「自動販売機」の存在意義が揺らぎつつある…日本の限界を突き付ける「ビジネスモデルの落とし穴」

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人口減少、電気代高騰で自販機が窮地に

日本は世界でも稀な「自販機大国」と呼ばれる。

街角や駅前、山間の道路脇……どこにでも当たり前のように立っている自動販売機は、治安の良さや効率性を追い求める国民性を象徴する存在だったが、その状況がいま崩れ始めている。

日本自動販売システム機械工業会が公表したデータによると、2025年12月末の自販機の設置台数は約388万台(うち飲料自販機は約218万台)に上る。ピークだった2013年の約509万台(うち飲料自販機は約267万台)から大きく減少している。

業界を代表するダイドー・グループHDは過去最大の307億円の赤字を計上し、大規模な自動販売機撤去を決断した。コカ・コーラ・ボトラーズや伊藤園もまた、自動販売機での売り上げが減少し、相次いで巨額の減損を記録した。さらに、ポッカサッポロは3月、自販機事業からの売却、撤退を発表した。

街中で自動販売機を見かけることは徐々になくなっていくのかもしれない。専門家たちは、人口減少やコンビニ・ドラッグストアとの競争に負けたという見方をしているが、実際どうなのか。

大手飲料メーカーの配送マネージャーT氏が次のように解説する。

「売り上げの悪化は、ここ数年の環境変化で起こったもの。人口減少の時期やコンビニは普及した時期が合わないので原因はもっと複雑です」

T氏が言うには、最大の原因は2010年頃から上がりだした電気代の上昇だという。自販機は24時間365日の冷却・加熱が必要だが、2022年以降はさらに高騰した。

「自販機1台を1年間維持するのに必要な電気代が、以前なら7万円程度だったのですが、いまは10万円以上かかるのが普通で、機種によっては15万円になるものもあります」(T氏)

売れる場所にしか置けなくなる

意外な理由もある。人口減少に伴い街全体の構造が変化していることが、自販機が売れない状況をつくり出しているという。

「自販機の設置場所を定期的に見てきた経験から言えば、自販機の利用シーンが変わってきた印象を持ちます。

以前は、設置していた工場やオフィス内の自販機の売り上げが大きな割合を占めていた。昼食や休憩の時の飲み物需要に合っていたんですね。

それが近年、地方では工場閉鎖が相次いだり事業再編があったりして、売れる設置場所が激減しています。都市部でもオフィスの移転・縮小、空きテナントが増えたりして、安定的に置き続けられるオフィスが無くなってしまったんです」(T氏)

コロナ禍以降、都市部ではリモートワークが定着し、通勤で人流が大きく変化したことも影響したという。

「コロナ前は、慌ただしい朝の通勤時や疲れがたまった夜の残業時にサラリーマンが自販機で飲み物を買っていました。しかし、リモートワークが浸透して出社時間がバラバラになった。昼食を食べてから出社という人は衝動買いすることもないですよね。自販機の存在意義みたいなものが揺らぎつつあるんだと思います」(自販機のメンテナンスを行うエンジニア)

加えて、観光地や郊外道路の需要も減少しているという。

「観光客やドライバーの購入が多かったような場所もダメになっています。日本人観光客が減り、バスや電車移動で観光地に来る外国人が増えたことで、景勝地や峠道沿いの自販機の撤去が続いています」(同前)

自販機は単なる無人販売ではなく、商品を届け、補充し、常に適温で管理する物流事業だ。そのため組織化された物流システムのコストも大きく影響している。大量のトラックが全国を巡回しなければならず、ドライバー人材の確保と配送ルートの設計管理も不可欠。このオペレーションを支えるコストも上がっているという。

「ドライバーの確保はどのメーカーにとっても難しくなっており、一部を外部委託せざるを得ない状況です。その分、仲介料も発生するため、コストはさらに上がります。現在はガソリン代も上がり続けており、補充にかかるコストは以前と比べて3割増し。売れる場所にだけ絞って飲料を補充しても赤字になる、という事態まで起き始めているんです」(T氏)

最近はキャッシュレス対応のための機器入れ替えコストも重なり、売れない場所への投資が追いつかなくなっている。現金のみの自販機は売上がさらに落ち、悪循環に陥っているのだ。

こうして見ると、自販機の隆盛は治安の良さといった要因だけで説明できるものではなく、日本経済の構造そのものに支えられていたことがわかる。人口が増え、サラリーマン社会が活気にあふれ、電気代も物流コストも安定していた--そうした条件が揃って初めて成り立っていたビジネスだったのだ。

日本らしい自販機は滅びつつある

関係者が見せてくれた内部資料によると、かつて自販機で販売されていた1本150円のペットボトル飲料は人件費などを含む製造原価が70円、物流費30円と電気代15円を加えるとなり、利益は35円しか残らないという。

少し売上が落ちるだけで赤字に転落するほど、ぎりぎりの収支構造である。さらに、台数の多さに依存した薄利多売モデルでは売れない場所の自販機を減らしたところで、ルート配送や補充スタッフにかかる固定費は変わらない。削れば削るほど赤字が膨らむという構造的な問題を抱えていた。

もはや、日本の自販機大国は終わりつつあるのかもしれない。海外取材の多い筆者の見解を加えると、日本以外での自販機は売られている飲料の種類が少ないことに気付く。日本では「選ぶ楽しさ」もひとつの文化だったのだが、「種類が豊富」というのはコストを無視した前提のサービスだった。これもいずれは見直される運命にあるのかもしれない。

今後はAIを活用した効率化や、地域・需要に合わせた設置戦略の改善で、自販機文化をどう変化に適応させるかという挑戦になる。もはや台数の多さだけが価値ではなく、効率のいい設置ができるか、それが日本の自販機の未来を決める。

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