りくりゅう専属トレーナーが初告白「五輪選手村の夜」「謝罪」「すべてを超越している本当の関係」…最も近くで見てきた人物が語る“金メダル獲得秘話”
ミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケートペアで金メダルを獲得した「りくりゅう」こと三浦璃来(24才)と木原龍一(33才)。2人の成功の陰には、さまざまな人の尽力があった。なかでも専属トレーナーを務める渡部文緒さん(51才)は、最も近くで2人を見てきた存在だ。主に筋力トレーニングやコンディショニングを担当する渡部さんが、金メダル獲得秘話を初めて明かす。
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小学生の頃から活発で元気な子だった璃来ちゃん
私がスケートとかかわるようになったきっかけは、2006年に知り合いからかかってきた一本の電話です。当時男子シングルで活躍していた高橋大輔さん(40才)がトレーナーを探しているからやってみないか、という内容でした。
自分にできることをやろうと必死に選手と向き合い、国際大会に帯同したり、連盟を通じてトレーニングを指導したりするようになりました。実はその頃に、まだ小学生でシングルの選手として滑っていた璃来ちゃんを指導したことがあります。当時から活発で元気な子でしたね。
私が専属となってりくりゅうの2人を指導するようになったのは、2年前のことです。ミラノ五輪の事前合宿で会ったときに2人そろって「以前、連盟つてに教えてもらったトレーニングメニューをブラッシュアップしてほしい」と言ってきたんです。まさか過去に一度教えただけのメニューを継続してくれているとは思わず、驚きました。
ちょうどその頃は璃来ちゃんが肩のけが、龍一くんが腰の不安を抱えていたので、ケアがより重要な時期でした。2人からの要望もあり、トレーナーを引き受けることになりました。
ミラノ・コルティナ五輪の裏側
年3回ほど2人が拠点にしているカナダを訪れ、直接状態をチェックしていました。最初に着手したのは龍一くんのウエートトレーニングのブラッシュアップと、璃来ちゃんのジャンプへの不安を解消するための脚力強化でした。カナダにいるときや試合期間中は体のケアもしています。
私は「心技体」のうち、心と体が自分の担当だと思っているので、メンタルケアも大切にしています。
昨年の全日本選手権で、ショートの直前の6分間練習で璃来ちゃんが肩を脱臼してしまい翌日のフリーを棄権することになりました。璃来ちゃんが「ごめんなさい」と謝罪を繰り返すので「けがは璃来ちゃんの身に起きているけど、2人が一生懸命練習して起きたことで、どちらが悪いとかじゃない。遠慮したメンタルのままじゃ金メダルは取れないから、強い気持ちを持って練習しないと」とあえて強い言葉をかけました。
このとき肩を整復したのが私でした。1月には璃来ちゃんが肩の状態を「人生でいちばん調子がいい」と言ってくれて。あとで彼女が「信頼しているトレーナーに治してもらいました」と話しているのを聞き、報われたなと感じました。
五輪では「団体戦で活躍すると個人戦で金メダルが取れない」というジンクスがあるんです。ミラノでは、団体でショートもフリーもトップの得点を出したので本人たちも意識してしまったのかもしれません。個人のショートの日は朝からいつもと違う雰囲気を感じていましたが、私たちもうまく声かけができなくて。違和感を抱えたまま送り出し、結果的に得意のリフトでミスが出てしまいました。
演技後にたまらず「まだ終わってない。終わり方は大事だぞ。やり切って終わろう」と声をかけましたが、龍一くんは泣いていましたね。みんなの前では龍一くんを励まし、気丈に振る舞っていた璃来ちゃんも裏では落ち込んでいました。
ショートの日の夜、選手村でケアをしていたら璃来ちゃんが『なべさん、面白いことを言ってください』と言ってきて。でもとても冗談が言える空気ではなかったので、去年の『M-1グランプリ』で優勝したたくろうさんのネタをYouTubeで流したら、大爆笑してくれたんです。ずいぶんとスッキリした顔になっていました。
翌朝も表情は硬かったのですが、本番直前にギリギリまで2人でコミュニケーションを取って、そこで腹をくくれたようです。
フリーは後世に語り継がれる名演技でした。実は、フリーの最後の方を見てないんです。ブルーノコーチに羽交い締めにされちゃって(笑い)。でも得点が出たときはこみ上げるものがありましたよ。
キス・アンド・クライからキングスシートに移るタイミングで2人が私の方にハグしにきてくれて、『ありがとうございます』って言ってくれたので『本当におめでとう』と返しました。
すべてを超越して「りくりゅう」としか言えない2人の関係
2人は試合が近づくと必ずピリピリする時期があって、けんかになることもありました。龍一くんはよく意見を言う方で、璃来ちゃんはどちらかというと感覚派なので、まずは龍一くんの意見に「そうかも」ってなることが多い。それでもリンクを降りるとけんかなんて忘れて、いつも通りのりくりゅうになるんですから、面白いものです。
3月上旬にはりくりゅうと(坂本)花織ちゃんの3人が、私の自宅がある北海道に遊びに来てくれました。シーズン中は選手とは一定の距離を保っていますが、五輪も終わったしいいでしょうと。日中は雪上でバナナボートやスノーモービルなどが体験できる施設に行ったり回転寿司やジンギスカン、海鮮丼などを食べに行きました。3人とも私の家に宿泊したので夜はわいわいと。ちょっぴりお酒を傾けながら他愛ない話題で笑ったり、将来について話したり。いい時間でしたね。
2人についてよく「心がつながっている」と言われますが、時に夫婦のように、時にビジネスパートナーのようにといろんな関係性を見せてくれるので、とても一言では表せない。すべてを超越しているのが2人の本当の関係だと思います。りくりゅうは「りくりゅう」としか言いようがないんです。
引退のニュースを聞いた時は本当にお疲れ様という気持ちでした。日本のフィギュアスケート界に大きな功績を残してくれたことに感謝しています。本人たちにLINEで伝えましたが、良い景色を見せてもらいましたし、サポートした時間は豊かなものでした。この先も2人でアイスショーなどで滑りながら、日本のペアの未来をつくっていってもらいたいです。
※女性セブン2026年5月7・14日号
