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栃木県上三川町の住宅で、女性が殺害された強盗殺人事件。押し入った16歳の少年らは、指示役とみられる夫婦にリアルタイムで指示を受け犯行に及んだと報じられている。また少年らは「家族や友人を殺す」と脅されたとも供述しているという。

仮に、そのように脅された場合、犯罪の成否に影響するのだろうか?澤井康生弁護士に聞いた。

闇バイト強盗事件家族や友達を殺される」は言い訳にならない

栃木の闇バイト強盗殺人事件について逮捕された実行犯の少年らは、家族や友達を殺されると脅されて仕方なく強盗を実行したなどと弁解しています。

仮にそのように脅されたのが事実だったとしたら強盗罪の違法性が阻却されて犯罪不成立になるのだろうか?というのが刑法でいう「強制による行為と緊急避難」の問題です。

緊急避難は正当防衛と同じようにその要件が具備された場合には違法性が阻却され適法行為となる違法性阻却事由です。

ただし、正当防衛の場合には不正の侵害に対する防衛行為であるのに対し(刑法36条)、緊急避難の場合には避難行為により侵害する対象が正の存在であるため、その要件が厳格に規定されています(刑法37条)。

具体的には法益権衡の原則といって、守ろうとする法益が侵害しようとする法益よりも大きくなければなりません。つぎに補充性といってその行為が危難を避けるための唯一の手段であったことも必要です。

以上より正当防衛は正対不正の関係であるのに対して、緊急避難は正対正の関係であることから、その要件が厳格であり、そう簡単に認められるものではないということになります。

●過去の判例では?

今回の強盗殺人事件にあてはめると、家族や友達を殺されると脅迫されたとしてもそれだけではあまりに抽象的で具体性のない脅迫であり、緊急避難の要件である現在の危難があるとは認められません。

参考判例として東京地裁平成8年6月26日判決(オウム真理教集団リンチ殺人事件)があります。

これは自身も教団施設に監禁されている状況下で、教団幹部から他人の殺害を命じられ「できなければお前を殺す」と脅されて殺害に及んだ事件ですが、「近い将来侵害を加えられる蓋然性が高かったとしても、それだけでは侵害が間近に押し迫っているとはいえない」と判断されています。

次に、守ろうとする家族や友達の生命と強盗殺人で殺害してしまった被害者の生命は等価値なので法益権衡の原則も満たしていません。

さらにそのように脅されたとしても途中で逃げ出して警察に通報するとか、両親や学校の先生に相談するなど他に取りえる選択肢はいくらでもあったことから、補充性も満たしていません。

そうすると本件では仮に指示役から家族や友人を殺すと脅迫された場合であっても強盗殺人行為について緊急避難は成立せず、違法性が阻却されることはないことから、少年らには強盗殺人罪の実行共同正犯が成立します(刑法240条後段、60条)。

●強盗殺人罪は「死刑」又は「無期拘禁刑」

強盗殺人罪は法定刑が死刑又は無期拘禁刑しかない重大犯罪です。少年の場合には少年法51条で死刑を科すことはできず無期拘禁刑ということになりますが、それでも無期拘禁刑というのは重い極刑です。

指示役から家族や友人を殺すと脅迫された場合であっても、法的には何の言い訳にもなりません。絶対に闇バイトに加担しないように注意しましょう。

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(2等陸佐、中佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/