こちらは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した惑星状星雲「M57(Messier 57)」。


こと座の方向、約2600光年先にあります。「環状星雲(Ring Nebula)」の名前でよく知られている星雲です。


動物の目のような印象的な姿、お気に入りの星雲だという人も多いのではないでしょうか。筆者もPCの壁紙に設定していたことがあります。


【▲ ハッブル宇宙望遠鏡(HST)で観測した惑星状星雲「M57(環状星雲)」(Credit: NASA, ESA, and C. Robert O’Dell (Vanderbilt University))】

惑星状星雲とは、超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が、恒星進化の最終段階で周囲に形成する天体です。


太陽のような恒星は、晩年を迎えると主系列星から赤色巨星に進化し、外層から周囲へとガスや塵(ダスト)を放出するようになります。やがて、ガスを失った星が赤色巨星から白色矮星へと移り変わる段階(中心星)になると、放出されたガスが星から放射された紫外線によって電離して光を放ち、惑星状星雲として観測されるようになります。


フランスの天文学者Charles Messierが1779年に発見して以来、長年にわたって観測されてきた環状星雲。今回、その中心で謎めいた「鉄の棒状構造」が見つかったとする研究成果を、カーディフ大学のRoger Wessonさんたち研究チームが発表しました。


環状星雲の中心部に鉄のプラズマでできた棒状構造が存在していた

次に掲載するのは、カナリア諸島のウィリアム・ハーシェル望遠鏡(WHT)に設置された分光観測装置「WEAVE」で観測した環状星雲です。


中心部に見える赤色の部分が、今回初めて検出された高階電離した鉄イオンからの光です。外側にあるリング状をした酸素イオンからの光と比べて、かなり異なる棒状をしていることがわかります。


【▲ ウィリアム・ハーシェル望遠鏡の分光観測装置「WEAVE」で観測した惑星状星雲「M57(環状星雲)」(Credit: University College London)】

棒状構造の長さは冥王星の公転軌道の直径(平均で約80天文単位)の500倍に相当する約4万天文単位で、鉄の合計質量は火星の質量に匹敵すると推定されています。


どうやって形成されたのかは今のところ謎

今回初めて発見されたというこの構造が、どのようにして形成されたのかはまだわかっていません。一見すると中心星からのジェット(細く絞られた高速なガスの流れ)のようですが、運動学的な分析結果をもとに、その可能性は否定されています。


ひとつの手がかりになりそうなのは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測データです。次に掲載するのは、ウェッブ宇宙望遠鏡のMIRI(中間赤外線観測装置)で観測した環状星雲。研究チームによると、鉄の棒状構造が見つかったのと同じ場所では塵が少なく、暗い帯状になっています。


【▲ JWST(ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)で観測した惑星状星雲「M57(環状星雲)」(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, M. Barlow, N. Cox, R. Wesson)】

塵が少ない場所に鉄イオンが集中しているように見えることから、研究チームは、塵粒子に含まれていた鉄が、塵粒子の破壊にともなって放出された可能性に言及しています。ただ、塵粒子を破壊するほどのエネルギー源が環状星雲には見当たらないといい、断定するには至っていません。


研究チームによると、謎めいた棒状構造を形作る鉄は、赤色巨星へと膨張した主星によって破壊された岩石惑星に由来する可能性があります。そうではなかったとしても、環状星雲を構成する物質が放出された過程についての新たな情報を与えてくれるかもしれません。


形成過程を絞り込むには重要な情報が不足していることから、研究チームは環状星雲やその他の惑星状星雲のさらなる観測を通じて、鉄の起源につながる手がかりが得られることに期待を寄せています。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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