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トランプ政権による減税政策が、意外な層に恩恵をもたらしている。これまでトランプ大統領を支持してこなかった高所得の民主党支持者たちが、州税や固定資産税を大幅に所得控除できる「SALT控除」拡大によって、多額の税還付を受け始めているのだ。背景には、州ごとに税率や制度が大きく異なるアメリカ特有の税制がある。税金の違いが人の移動や居住地選択にまで影響を与えるアメリカの現実は、日本の東京一極集中問題にも示唆を与えている。4月末に『トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か--税制が映し出すアメリカの真実』を刊行した奥村眞吾税理士が、米国の還付制度について解説します。

民主党支持者にも広がる“トランプ減税”の恩恵

トランプ大統領に投票しなかった高所得の民主党支持者が多い地域で、税金の還付額が増えている――そんな現象がアメリカで起きている。

背景にあるのは、トランプ政権下で進められた「SALT控除(州・地方税控除)」の拡充だ。2025年の税制改正により、州税や固定資産税などを連邦所得税から差し引ける控除額の上限が、従来の1万ドルから4万ドルへと大幅に引き上げられた。

恩恵を受けているのは、年収15万ドル(約2,400万円)から60万ドル(約9,000万円)程度の、アメリカでいう「中間層」の高所得者だ。

日本では想像しにくいが、アメリカでは住民税や固定資産税の一部を所得税から控除できる仕組みがある。つまり、地方税を多く支払っている人ほど、連邦所得税の負担が軽くなるのである。

なぜ高税率州ほど恩恵が大きいのか

今回の制度変更によって恩恵を受けているのは、必ずしも共和党支持者だけではない。

特に恩恵が大きいのは、州税や固定資産税の負担が重い地域に住む高所得層だ。ニューヨーク州、ニュージャージー州、カリフォルニア州、マサチューセッツ州などは、いずれも民主党支持者が多い「ブルーステート(民主党州)」として知られている。

日本の場合、豪邸に住み高額な固定資産税を払っている人も、賃貸マンション暮らしの人も、所得が同じであれば所得税額は基本的に変わらない。しかしアメリカでは違う。州税や固定資産税の負担が重い地域に住むほど、今回の制度変更による減税メリットが大きくなる。

そのため、高税率州ほど「トランプ減税」の恩恵を実感する人が増えているのである。

「トランプに耐えたご褒美」…民主党支持者の本音

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、所得税還付額はカリフォルニア州で21%増、バージニア州で13%増、メリーランド州で12%増加した。

一方、州所得税のないフロリダ州やテキサス州では、それぞれ6%増、5%増にとどまった。固定資産税の負担はあるものの、もともと州税が存在しないため、控除拡大による恩恵が限定的だったためとみられている。

WSJの取材に応じたマサチューセッツ州の住民は、年間2万4,000ドル(約360万円)の固定資産税を支払っているが、「トランプに耐えなければならなかったことへの“贈り物”だ」と語った。民主党支持者であっても、減税メリットを歓迎している実態が浮かび上がる。

労働者向け減税も打ち出すトランプ政権

トランプ政権は、富裕層向け減税だけではなく、残業代やチップ収入への非課税措置など、労働者向け減税も打ち出している。

共和党は従来、「富裕層優遇」のイメージが強かった。しかし現在は、中間所得層やサービス業従事者などにも減税メリットを訴えることで、一部の民主党支持層の取り込みを進めている。

もっとも、このSALT控除拡大には条件もある。対象となるのは、州税・地方税、住宅ローン利息、慈善寄付金などの合計が標準控除額を超える人だ。標準控除額は、単身者で1万5,750ドル、夫婦合算で3万1,500ドル。また、所得が60万ドル(約9,000万円)を超えると、控除上限は再び1万ドルへ縮小される。

その意味で、この制度は「超富裕層」よりも、高税率州に住む高所得の中間層に強い恩恵を与えているのである。

アメリカは「税金で人が動く国」

興味深いのは、この税制が「人の移動」に影響を与えている点だ。

アメリカでは州ごとに税率や医療制度、補助金制度が異なる。住民税ゼロの州もあれば、高税率州もある。今回のSALT控除拡大によって、「高税率州に住むデメリット」が一部相殺されることで、居住地選択にも変化が生じ始めている。

つまりアメリカでは、「どこに住むか」がそのまま「どれだけ手取りが残るか」に直結しているのである。

一方、日本では北海道に住もうが、沖縄に住もうが、八丈島に住もうが、所得税率は原則として同じだ。行政サービスやインフラが集中する東京に人が集まり続けるのも、ある意味では当然ともいえる。

東京一極集中を変える鍵は「税制」か

日本では地方創生政策として、補助金や移住支援制度が数多く実施されてきた。しかし、生活コストや手取り額に大きな差がなければ、人の流れを根本的に変えることは難しい。

もし東京一極集中を本気で是正したいのであれば、「この地域に住めば、これだけ手取りが増える」という明確なインセンティブを地方に設ける必要があるのではないか。

アメリカの税制を見ると、税負担の差は単なる財政政策ではなく、人や企業の流れを左右する“移住政策”として機能していることがよくわかる。

税制は、単に税金を集める仕組みではない。「人をどこに住まわせるのか」を決める力も持っているのである。

奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表