「一蘭」中国の丸パクリ店舗に“法的措置”示唆も…勝ち目はあるか? 「無印良品」は25年間訴訟で一部“敗訴”
今年5月、福岡発祥の人気ラーメンチェーン「一蘭」のロゴなどを模倣した「本日一蘭拉麵」なる北京のラーメン店が話題となった。
SNSなどで画像が拡散した偽のロゴと本物を見比べると、具体的なデザイン表現、フォントも含めほとんど同一と言ってもいい。
さすがに言い逃れ不可能では、と思うが、北京側店舗の店主は模倣を否定したという報道もある。
過去を振り返ると、中国での模倣トラブルはさまざまなものが我が国でも報じられてきた。
「先に中国企業に商標権を取られていた」という事態も珍しくなく、法制度や慣習の違いから「明らかにマネされているのに、解決は一筋縄ではいかない」という印象を持たれている方も多いだろう。
一蘭はメディアの取材に対して「法務部で対応を検討している」とのコメントも出しているが、果たして、この問題を解決するうえでのハードルはいかほどのものだろうか。(本文:友利昴)
ほぼ完全コピーなのに中国で摘発するのは難しい?一蘭のロゴは、上から見たラーメンのどんぶりを抽象化したデザインだ。円形の黒い背景は「有田焼のどんぶり」。炎のような赤い模様は「赤い秘伝のたれ」。左下の緑色の図形は、どこかの地形のようにも見えるが、これはトッピングのネギを抽象化したものだという。
こうした特徴は、偽のロゴでもほとんど忠実に再現されている。異なるのは細部のみだ。アルファベット表記の「ICHIRAN」について、偽のロゴは「ICHRAN」と「I」がひとつ足りず、「ネギ」の形も違う。
そして、一蘭の創業年が1960年であることを示す「昭和35年創業」の一文が、「建國65年創業」になっている。図々しくも、自分たちの方が古い歴史を持つとでも言いたいのか?と、一瞬思ったが、中国(中華人民共和国)の建国年は1949年なので、そこから65年という意味なら2014年創業だ。そこは謙虚なのだろうか……。
ともあれ、特徴的な要素はほぼ完全にコピーされており、商標権侵害の疑いは濃厚だ。一方、中国における商標トラブルといえば、本家による権利行使や取り締まりが一筋縄ではいかなかった例も少なくない。
無印良品、クレヨンしんちゃん…ニセ商標に本家が負けた!?たとえば、2025年、「無印良品」でお馴染みの良品計画が、中国で同名(正確には簡体字で「无印良品」)の店舗を展開する中国の北京棉田という企業と商標をめぐって最高裁まで争ったが敗訴した、という報道がなされている。
この事件は、2001年に、良品計画が中国企業に商標登録された「无印良品」に対して異議申立を行ったことに端を発する。その後、互いに40件以上の民事・行政紛争を提起し合い、25年経った現在も完全解決はしていない。
昨年最高裁が認定したのは、北京棉田の「无印良品」の商標権の有効性で、これにより、本家・良品計画が中国国内でタオルなどの一部商品について「無印良品」の商標は使えないことがほぼ確定してしまった。これが敗訴と報じられたのだ(なお、同社はタオルなどについては「MUJI」の商標を使用しているため影響は限定的としている)。
また2004年には、中国で販売されていた「クレヨンしんちゃん」の正規グッズが、先に商標登録していたという中国の業者の申し立てによって、本家であるにもかかわらず店頭から撤去されるという事件も起こっている。
権利元の双葉社が商標権の無効を訴えるも2008年に敗訴。その後2012年までにようやく中国業者側の著作権侵害などを理由に逆転し、商標権の無効化が認められている。
ニセ商標対策が難しいのは過去の話? 最新の現地事情とはこうした過去の出来事から、中国では、「本家」であってもニセ商標を排除するのに大変な時間と労力が必要で、ときには「本家」なのに敗訴することすらある「無法地帯」のイメージを持っている人も多いだろう。
しかし、一定の難易度は今も残されているとはいえ、無法地帯というほどの状況は、今日では過去のものになりつつある。2020年頃を境に、中国のニセ商標トラブルは、以前よりは解決しやすくなっているのだ。
潮目を変えたのは、2019年に中国の商標法が改正されたことだ。中国での商標トラブルに悩まされてきた日本や欧米など諸外国の外圧などによって実現したこの法改正で、「悪意による商標出願は拒絶する」という条文が新設されている。
さらに2021年、2022年には、日本の特許庁にあたる国家知識産権局が、「悪意による商標の不正出願行為に対する取り締まり」に関する行動計画や指針を相次いで打ち出し、2021年には50万件近くの不正出願を拒絶したことが公表されている。
こうした政策により、不正な商標登録によって本家の事業や権利行使が妨げられる事態は、以前よりもだいぶ改善されているのだ。
なお、上記の指針では「他人が用いる、比較的知名度の高い、または独創性の高い商標についての不正な先取り」や「著名な作品またはキャラクターの名称に対する不正出願」などが取り締まりの対象と明記されている。
もしも「無印良品」や「クレヨンしんちゃん」の不正商標出願が2020年代の出来事であれば、そもそも登録にならなかったか、本来の権利者の異議申立によって早期に権利が取り消されていた可能性は高い、と筆者は見る。
一蘭のニセ商標にはどんなものがあるのか?では、一蘭の場合はどうか。同社は、これまで中国大陸に本格的な出店はしていないものの、2010年代から訪日外国人観光客に高い人気を誇っており、中国での知名度は高い。それゆえというべきか、案の定、複数の中国企業や個人が中国で商標登録を次々と試みている。
画像はその一部だが、この他にも実に40件近くの「ニセ一蘭」が、最近に至るまで商標出願されており、現地の事業者のモラルに疑問を感じざるを得ない。もっとも、上で述べた政策の影響もあり、それらのほとんどは登録になっていない。本家・一蘭の事業や権利行使の妨げにはならないだろう。しかし、早いものは2000年代初頭から出願されており、その一部は登録されてしまっているものもあった。
一方、本家・一蘭の中国での商標出願もまた早く、2008年には中国への商標登録を試みている。それ以前に商標登録されていた「ニセ一蘭」のせいで、かなり手こずった形跡が見られるものの、2017年にはラーメン店の分野で登録を得ている。
本家・一蘭が「ニセ一蘭」に勝つための戦法これにより、今般北京で発覚した「ニセ一蘭」を、本家・一蘭が摘発するための権利はそろっているといえる。
しかも、今日の北京や上海のような大都市圏では、警察や行政機関の知的財産権に関する理解があり、模倣品を取り締まろうという規範意思も高い(地方の一部では、司法・行政の知識不足や、捜査情報を被疑者に横流しするなどの問題もまだ残っている)。今の中国であれば、摘発は十分に成功すると思われる。
唯一気がかりなのは、本家・一蘭が中国に出店していないことだ。中国では、登録商標が国内で3年間使われていなければ、その権利は取り消しの対象になる(これは日本含めどこの国にもある制度である)。また、民事訴訟において損害賠償請求を行っても、賠償が認められないことがある。
このような場合、万が一商標権が取り消されてもリカバーが利くように、費用はかさむが、再度商標出願したうえで、警告や摘発などの法的措置を取り、損害賠償よりも差し止めに重きを置くという戦法が奏功する。
すでに当該の「ニセ一蘭」は退店しているという報道も見られるが、本家・一蘭には、毅然とした対応を期待したい。
■友利昴(ともり・すばる)
作家。企業で知財実務に携わる傍ら、著述・講演活動を行う。ソニーグループ、メルカリなどの多くの企業・業界団体等において知財人材の取材や講演・講師を手掛けており、企業の知財活動に詳しい。『明治・大正のロゴ図鑑』『知財部という仕事』『エセ著作権事件簿』の他、多くの著書がある。1級知的財産管理技能士。
