《自転車の青切符》導入も…「どんな罰則でも娘は戻らない」娘を亡くした両親の願い「悲しい事故が減るために」
およそ2年前、高校2年生だった群馬県前橋市の田中友さん(享年16)が、自転車で登校途中に車と衝突して亡くなりました。今月から16歳以上に自転車の青切符が導入され、各地で取り締まりが広がるなか、友さんのご両親は法律が実情と見合っていないことに不安を抱きます。
【写真】「未来ある16歳の命が一瞬で奪われ」事故の衝撃で大きく曲がった自転車や事故現場の写真(全7枚)
警察庁によると、交通事故の件数が減少傾向にあるなか、自転車関連の事故は横ばいで推移。なかでも群馬県は、中高生の自転車事故率が11年連続して全国ワースト1位です。全国の高校生を対象にした調査では、通学に自転車を利用している割合が最も高いといい、学校生活に欠かせない交通手段となっています。交通事故を防ぐために今、本当に見直すべきことを考えます。
事故から2年 悲しみは大きくなり
「『いってらっしゃい、気をつけてね』『はーい』。
これが、娘との最後の会話でした。身支度に時間がかかる年頃で少し急いではいましたが、いつもと変わらない朝で。今思えば、時間に余裕を持つよう声をかけていれば、この事故を免れることができたのかもしれません。親としての私の行動が至らず、娘に申し訳ない気持ちでいっぱいです」(母・夏樹さん)
涙ながらに胸の内を話してくれたた、田中友さんの母・夏樹さん。およそ2年前の6月11日、自転車で学校に向かっていた高校2年生の娘を交通事故で失いました。
「娘に恥ずかしい思いはさせまいと、つらいことから背を向けないと決めました。でも、お骨になった娘と帰宅した日から、寂しさは大きくなるばかり。あの日の朝に娘が使った歯ブラシは今も洗面所のスタンドに立ったまま。ピンやヘアゴム、シャンプーなど、娘が使うはずだったものが、使われることなく家中に散らばっています。ふとした瞬間の涙はこらえきれませんし、ひとりになる時間は耐えきれない感情にのまれることも多くあります」(母・夏樹さん)
高校から自転車通学を始め、学校までおよそ5キロの道のりを、20~30分かけて自転車で通っていた友さん。自転車通学を禁止している学校もありますが、全国では自転車を通学手段にしている高校生の割合が最も多いのが現状です。
「うちは山間部に近い場所で、もっと遠くから通っている子も多いです。バスは本数が少なく、電車も学校のルートにはありません。TSマーク(賠償責任保険と傷害保険がついた、整備士が点検確認した自転車)がついた自転車であれば、距離や通学時間の制限はなく、誰でも希望したら自転車で通学ができました」(母・夏樹さん)
両親は当日の朝、仕事に向かうため、友さんが家を出てからわずか5分後に車で同じ道を通った際に事故に気づきました。
「自転車が道路に倒れているのが見え、まさかそれが自分の子だとは思わず『朝から事故に遭うなんてかわいそう』と思いました。でも、数秒後にサイドミラーから見えた制服が娘と一緒だと気づいて。後ろを車で走っていた夫と共に車を急いで停め、『ゆうちゃん、ゆうちゃん』と何度も呼びかけました」(母・夏樹さん)
事故現場を訪れてわかった道路の危険性
現場は、片側1車線の見通しが悪いカーブで、道路の右側を自転車で走行していた友さんは、坂道を登ってきた車と衝突。道路交通法で自転車は軽車両にあたり、車と同じ道路の左側の端を走行しなければなりません。4月から導入された自転車の青切符の対象になる「逆走」でした。
逆走したから、事故に遭った──。
当初、両親はそう思っていたそうです。ところが、事故現場を訪れてみると、ルールを守ったとしても安全に通れない可能性がある道だったことに気づいたといいます。
「道路の左側には保育園があり、朝はお子さんを送る保護者の車が行き交います。また、すぐ近くには運送会社が2軒あり、大型トラックの出入りがありました。左側を走行して、何度も車の前で停まり、安全確認をしながら走行するという選択ができたらよかったと思うのですが…。右側を走ればそういった車の干渉はなく、向かってくる車は上り坂なのでそこまでスピードを出しているわけではないということに気が付きました。事故のあと、現場の道路には減速を促す看板がつけられました。逆走を正当化するつもりはまったくないのですが、右側を走る理由があったのではと感じています」(父・智宏さん)
事故が起きた道路の右側は、空き家から伸びた草木で見通しが悪いカーブ。近隣住民から「危険のサイン」があった場所だったそうです。
「草木が横は車道に、上は電柱にまで伸びていて。見通しが悪くて危ないと何年も前から市には苦情が入っていたそうなんです。市の職員が、少し伐採はしていたようなのですが…。事故のあと、立入許可を経て、道路から空き家に向かって2~3メートル先まですべて伐採され見通しがよくなりました。もっと早く対応してもらえたら状況は変わっていたのかもしれないと思うと、虚しさだけが残ります」(母・夏樹さん)
友さんが事故に遭った道路の横には白線があり、路側帯は70センチほど。畑に向かう高齢の方以外、ほとんど歩行者はいないそうですが、白線の内側の歩道には蓋がされていない側溝が多く、友さんは事故の衝撃で側溝に転落したそうです。
関東交通犯罪遺族の会「あいの会」の小沢樹里代表によりますと、都市部と違って地方では、自転車道の整備が十分とは言えず、車道においても車同士がすれ違うのがギリギリの幅のところも多く見受けられるといいます。
「大型車両の通行量も多いなかで、自転車利用者にとっては常に危険と隣り合わせの環境です。友さんの事故も、通っていた道路の安全が十分に確保されていない状況下で起きたものと考えています。個人の行動だけではなく、道路の環境整備から考え直す必要があると感じています」(小沢代表)
自転車が車道を走るのは安全か
自転車の安全はどう守るべきか──。
4月から自転車に青切符が導入され、信号無視やスマホのながら運転、傘さし運転など113の項目が違反行為の対象となりました。一方で、項目の多さやわかりにくさ、道路の実情に合っていないことなどが指摘されています。
「青切符が始まって、通勤途中に『自転車が車道に出始めたな』と思うことは増えました。自転車は車両の一種で、車道を走行するというルールは理解できます。自転車と歩行者の事故も多いので、自転車側の責任を増やしていかねばならないというのもわかるのですが、群馬県で実際にすべての自転車がルールを守って車道を通ることになれば自殺行為に近いものがあると感じています」(父・智宏さん)
交通インフラの整備や、道路標識、自転車レーンの設置が追いついていないなかでの青切符の導入。
道路交通法で自転車は、13歳未満や70歳以上の方、安全確保のために歩道を通行することがやむを得ないと認められた場合などに限って、歩道を通行することができると定められていますが、実際には車道の左側を走行していた自転車が車に轢かれる交通事故も発生しています。
「ルールを守っていた子どもたちが事故に巻き込まれたニュースを見ると、何が正しいのかわからないと感じることも多いです。法律を守っている子どもたちが命を落とす危険があるなんて。決して歩行者の安全を軽んじているわけではありませんが、『罰金を払ってあげるから、歩道を走りなさい』と子どもに言う親もいるという話を聞いたことがあります。
私も普段、仕事などで車に乗る機会が多く、生活のなかで車は切り離せませんので、責任を感じながら運転しています」(母・夏樹さん)
罰則より必要な「教育の機会」
友さんの両親は、16歳以上の自転車の青切符導入について「罰則よりも教育の機会があれば」と話します。
「小学4年生から学校で年に1回、自転車安全教室があったのですが、自転車に毎日乗ることになった高校生になってからはありません。16歳というのは、社会では大人として扱われることも多い年齢ですが、まだまだ楽観的、衝動的な行動もあって実際にはわかりきっていないことも多いです。高校生活はこれから社会に出るための準備期間で、社会に出る前にもう一段階、手厚いケアが必要な時期だと感じます」(母・夏樹さん)
いくら罰則が増えても、娘は絶対に戻ってこない──。両親は、友さんが亡くなった後に届く郵便物を受け取るたびに感じることがあるといいます。
「友は、管理栄養士になりたいと言っていて。資料請求していた専門学校の資料が今も届きます。そのなかに看護学校の資料が入っていて。私は40歳を過ぎてから看護師の免許を取り、訪問看護の仕事をしているのですが、もしかしたら友は私を見て看護師にも興味を持ったのかなって。実習や課題が大変で、入学式にも出てあげられなかったのに…。卒業式に出ることも、夢に向かう姿を見届けることも叶いませんでした。
どちらか一方がルールを守るだけでは安全な道路にはなりません。それぞれが『自分勝手な安全』を作ってしまうことが交通事故の原因のひとつなのではと感じることが増えました。自分では安全に走行しているつもりでも他者から見たら危険な運転があることを、自転車も自動車もそれぞれ意識して、もう一度考えていただけたらと思います。ルールを守っても危険な道路があるならば、ぜひお近くの公共機関に連絡をしてほしいです。1件でも悲しい事故が減ることを願っています」(母・夏樹さん)
取材・文:内橋明日香 写真:ご遺族提供

