暴力団』『山口組三国志 織田絆誠という男』などがある。
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(ノンフィクション作家 溝口 敦)