初めての刑事弁護で無罪獲得、四大事務所所属にSNSで驚きも…普段は企業法務「積み重ねた準備が結果に」
「大手渉外事務所の弁護士も刑事事件を扱うのか」。SNS上で、一部の法曹関係者から驚きの声が上がった──。
覚醒剤の密輸を試みたとして、覚醒剤取締法違反などの罪に問われた男性の裁判員裁判で、東京地裁は今年3月、無罪判決を言い渡した。
注目を集めたのは、その弁護人だ。
この裁判で男性の弁護を担ったのは、いわゆる「四大法律事務所」の一つ、森・濱田松本法律事務所の中矢仁武弁護士だった。
中矢弁護士にとって、初めて担当した刑事事件が今回の裁判員裁判だったという。取材に対し、大手渉外事務所の弁護士が刑事事件に取り組む意義について語った。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●なぜ刑事事件に取り組むか
中矢弁護士が普段手がけるのは、M&Aや企業再編を中心とした企業法務だ。
上場・非上場を問わず、買収や売却の各局面での助言、コーポレートガバナンス対応、契約書レビューなどを担う、いわゆる渉外弁護士である。
わかりやすく言えば、企業活動に関わる法務を主な業務としている。
中矢弁護士はこうした業務を主軸とする一方で、初めての刑事事件で無罪を勝ち取った。今後も刑事事件にも取り組みたいと考えているとのことである。
「刑事手続は、被告人やそのご家族の人生に直結する重大な局面であり、弁護人の活動が依頼者の重要な権利利益を守るうえで大きな意味を持つと考えているからです。
今回担当した国選事件を通じて、誰にでも、ある日突然、あらぬ疑いをかけられ、人生を大きく左右されかねない危険があることを改めて実感しました。
だからこそ、先入観に左右されず、依頼者のために尽力することは、弁護士の重要な役割だと考えています」
弁護士に求められる役割は、依頼者が企業であれ個人であれ、その権利・利益を守るために真正面から向き合うことだと強調する。
●大手渉外事務所が担う意義
大手渉外事務所の弁護士が刑事弁護に関わる意義については、「専門性やリソースを社会に還元し、刑事手続における弁護の厚みを高めることにつながる」と話す。
所属事務所では、企業法務にとどまらず、国選弁護や弁護士会活動、法教育、難民支援などの公益活動・プロボノ活動に取り組むことが広く受け入れられているという。
「企業法務に限らず、社会に対してどのように還元できるかを考え、実践することも重要だと感じています」
●初めての刑事事件で無罪判決
弁護士登録後、初めて担当した刑事事件が裁判員裁判となり無罪をとった。
「責任の重さを強く感じながら取り組みました。積み重ねてきた準備が無罪という結果につながり、安堵とともに努力が報われた思いがありました」と振り返る。
さらにこう続ける。
「刑事手続は、国家権力と個人が直接向き合う場面であり、そこで十分な弁護が尽くされることは、適正手続や公正な裁判を支え、ひいては法の支配に対する社会の信頼につながります」
●後進の育成にも力を入れる
現在は、所属事務所での法教育活動にも力を入れている。
法律や司法制度を理解することは「複雑な社会の中で自分や他者を守ることにつながる」とし、若い世代にそれを身近に感じてもらうことも「弁護士の大切な社会的役割のひとつ」だと考えているという。
「今後も、企業法務を主たる専門分野としつつ、刑事弁護や法教育にも誠実に取り組んでいきたいと考えています」
【取材協力弁護士】
中矢 仁武(なかや・じんむ)弁護士
2020年同志社大学法学部法律学科卒業。2022年京都大学法科大学院修了。2023年12月弁護士登録、第一東京弁護士会所属。
事務所名:森・濱田松本法律事務所
事務所URL:https://www.morihamada.com/ja
