この混乱を制するプランはあるのか?

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米ガソリン価格は15%以上高騰

 国際社会はトランプ米大統領の豹変ぶりに驚いている。

【写真】強権発動か…トランプ氏が「わかりやすく変えた」ものの一部

 昨年1月の就任演説で、もはや戦争を仕掛けない「平和の使者」になると約束したのにもかかわらず、イランに対する大規模な軍事攻撃をイスラエルとともに開始したからだ。

 トランプ氏が米国内のガソリン価格上昇を嫌う傾向を根拠に、イラン攻撃を最終的に回避するのではないかとの観測があったが、真逆の決断に踏み切った。

 開戦当初、短期戦に終わるとの予測があった。だが、トランプ氏は3月6日、SNSで「イランとの合意は無条件降伏以外にありえない」と表明し、長期戦も辞さずの姿勢を示した。これを受けて、米WTI原油先物価格(原油価格)は急上昇し、一時1バレル=120ドル近くまで高騰した。

この混乱を制するプランはあるのか?

 開戦後、米国のガソリン価格は15%以上も高くなっており、多くの米国民は不平を募らせる状況となっている。

戦争「ほぼ完了」宣言でも油断を許さず

 米国の世論も懐疑的だ。米CNNが1日に公表した世論調査では、59%が今回の軍事作戦を「支持しない」と回答した。作戦が長期化すれば、不支持の比率はさらに高くなることだろう。ネット上では「トランプ氏の末息子を徴兵すべき」との声も広がっている。

 一方でトランプ氏は8日、自身のSNSで原油相場の短期的な動きについて「イランの核の脅威の排除が完了すれば、原油価格は短期的に急落するだろう。だが、米国と世界の安全と平和のために支払う代償としてはごく小さなものだ」と投稿した。

 9日にはCBSニュースに対し、軍事作戦は「ほぼ完了」との楽観的な見方を示したが、作戦の具体的な終結時期を明言しておらず、予断を許さない状況が続いている。また、原油輸送タンカーのホルムズ海峡通過は再開して‌いる⁠と主張した。

 トランプ氏は、自らの決断で不都合が生ずると、軌道修正を機敏に行い火消しに走る傾向が強かったが、この点でも市場関係者の期待を裏切っている。

 主要7ヵ国(G7)が石油備蓄の協調放出について議論していることが伝わると、原油価格は急落したが、それでもイラン攻撃前に比べて20ドル以上高いままだ。

 米ホワイトハウスは関係省庁に対策を講じるよう求めているが、即効性のある対策が打ち出されるかどうかは定かではない。

英国を猛批判…米欧間の亀裂は鮮明に

 イラン攻撃を巡り、米国と欧州の間の亀裂が鮮明になっていることも気がかりだ。

 トランプ氏は3日、インド洋のディエゴガルシア島の基地をイラン攻撃の初期に使わせなかったとして英国を批判した。英国は1日に防衛目的に限って使用を認めたが、それでは遅すぎるというのがトランプ氏の言い分だ。

 同日には、空軍基地の使用を認めなかったスペインに対しても怒りを露わにし、同国との通商関係を断つようベッセント財務長官に指示した。

 さらにNATO(北大西洋条約機構)同盟国に対しても「壮絶な怒り(イランへの軍事作戦名)」を示したとの指摘が出ているほどだ。

 一方で、欧州諸国の非協力姿勢には理由があると思う。

欧州にとって「対岸の火事」ではない

 欧州連合(EU)のカラス外交安全保障上級代表(外相)は5日、中東諸国からイラン内戦の発生リスクに対する懸念を伝えられたことを明らかにした。欧州警察機関(ユーロポール)も同日、中東紛争はテロの脅威など域内の安全保障に直ちに影響を及ぼすとの警告を発した。

 欧州主要国の中で唯一、米国の軍事作戦に協力的なドイツも同様の懸念を有している。メルツ首相は6日、国家としてのイランが崩壊すれば、シリア内戦の時のように大量の難民が欧州に押し寄せるという危機感を露わにした。

 米国と異なり、イランと距離が近い欧州諸国にとって、同国の混乱は対岸の火事ではないのだ。経済面で悪影響が出ている。原油高に加え、ロシア産天然ガスの依存脱却の切り札だったカタール産LNGの供給が滞る事態だ。

 トランプ氏の独断専行ぶりに欧州の首脳たちは怒りを募らせていることだろう。

イラン軍事作戦の費用は「天文学的な額」か

 戦争大統領となった感があるトランプ氏だが、後顧の憂いはないのだろうか。

 米国の金融市場では、株式と債券が同時に売られる異例の事態となっている。有事の株売りは想定されたが、米国債が意外にも安全資産として機能していない。

 背景には財政問題がある。昨年6月のイラン施設への攻撃は約20億ドルの費用にとどまった。だが、今回のイランへの軍事作戦が長期化すれば、財政負担が急速に拡大するとの懸念が広がっている。

 米シンクタンク「政策研究所」は8日、イラク軍事作戦の費用は最終的に約3兆ドルとしたうえで、今回も天文学的な額になる可能性が十分にあると警鐘を鳴らした。

 米国債の売り(長期金利の上昇)は、金融市場にとって大きなマイナスだ。

プライベートクレジット業界の苦境

 折悪しく米株式市場では、人工知能(AI)が既存産業の脅威となるとの警戒が広まっている。中でもソフトウェア業界が深刻な打撃を被るとの見方が根強い。

 ソフトウェア業界に対する悪評価は、多額の資金を提供してきたプライベートクレジット(ファンド融資)業界の苦境に直結する。プライベートクレジットは1.8兆ドル規模に急拡大したが、ソフトウェア業界への融資が嫌気されて資金の流出に歯止めがかからない。

 プライベートクレジット問題は既に指摘したことだが、状況は悪化する一方だ。筆者は金融危機が起きてしまうのではないかとの思いを禁じ得ないでいる。

 イラン攻撃のせいで、米国をはじめ世界経済が深刻な打撃を被らないことを祈るばかりだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部