投票率低下は若者だけの問題ではない 選択肢なき政治が生んだ選挙離れ - 石戸 諭
※この記事は2021年10月26日にBLOGOSで公開されたものです
若者の投票率低下が問題視されている。前回、前々回の衆院選で20歳代の投票率は約32~33%となり、60歳代が70%前後であることと比べると嘆きたくなる気持ちはわかる。こうした状況を受け、毎回のように「投票にいかないと高齢者が優遇される政治になる」「選挙にいかないとX円損をすることになる」といった論が展開されている。だが、政治への関心低下は若者だけの問題なのだろうか。
「選挙のつまらなさ」が投票率を下げている?
そもそも政治への関心低下はなぜ起きるのか。実際に数字を見れば、投票率は長期的に見て下落トレンドが続いている。60歳代にしても、1990年代は8割を超えていることはあった。70歳代以上も7割を超えていた時期が続いていたが、現在は下落している(※1)。高齢者もまたかつてほど政治への関心を持たなくなっているということだ。
政治学者の山本健太郎氏(北海学園大学教授)はその理由の一つに「選挙のつまらなさ」を挙げている(※2)。山本氏の主張は明確だ。2000年代に入り投票率が高かった衆院選が二つある。2005年と2009年だ。前者は小泉純一郎政権が郵政民営化の是非を問うた「郵政解散」、後者は民主党政権が誕生した政権交代選挙だ。いずれも争点が明確にあり、特に後者は現実的な政権の選択肢が存在した。つまり、争点と選択肢があれば有権者は投票に向かうのだ。
《近年の選挙はつまらない。まずもって、選挙の争点がはっきりしない。2014年衆院選は消費税の増税延期が争点とされたが、与野党とも延期で足並みが揃っており、わかりやすい対立軸にはならなかった。2017年衆院選も、「大義なき解散」と指摘されるなど、 何を投票の目安にすればよいのか、有権者を戸惑わせてきた。
政策争点がはっきりしないこと以上に選挙をつまらなくしているのは、実質的に選択肢が欠如しているという政治状況である。》(※2より引用)
要するに、政治家、政党が有権者の関心を高めることに失敗しているということだ。安倍政権下における自民党の選挙戦略の一つは、明確な争点を作らず、国民の関心を高めないことであらかじめ組織力に秀でた与党の基礎票を固めるというものだった。
若者の票を掘り起こすことができない与野党
今回の選挙も争点は極めてわかりにくい。新型コロナ禍で打撃を受けた経済や人々の生活について、各党は総じて給付金や減税を打ち出している。細かく見て各人の価値観に基づく優劣をつけることはできるが、2014年を反復するかのようにわかりやすい対立軸にはなっていない。
政権選択の可能性はどうか。立憲民主党を中心に野党は候補者調整を推し進めたが、立憲代表の枝野幸男氏は自ら政権交代の可能性を「大谷(翔平)選手の打率(=2割5分7厘)くらい」と口にした。よく言えば非常に現実的な見解とも言えるが、士気を下げるような言葉を選ぶ必要もない。
与党からすれば投票率が低ければ低いほど組織頼みの選挙で勝てるため、わざわざ有権者の関心を高める必要もない。政治家が積極的に争点を作ることができなければ、有権者の関心が高まることはないだろう。
加えて言えば、最近の選挙は総じて、あらかじめ結果が大体わかっている。小さなサプライズがいくつか起きることはあっても、世論調査の精度も高く、情勢調査が大きく外れることもない。「つまらない」と思われる要素は揃っている。
問題は投票にいかない若者ではない。争点を作ろうとしない、あるいは争点作りに失敗する政治、若者の票を掘り起こそうとしない、あるいは掘り起こすことができない政治の問題と言えないだろうか。
若者に響くのは「規範的なメッセージ」
こうした「つまらない選挙」を前にして、若年有権者に「選挙にいかなければ年長者が得をする」という物言いはどこまで説得力があるのか。政治学者・秦正樹氏(京都府立大学准教授)の論文(※3)によれば、若い有権者は規範的なメッセージ(たとえば投票率の世代間格差は民主主義の運営に悪い影響を与えているといったもの)によって政治的な関心を高める可能性が示されている。
《現在の若年層の政治離れの改善策を考える上では、いたずらに対立を煽ることで関心を高めるのではなく、民主主義そのものの安定性に資する関心の高め方を議論する必要がある。この点について(意外にも)若い人々は、民主主義や選挙に関する「真面目な政治の話」にも耳を傾け》るという。(※3より引用)
10代から政治に関心を持っているという層はさほど多くはない。教育の場でも政治を教えることが満足にできているとは言えない状況で、18歳になった瞬間に政治に対して興味を持てと言われて、持つことができる人が少数になることは容易に想像できる。
「真面目な政治の話」を年長者はしているか
そうであれば、問題はこうした「真面目な政治の話」を、政治家や親世代も含めた年長世代ができているかになる。政治に関心がない若者に真面目なメッセージを届けずに、「若者は政治に関心を持たない」と嘆いているのならばこれほど楽なことはない。全世代で投票が低下している以上、問題は若者に限らない。もし本当に若者が問題だと思うのならば、嘆いている人々は周囲の若者を説得するところから始めることをお勧めしたい。
なお、これは利益を強調するメッセージが無効であることを意味しない。利益を強調するメッセージが有効なのは、就職や結婚、出産といった人生の一大イベントを経験した層だろう。これまでの人生で政治に関心がなかった人が、社会経験を積み重ねる中で政治との接点が増えて、結果的に関心を高めるというのはよくある話である。
先に情勢調査の話を書いたが、今回は各社とも接戦区が増えていると報道されている。選挙区によっては終盤にかけて「おもしろく」なりそうな要素が増えてきそうだ。
何かと若者が嘆きの対象になるが、30歳代、40歳代の投票率も決して高いとは言えない。しかし、これは同時に各政党の新しい支持基盤となりうる人々が大量にいることを意味している。当面は10月31日まで、その後も恒常的にこの層を眠らせず、積極的に掘り起こすような政治を期待したいと思う。
※1:衆議院議員総選挙における年代別投票率(抽出)の推移(総務省)https://www.soumu.go.jp/main_content/000255967.pdf
※2:『選挙が「面白く」なるには』北海学園大学法学部教授 山本健太郎(Voters Vol.55 12頁より)http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/08/voters55.pdf
※3:『「新しい有権者」における政治関心の形成メカニズム ―政治的社会化の再検討を通じて』秦 正樹 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaes/32/2/32_45/_pdf
