新入社員の“スピード退職”に悩む企業に共通する「2つの問題点」 専門家が指摘する「初任給を上げた企業」の“予想外のリスク”
第1回【むしろなぜ入社したのか…「入社4時間で退職」する新入社員に“氷河期世代”は驚愕も…専門家が「いまの若者がスピード退職しても再就職への悪影響はほぼない」と断じる理由】からの続き──。「新入社員が入社して4時間で退職した」といった“超早期退職”が話題を集めている。入社式が終わって研修が始まると「この会社は合わない」と判断。昼休みに退職代行業者に依頼し、午後に会社を去って行くという具合だ。(全2回の第2回)
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都市伝説かと思いきや、複数の退職代行業者が「入社当日の依頼はあります」とメディアの取材に答えている。ちなみに厚生労働省の調査でも「入社1年未満に退職した大卒」は1割に達している。10人のうち1人というのは、やはり多いだろう。

当然ながらXなどのSNSでは呆れる声が多い。また「再就職で苦労するから、少なくとも3年は働き続けたほうがいい」という先輩社員によるアドバイスも多数、投稿されている。担当記者が言う。
「複数の就職・転職支援企業が『入社1年未満の退職は、就職活動で不利になる』と指摘しています。また東京商工リサーチのアンケート調査によると、社員募集の際、求職者に退職代行業者の『利用歴が分かった場合、採用に慎重になる』と回答した企業は49%を超えて最多だったそうです。そもそも昭和の時代は『嫌な会社でも10年は辞めるな』と言われたものですが、最近は3年に短縮されています。『3年なら我慢しなければ』と考えるビジネスパーソンも多く、1年未満の退職に到っては『さすがに非常識』と判断する人事担当者も決して少なくないのです」
ところが、である。改めて専門家に取材を依頼すると、「超早期退職は再就職の就活において不利になる」ことはない──というのだ。
ブラック企業の影響
大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は就活の問題にも詳しく、『ゼロから始める 就活まるごとガイド2027年度版』(講談社)などの著作がある。石嶺氏は「大前提として就活は人による、という点は改めて確認すべきでしょう」と言う。
「就職氷河期の時代でさえ『この会社は合わない』と判断して入社1年未満に退職し、2回目の就職活動を頑張って再就職に成功した人は、たとえ少数かもしれませんが、存在したのは事実です。その上で時系列を振り返ると【1】2000年代にブラック企業が社会的問題になった、【2】2005年ごろから、1993年から始まった就職氷河期が終わりを迎えた、【3】2010年代から少子化による大卒者の減少が顕著になり、就活が“超売り手市場”に変わった──この3点が大きな影響を与えました」
ブラック企業の存在がクローズアップされ、「新入社員が入社1年未満で辞めたとしても理解できるケースがある」と人事担当者が認識したのが原点。そして人手不足が加速し、「猫の手も借りたい」という企業が増えた。
石渡氏が注目するのは「第二新卒市場」だ。この言葉自体は90年代に脚光を浴びた。読売新聞が1991年7月の朝刊に掲載した「[こちら人事部]第三部 92採用狂騒曲(8)“第二新卒”に熱い視線」の記事から引用しよう。
第二新卒市場の影響
《第二新卒。新卒で入社し、二、三年以内に辞めて別の職を探す若手を指すこの言葉は、昨年あたりから急速に一般化し始めた。せっかく入社しても、企画、宣伝など希望するセクションへの配属が通らなければ、会社を飛び出してしまう学生が増えているからだ》
今、話題を集めている「入社当日に辞める若手社員」と類似した傾向は、既に1990年代に浮上していたことが分かる。
「かつての転職市場は『社会人転職』しか存在しなかったため、『新入社員の早期退職は不利になる』との指摘にも一定の説得力がありました。入社して1年未満に会社を辞め、2回目の就活に挑むと採用担当者から『あなたは社会人として、どんなスキルを持っていますか?』と質問されます。当然ながら社会人として経験はゼロに等しいですから答えられません。ところが2010年代以降は、多くの企業が新卒と中途採用だけでは人材が足りないという事態に直面します。そのため企業は第二新卒にも目を向け、選考のノウハウを構築していきました。結果、入社して1年未満の“元新入社員”が入社試験に応募してきた場合でも、『ある企業がこの人物を評価して内定を与えた事実は大きい。とにかく面接で会ってみよう』と判断する企業が増えてきたのです」(同・石渡氏)
内定を得ると転職の案内
こうなると、就職・転職サービスを提供する人材系企業にも変化が生じる。高度経済成長を背景に1960年代の中・高卒者は「金の卵」として企業が高く評価した。ところが転職市場において現代の「金の卵」は内定を得た大学生だという。
「少子化などを原因として、新卒の就職支援サービスは利益が出にくい状況が続いています。実際、会社説明会をオンライン限定にするなど、サービスの内容を縮小する動きは顕著なのです。しかし、それでもサービスを辞めないのは、応募してきた大学生の情報、もっと言えば内定を得た学生の情報が貴重だからです。つまり大学生が支援サービスに『内定をもらいました』と報告した瞬間、転職の案内がメールなどで送られてくる時代になっているのです。これが新入社員の超早期退職に影響を与えているのは間違いないでしょう」(同・石渡氏)
石渡氏は新入社員の早期退職が社会現象となっている背景として、「新入社員側の原因が3割、企業側の原因や時代の流れが7割」と指摘する。
「確かに一部の新入社員がタイパやコスパを重視し過ぎていることも無視できません。“雑巾がけ”という言葉がある通り、企業は時間をかけて新入社員を育てようとしますが、それを嫌がる新入社員も少なくないのです」(同・石渡氏)
「新入社員は敵」という企業も
「就職先が『有名企業』、『給与が高い』、『福利厚生が充実している』といった条件を満たしていると、早期退職は減ります。一方、『有名ではない』、『給与が安い』、『福利厚生に魅力がない』企業であり、なおかつ新入社員に雑巾がけを求めてしまうと、早期退職が増えるというわけです」(同・石嶺氏)
企業側の問題として、石渡氏は2点を指摘する。第1点は「入社前に会社のいいところしか紹介しない」企業。第2点は「無理をして初任給を上げた」企業だ。
「『どうせ辞めるなら、むしろ早く辞めてほしい』と考えを切り替えた企業もあります。そうした企業は入社前の内定者に『わが社の良い点と悪い点』をしっかりと情報開示しています。一方、必要以上に内定辞退・早期退職を恐れる企業は『良い点』しか伝えません。これでは『ダマされた』と新入社員が思っても仕方ないでしょう。さらに今では初任給を上げられる余裕がないにもかかわらず、管理職のボーナスを減額したり、中堅社員の給与を抑えたりするなど、無理を重ねて上げる企業が出てきました。新卒の獲得競争が激化しているとはいえ、さすがにこれは問題があります。何しろ社員にとって新入社員は文字通りの“敵”であり、怨嗟の視線や声が一気に集中するからです。かなり手ひどくいじめられるケースも私は把握しており、これでは入社1年未満に会社を辞めても不思議ではないと同情してしまいます」(同・石渡氏)
第1回【むしろなぜ入社したのか…「入社4時間で退職」する新入社員に“氷河期世代”は驚愕も…専門家が「いまの若者がスピード退職しても再就職への悪影響はほぼない」と断じる理由】では、改めて超早期退職の現状を紹介し、就職・転職支援サービスを提供する企業が「超早期退職は再就職で不利になる」、少なからぬ企業が「応募者が退職支援業者に依頼した事実を確認すれば、評価を下げる」と考えていることなど、超早期退職のデメリットについて詳細に報じている──。
デイリー新潮編集部
