衛星搭載アダプタの部材剥離が原因となった可能性高まる JAXAがH3ロケット8号機打ち上げ失敗原因究明状況を報告
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2026年3月24日に開催された第61回宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会にて、「H3」ロケット8号機打ち上げ失敗の原因究明について、最新の状況を報告しました。
これまでの大まかな経緯
準天頂衛星システム(QZSS)「みちびき」5号機を搭載したH3ロケット8号機は、種子島宇宙センターから日本時間2025年12月22日10時51分30秒に打ち上げられました。
しかし、1段目と2段目の分離後に2回予定されていた2段目エンジン燃焼のうち、第2回燃焼が早期に停止してしまったことで、打ち上げは失敗しました。打ち上げまでの経緯や打ち上げ当日の模様については、以下の記事をご参照下さい。
【更新】H3ロケット8号機打ち上げ失敗 「みちびき」5号機を予定の軌道へ投入できず(2025年12月22日)

また、2026年1月以降の宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会では、8号機打ち上げ失敗の原因究明状況が毎回報告されています。前回までの会合については以下の記事をご参照ください。
衛星搭載構造内部の部材剥離を有力視 JAXAがH3ロケット8号機打ち上げ失敗原因究明状況を報告(2026年2月25日)H3ロケット8号機の2段目は「みちびき」5号機を喪失したまま飛行か JAXAが原因究明状況を報告(2026年1月20日)
3月24日に開催された今回の会合では、JAXAでH3プロジェクトチームのプロジェクトマネージャー(PM)を務める有田誠さんが、原因究明についての最新状況を報告しました。断定には至っていないものの、前回の会合で新たな有力要因として報告された衛星搭載アダプタ(PSS)の剥離が直接的な要因となった可能性が高いと推定されており、衛星の脱落に至った推定されるメカニズムと是正対策の案が明らかになりました。
接着強度低下の可能性や確認された部材の剥離を報告
H3ロケット8号機では、1段目での飛行中に実施されるフェアリング(ロケットの先端で衛星を保護するカバー)を分離するタイミングで、2段目と「みちびき」5号機をつなぐ衛星搭載構造(※)の破壊が始まったと判断されています。
※…2段目上部に取り付けられた衛星搭載アダプタと、その上部に取り付けられた「衛星分離部(PAF)」からなる円錐形の構造。
2026年2月の第60回会合では、製造済みの複数の衛星搭載アダプタを調査した結果、部材表面のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製スキンと部材内部のアルミニウム製ハニカムコア(ハチの巣状の軽量な構造材)の間に、想定を越える剥離が生じている箇所が発見されたことが報告されました。
8号機の衛星搭載アダプタでも剥離が生じていたかどうかはわかっていませんが、同様の状態で飛行した可能性が高く、剥離箇所が破壊の起点となった可能性があることから、調査や実験が進められています。今回の第61回会合では、製造時の環境条件が衛星搭載アダプタの剥離に関わっていた可能性が示されました。
H3ロケットの衛星搭載アダプタの製造では、中心(機軸)から90度ごとに4分割されている部材のパネルどうしを、スプライスを使って接着する工程(スプライス接着工程)があります。すでに運用を終えた「H-IIA」ロケットではボルトを用いるファスナ結合が採用されていましたが、H3ロケットでは軽量化やコスト削減を目的にスプライス接着が導入されました。

製造と検査の記録を調査した結果として、8号機に使用された衛星搭載アダプタのスプライス接着工程が実施されたのは2024年9月のことで、接着前のパネルがメーカーの夏季休暇などの期間中に空調がオフになった屋内で保管されていたことが示されました。
屋内とはいえ、夏季に空調が効いていなかったことから、パネルは高温・多湿の環境にさらされていたことになります。パネルのスキンに使用されているCFRPは薄いため、スキンとハニカムコアを貼り合わせる接着剤がスキンを通して吸湿し、強度が低下していたことが考えられるといいます。
影響を調査する試験の結果、部材に使用されている接着剤の接着強度は、吸湿によって約25%低下することが示されました。つまり、スプライス接着工程が夏季に実施された8号機の衛星搭載アダプタは、異なる時期(1月〜4月に集中)に実施された他の衛星搭載アダプタと比べて、剥離が発生しやすい状態だった可能性があります。
また、スプライス接着工程ではパネルを乾燥させるために結合部を2つのヒーターで加温する手順がありますが、この時にヒーターとヒーターの間の部分が想定よりも高温になっていて、接着強度が低下することも試験を通じて確認されました。
さらに、製造済みで保管されていた衛星搭載アダプタの1つについて、スプライスを接着した部分に対して超音波を使用した透過法による詳細な検査(通常の製造では実施されない)を行ったところ、ここでもスキンとハニカムコアの剥離が生じていることが明らかになりました。加温時のヒーター間における想定外な温度上昇とは異なり、スプライスの下部の温度は規定の温度だったことから、別のメカニズムで剥離が生じたとみられています。

フェアリング分離の衝撃で剥離が一気に拡大した可能性
剥離が注目されているのは、衛星搭載アダプタの強度低下につながり得ることがその理由です。
報告によると、製造済みの衛星搭載アダプタで確認された剥離部分に真空状態の負荷をかける実験を行ったところ、内部に密閉された空気との圧力差によって、剥離が拡大し得ることが確認されました。また、スプライス接着工程での熱負荷や初期の剥離状態を再現した試験片に対して、飛行中を想定した静荷重と衝撃負荷をかけたところ、剥離が瞬時に進展することも確認されています。
モデル解析の結果では、剥離が広範囲に拡大するほど、低い荷重でも広範囲のスキンが座屈することも確認されました。つまり、剥離が広がれば広がるほどパネルの剛性が失われ、荷重に耐えられなくなり、衛星搭載アダプタ全体の破壊に至る可能性が示唆されるのです。
これまでの会合で報告されているように、H3ロケット8号機ではフェアリング分離のタイミングで衛星搭載構造が損傷し、その一部が「みちびき」5号機ごと離脱してしまったと判断されています。パネル内部の空気や飛行中の加速による静荷重が加わり続けていたところにフェアリング分離時の衝撃が最後の一押しとなって、剥離の拡大と衛星搭載アダプタの全周にわたる座屈が一気に進展し、衛星搭載構造の上部が衛星ごと2段目のタンク上部に落下した可能性が想定されています。
なお、2024年2月に打ち上げられたH3ロケット試験機2号機の衛星搭載アダプタも夏季(2021年9月)にスプライス接着が行われていましたが、8号機と比べてペイロード重量が軽かったことから、より重い「みちびき」5号機を搭載した8号機で初めて発現した可能性があるとみられています。
撮影された“白飛び”や衛星の損傷にも言及
今回の会合では、8号機のカメラで記録された「白飛び」の正体や、「みちびき」5号機の損傷についても分析結果が報告されました。
H3ロケットのフェアリング内の様子を記録している2段目のカメラで連続撮影された画像を見ると、フェアリング分離直後はどの号機でも短時間の白飛びが認められるものの、8号機は他の号機と比べて白飛びが長い時間続いたという特徴があります。
報告によると、衛星搭載アダプタのパネル内部に閉じ込められていた空気の量や湿度を考慮して計算した結果、損傷した衛星搭載アダプタから真空中に流れ出た空気が断熱膨張し、水分が霧状になることで濃霧に相当するほどの濃い霧が生じ、そこに太陽光が入射したことで強い白飛びが継続したと推定されています。
また、同じカメラが捉えた「みちびき」5号機は、フェアリング分離後に衛星本体の多層断熱材(MLI)や側面のパネルが吹き飛んで内部が露出した状態になるとともに、ガスのようなものが流れ出ているように見えます。
解析の結果、衛星搭載アダプタの損傷によって「みちびき」5号機ごと衛星搭載構造の一部が2段目タンクの上部に衝突し、配管を損傷させたことで、タンクを加圧するためのヘリウムガスなどが衛星の内部に流入。このガスが衛星の側面から噴き出したことで、まず多層断熱材が剥がれ飛び、続いてパネルが吹き飛んだと推定されました。これらは衛星搭載アダプタの損傷にともなう二次的な事象であり、衛星分離部の温度データとも整合すると評価されています。

飛行再開に向けた是正対策も提示
また、今回の会合ではH3ロケットの飛行再開に向けた是正対策が、2つの案として提示されました。
1つ目は「補修案」で、製造済みの衛星搭載アダプタに対する、剥離箇所と強度低下箇所の補強です。具体的には、剥離した部分のスキンを取り除き、ハニカムコアからスキンの外面まで樹脂を充填した上で、剥離部分全体を覆うようにスキンと同じCFRP材を貼り付けるというものです。
2つ目は「ファスナ結合案」で、4分割されている衛星搭載アダプタの結合方式そのものの変更です。具体的には、H-IIAロケットと同じファスナ結合を“復活”させることで、スプライス接着工程における熱負荷をなくし、剥離の発生・進展を機械的に防止するというものです。
製造済みの衛星搭載アダプタを流用できる補修案のほうが飛行再開は早くなるものの、強度低下を防ぐ対策として不十分であると判断されれば、衛星搭載アダプタの再製造が必要となるファスナ結合案が採用されることになるかもしれません。JAXAは今後、2つの案のトレードオフを進めて、最終的な対策方針を決定する予定です。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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