12月9日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、金星探査機「あかつき」(PLANET-C)の金星周回軌道への投入成功を発表した。

ご存知のように、金星は地球のすぐ隣にある兄弟惑星。地球よりも内側の軌道を回っているため、地球から観測できる時間帯は明け方や夕方に限られ、太陽や月に次いで明るく輝く姿から「明けの明星」「宵の明星」の名前でも知られる。

しかし、「地球型の惑星で、大きさもほぼ等しく、大気もある」といっても、その環境は地球とは大きく違う。濃密な大気の成分は、ほとんどが二酸化炭素。分厚い硫酸の雲で覆われており、地表面の温度は400℃以上、気圧は約90気圧にも達する。美の女神「ヴィーナス」の名で呼ばれながら、その実は、とんでもなく高温で高圧の過酷な世界なのだ。

しかもこの大気は、上空60kmで時速400kmにも達する猛スピードで、常に自転と同じ方向に(そして自転よりはるかに速く)吹き荒れている。この金星全体をめぐる突風を「スーパーローテーション」(ヘビーローテーションではない)と呼ぶ。その不思議な現象がなぜ起きるのか。そして硫酸の雲はどう出来上がるのか。さらには、その雲の中や雲の下で、どんな気象現象が起きているのか。それらを解き明かそうというのが、「あかつき」のミッションだ。

これまでも地球以外の惑星の周回軌道に入る、つまり「他惑星の人工衛星」になる探査機はいくつかあったが、こうした気象探査に特化したものは初めて。「世界初の惑星気象衛星」とも呼ばれるゆえんだ。

もっともこの「あかつき」、実は2010年5月に打ち上げられ、予定では、その約半月後、2010年12月7日には金星の周回軌道に入る予定だった。しかし同日、金星周回軌道投入マヌーバが開始されたものの、主エンジンのトラブルにより失敗。「あかつき」は金星周回軌道でなく、金星軌道のやや内側で、大きく太陽を回る軌道に乗ってしまったのだった。

この時、プロジェクトマネージャの中村正人氏は、金星周回軌道投入失敗を受けて次のようなメッセージを発している。

12月7日に実施した金星周回軌道投入中、金星探査機「あかつき」は思いもかけぬ事態に遭遇したと考えられ、残念ながら今回の軌道投入は失敗に終わりました。プロジェクトメンバーは悔しい思いをかみしめていますが、それは応援してくださった皆様も同じだと思います。
幸い私たちはまだ「あかつき」を手の内にしています。ミッションは失われたわけではありません。……(後略)

普通に考えれば、予定の周回軌道に乗れなかった探査機は、もう果てなく宇宙をさまようしかない。しかし、「幸い私たちはまだ『あかつき』を手の内にしています。ミッションは失われたわけではありません」という言葉は嘘ではなかった!

太陽周回軌道を回りつつ、再び金星に接近する機会を狙って細かく軌道や姿勢を制御。雌伏5年、前回失敗と同じ12月7日に姿勢制御用エンジン噴射を開始し、今回は見事、周回軌道入りを成功させたのだ。今回の投入にあたっては、不具合を起こした主エンジンは使用せず、姿勢制御用エンジン4基のみを使用したという。ちなみに、「あかつき」の基本システムは、小惑星探査機「はやぶさ」の設計を受け継いだものとか。それに加えて、どんなトラブルからも復活してみせるしぶとさも受け継いでいるのでは、と思わなくもない。もちろん、その飛行を支え、解決策を見出したスタッフの努力あってのことなのだが。

ちなみに写真は、2015年12月7日14:19頃(日本時間)、姿勢制御用エンジン噴射後に、「あかつき」が搭載する紫外イメージャ(UVI)が撮影した金星画像だ(JAXA提供)。

現在、「あかつき」は金星周回周期約13日14時間、金星に最も近いところ(近金点)は高度約400km、金星から最も遠いところ(遠金点)は高度約44万kmの楕円軌道を飛行中。今後、約3か月間の初期観測を行うとともに、軌道制御を行い、金星周回周期9日の軌道へと移行。2016年4月ごろから定常観測に移る予定だ。

太陽からの距離、大きさも似通った2つの惑星(金星と地球)が、なぜこれほどまでに環境が違うのか。金星の謎を解き明かすことは、すなわち、地球がなぜ今のような姿になったのかをより深く理解することにも繋がるという。「あかつき」が今後、どんなデータを届けてくれるのか、そこから何がわかるのか、なかなか楽しみだ。

なお、12月14日には、小惑星探査機「はやぶさ2」が軌道と速度を修正する「地球スイングバイ」を成功させ、目標の軌道を順調に飛行中であることも発表された。こちらのミッション成功も合わせて応援したい。