「緊急ボブルヘッド会議」に招集された……

 3月中旬、一通のメールが届いた──。

 そこには、「ボブルヘッド制作に興味がありませんか?」と書かれてある。差出人は某パ・リーグ関係者。なぜ、門外漢の僕にそんな連絡が来たのか驚いたけれども、実は心当たりがあった。昨年出版した拙著『このパ・リーグ球団の「野球以外」がすごい!』(集英社刊)の中で、僕は「ボブルヘッド似てない問題」を大きく取り上げ、ボブルヘッドがいかに似ていないかを実例を挙げて検証し、「各球団とも、今後一層の努力をすべし!」と上から目線で書いた。


かつて長谷川氏が「似てない」とダメ出しをしたボブル君たち
 おそらく、その部分を根に持って、「そこまで偉そうなことを言うのなら、オマエもボブル制作の苦労を味わってみろ!」と挑戦状を叩きつけられたのだろう。……被害妄想だろうか。いや、絶対に根に持っているに違いない。恨んでいるに違いない。ならば、その挑戦、受けて立とうではないか! 日頃から、日本におけるボブルヘッド界(通称・ボブ界)の発展を願っている僕にとって、絶好のチャンスだ。こうして僕は「緊急ボブルヘッド会議」に馳せ参じることになったのだ。

「来るなら来てみろ、返り討ちにしてやる!」とケンカ腰で臨んだミーティングだったが、そこにいたのは穏やかな表情で微笑む3人の男女。しかし、これは罠だ。油断してはいけない。3人の刺客は、ボブルヘッド開発を手掛けるO.S.M.取締役の伊達泰三氏、女性ファン代表・最所麻美さん、そして「近々、新たなボブルヘッドを作る予定」だという北海道日本ハムファイターズ・川尻裕一氏。さらに、パ・リーグ6球団が出資して誕生したパシフィック・リーグ・マーケティング(PLM)の面々が僕らの周囲を取り囲んでいる。

(卑怯者め。寄ってたかって、オレを叩きのめすつもりか……)

 かくして、「緊急ボブルヘッド会議」は始まった──。


袋叩きに備えて戦闘モードで現れた長谷川氏(左)に対し、ボブル制作の現実や苦労を諭すように説く伊達氏


 最初の議題は「ボブルヘッドはもらって嬉しいのか?」。この問いに関する僕の答えは明確だ。「嬉しいに決まってる!」。そこで、僕は自分の思いを披露する。

「各球団とも来場時プレゼントが充実しているけれども、特にボブルヘッドは立派な箱に入っていて、重量感もあり、家で飾れるという利点もあり、僕は大歓迎。ぜひ、各球団にもっと採用してもらいたい!」

 この会議の席上、メジャーリーグにおける来場時プレゼント、いわゆるギブアウェイ(giveaway)は「Tシャツかボブルヘッドがダントツで多い」のだと知った。アメリカでは「ボブルヘッドカルチャー」が定着しているが、日本ではまだまだ「ボブカル」は定着には至っていない。伊達氏によると、その理由は、アメリカの広大な住宅事情ではディスプレーするスペースも潤沢であり、そもそも「飾って見せる」という文化が根強いからだという。すると、最所さんは「仕事場のデスクにも飾れるように、もう少し小さくてもいいのでは?」と提案。なるほど、僕にはその考えはなかった。さすが、女性目線だ。

 現状のボブルヘッドは7インチ(約18cm)と5.5インチ(約13cm)の2種類がある。僕は重量感もあって、迫力もある7インチ派なのだが、これからは3インチ(約8cm)など、従来よりも小型のものがあってもいいのかもしれない。余談だが、今の技術なら、等身大ボブルヘッドも制作可能なのだそうだ。193cmで躍動する大谷翔平のボブルがぜひ見てみたい。札幌ドームの入場ゲートに飾るだけでも、いいアイコンになるのではないだろうか?

ボブル工場には伝説の「凄腕中国人原型師」が!

 それにしても、伊達氏の話は実に興味深かった。「ボブルヘッドの素材は、主にポリストーンとポリレジンがあり、あの重量感を出すためにはポリエステルに石を混ぜたポリストーンがいい」そうだ。さらに、ポリストーンは、「人間の肌色に近い色を出しやすい」のだという。なるほど、塗料の発色のことなど今まで意識したこともなかった。やはり、専門家の言葉は深い。

 続いて、議題は「ボブルヘッドの顔について語ろう」へと移っていく。まさに、「ボブルヘッド似てない問題」の根幹にかかわるテーマだ。伊達氏は言う、「去年から3Dスキャンを導入することで、格段に似るようになった」と。確かに、昨年のヤクルトで導入された山田哲人、川端慎吾、畠山和洋の3Dボブルは近年では出色の出来だった。これらのボブルの制作も伊達氏が手掛けたのだという。

 3Dスキャンで一度、型を作り、その型に粘土を詰めて原型を制作。さらに、伊達氏の指示で、「その選手の特徴を強調するアレンジを加える」のだそうだ。驚いたのは、実際にボブルが制作される中国の工場には、「伝説のボブル職人」がいるということ。その凄腕中国人原型師は、一度も見たことのない日本人選手の特徴を、写真だけで判断し、きちんと原型に落とし込むことができるのだそうだ。もしも、彼に不測の事態があって、ボブル作りができなくなった場合、日本のボブ界は大打撃を受けることだろう。たのむ職人、いつまでもお体に気をつけてください!

 ここまで会議が進み、3Dなどハイテクの波がボブ界にもおよび、そこに人間の職人技によって、より似せるための努力が行われていることがわかった。それぞれの立場のプロフェッショナルが苦労している現実を目の当たりにして、「そこまで頑張っているのだから、多少似ていなくてもいいではないか」という気になってくる。……いや、ダメだ。日和ってはいけない。やるからには徹底的に似せる。そこは譲ってはいけないのだ。


女性目線の意見を述べる最所さんと、ずっと何か言いたげな様子だった日本ハム・川尻氏
 続いてのテーマは「ボブルヘッドのポーズについて語ろう」だ。拙著でも書いたが、スポーツ選手ボブルの場合、「顔と動きの複合技」で似せることは可能だし、むしろ、その選手の特徴的なプレーシーンをきちんと切り取ることこそ、ボブル制作のキモなのだと思う。そんなことを偉そうに述べたところ、日本ハム・川尻氏が突然切り出した。

「実は、うちでは大谷翔平の《二刀流ボブルヘッド》を作ろうと思っているんです。打者版、投手版の2体のボブルです。実は、今日集まっていただいたのはその開発の参考にするためなのです!」

 なるほど、ようやく今日のテーマが見えた。「大谷翔平の二刀流ボブル」の制作において、少しでもお役に立てるのならば光栄だ。無駄な敵対心を持つことはやめて、素直な意見を開陳しようではないか! 

 そして、川尻氏はスクリーン上に次々と大谷翔平の代表的なシーンを映し出す。なるほど、どれを見ても、いかにも「大谷らしい」場面ばかりだ。その中には、僕がイメージする大谷翔平のプレーシーンもあった。一応、「これがいい」とコメントしたものの、ポーズはファンの投票によって決まるらしい。はたして?

 会議は、さらに白熱する。以下、後編にて……。

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