下剋上は不可能?真の神戸嬢として必要な“3K”条件に打ちのめされた女
アラサーの神戸嬢を語るには欠かせないある“時代”が、神戸にはあった。
2000年代初期、今なお語り継がれる関西の「読者モデル全盛期」だ。
それは甲南女子大学・神戸女学院大学・松蔭女子学院のいずれかに在籍する、容姿端麗な神戸嬢たちが作り上げた黄金時代である。
しかし時を経て読モブームは下火となり、“神戸嬢”という言葉も、もはや死語となりつつある。
高校時代から神戸嬢に憧れていた姫路出身の寛子。大学入学後は読者モデルデビュー、さらに人気ブランドでのアルバイトが決まり、理想の神戸嬢ライフを手に入れていた。
”神戸嬢”のさらなる高みを目指す寛子だが、そう簡単に進まないのだった。

寛子の人気はうなぎのぼりだった。
入学式スナップを皮切りに菜々子のブランドで働き始めたことで、着実に寛子の名は神戸の中で広まっていたのだ。
お店にも寛子目当てに会いに来る客がつき始め、「神女の寛子ちゃん」から「菜々子のブランドの寛子ちゃん」と呼ばれることが定着。寛子が所属する神女4人グループ、また亜由香率いる南女松蔭7人グループは、神女・南女・松蔭の1回生の中での2大グループとなっていた。
さらに、寛子は甲南の弘孝とデートを重ね、お付き合いを始めた。
そう、このときは何もかも順調だった。
…しかし寛子の順風満帆な女子大ライフに、だんだんと暗雲が立ち込み始めた。
◆
「次のスナップ、神戸読モのおソロアイテム特集で!寛子ちゃん、バレンシアガのクラシックシティ何色持ってる?」
寛子が読者モデルをしている雑誌の関西担当女性ライターから、寛子に電話が入る。
この女性ライターこそが、入学式で寛子をスカウトしてくれた張本人だ。
次の号では、読者モデルの“お揃いかぶりアイテム”を、私物で紹介する特集が行われるらしい。この雑誌の、人気特集である。
憧れの読者モデルたちの、私物ハイブランドアイテムを紹介するこの特集は、高校生の寛子にとって遠い世界のことだった。それが今、自分にもその機会が訪れているのだ。
ハイブランドを持っていない、現実
―そう言えば亜由香はこの間、クラシックシティのマジェンダピンクを持ってたな。
そんなことをふと思い返したが、寛子はバレンシアガなど持ってはいない。
「すみません、私、持ってなくて・・・」
母親が唯一持っていたCHANELのマトラッセ、入学祝いで買ってもらったエルメスのガーデンパーティ。これが、寛子の持っているブランドバッグの全てだ。
「そっか。じゃあ、CHANELの時計、J21は白と黒どっち持ってる?」
勿論どちらも持ってなどいない。入学式にしていたカルティエのタンクは、従兄から借りたのだ。
「ごめんなさい、どっちも持ってないです・・・」
寛子はなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになって答える。
―寛子ちゃん、ごめん。今回は企画に合わなかったから、次回また撮影お願い!
その日の夜、ライターから届いたメールを閉じ、寛子は眠りについた。
◆
「亜由香、今回の号めっちゃ載ってたねー!バレンシアガの新色のイエローも似合ってたし、可愛かったわぁ」
菜々子が、店頭で亜由香を見つけ嬉しそうに褒めている。
ブランドのプロデューサーという立場上、菜々子は時々店頭に顔を出しスタッフに声をかけて回る。今日は、寛子も亜由香も出勤していた。
亜由香は、この間発売された“神戸読モおソロアイテム特集”で、かなり大きく取り上げられていたのだ。それを見つけたらしい菜々子は、誇らしそうな顔であった。
「うちのブランドの服もいっぱい着てくれてたし、ありがとうー!」
菜々子にハグをされながら褒められている亜由香もまた、満面の笑みである。

菜々子がお店に入ってくると、店内がぱっと華やぐ。身近なスタッフたちにとってもやはり、憧れの存在なのである。
菜々子はまだ発売前の新作のワンピースを着こなし、頭の先から爪の先まで、いつも完璧に整えている。まだ入ったばかりの寛子はなかなか会う機会がなく、まるで好きな芸能人に会えたファンのように、心は昂ぶっていた。
そして亜由香と楽しげに話していた菜々子の目に、ふと寛子の姿が目に留まったようだった。
「あ、寛子ちゃん、だっけ?いつもありがとう」
菜々子との初対面に、思わぬ横やりが・・・!
菜々子はそう言って近づいてくると、寛子の目をまっすぐに見つめ微笑んだ。神戸女学院一のお嬢様である由美子もそうだが、神戸で出会う芯が強い女性は決して揺るがないような強い瞳の人が多いなと、思う。
「いえ、憧れの菜々子さんのブランドで働けてるなんて、めっちゃ嬉しいし楽しいです!」
これは本心だった。寛子にとって菜々子は憧れであり、この店で働くこともまた夢であった。今、その菜々子を前に言葉を交わしているのだ。
すると緊張と嬉しさで頬を赤らめていた寛子に、亜由香が近づいてこう言い放った。
「そう言えば、寛子、今回の撮影呼ばれへんかったんやろ?いつも一緒やから、今回も楽しみにしてたのに。寛子ちゃん呼びたかったんやけど、私物がなくて呼べなかったってライターさん言ってたで」
「そうなん?そっかあ。寛子ちゃんにも今度うちのWEBでモデルしてもらいたかったんやけど・・・あかんな」
雑誌だけではない。菜々子のブランドのWEBモデルを務めるには、私物を織り交ぜたコーディネートが必要だったのだ。
新作のブランドバッグやアクセサリーにシューズ。それにスタッフの個性豊かなハイブランドMIXコーデが求められる。
それは、ファッションに限られた話ではない。
仲の良い家族との豊かで華やかな生活、お金持ちで有名な彼氏や旦那。きらびやかなプライベートも露出することで、さらなるファンを増やしていくのだ。
そう、誰もが羨む正真正銘の“神戸嬢”になるには、3つの“K”が必要なのだ。
兵庫ではなく「神戸であること」、親のバックボーンが問われる「金銭」、そしてハイスペな「彼氏」。
「顔」は勿論だが、この3K以上には重要視されないのである。

―例え美しい香りは同じでも、決して同じバラではない・・・。
亜由香の言葉に悔しさでいっぱいになったが、結局何も反論できず、寛子は自分の置かれている状況に強烈な違和感を持つのであった。
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神戸嬢であることに違和感を覚えながらも、寛子はまた強烈な洗礼を浴びる・・・!
