「私人逮捕の力ずく」はどこまでOKなのか…自称「正義のユーチューバー」の法的に許される範囲を弁護士が解説する

■なぜユーチューバーの逮捕が相次いでいるのか
犯罪行為をしたと疑われる人を「私人逮捕」として取り押さえ、その様子を撮影・投稿する私人逮捕系ユーチューバー2人が11月、相次いで逮捕されました。
11月13日には、「煉獄コロアキ」の名前で活動するユーチューバーの杉田一明容疑者(40歳)が、無関係の女性をチケットの不正転売に関与したと決めつけて追い回す様子を撮影、ネットに動画を流し、無関係の女性の名誉を傷つけたとして名誉毀損(きそん)容疑で警視庁に逮捕されました。
また、同月20日に覚醒剤取締法違反(教唆)で逮捕された「中島蓮」の名前で活動するユーチューバーの今野蓮容疑者(30歳)は男と共謀し、ネット掲示板で知り合った男に対し女性を装って覚醒剤の共同使用を持ちかけ、新宿区の路上に覚醒剤を持参するようそそのかした疑いがかけられています。
まず初めにお伝えしたいのは、私は法とモラルの両方の観点から、現在の私人逮捕系ユーチューバーの活動は「守らなければならないライン」を完全に越えていると考えています。彼らの行動は明らかにやりすぎです。
私人逮捕は刑事訴訟法第213条にも明記されており、一般人でも現行犯を捕まえることは可能です。しかし、動画の再生回数やお金を稼ぐため、意図的に私人逮捕を利用することは想定されておらず、一般の方はもちろん、警察関係者も私と同じような気持ちを抱いているからこそ「これ以上は野放しにできない」と考え、今回の逮捕者続出につながったのではないかとみています。
■現行犯であっても、不必要な暴力を伴う逮捕は違法
そもそも、私人逮捕とはどのような場合に成立するのでしょうか。
第一に、逮捕は原則、警察官など逮捕権のある人しかできません。一般人が逮捕できるケースは、目の前で窃盗が行われていたり、殴る蹴るなどの暴行や、刃物を持っていたりする場合、または「この人は痴漢です!」と大声で助けを求めている状況など、現在進行形で犯罪が行われている「現行犯」あるいは準現行犯の場合のみです。
ただし、一般人が現場で即座に「適法な逮捕か」「違法な逮捕か」を見極めるのは非常に困難です。例えば、過失傷害罪や侮辱罪など、懲役刑が定められていないような罰金30万円以下の軽微な犯罪の場合。これは刑事訴訟法217条により「犯人の住居若(も)しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合」に限って現行犯逮捕が可能です。
逆にいうと、これらの要件を満たさない私人逮捕は違法になる可能性があります。
また仮に上記の要件を満たしていたとしても、逮捕行為自体が社会通念上、必要性、相当性が認められない態様でなされた場合(不必要に過剰な暴力行為を伴う等)にも違法な逮捕行為と評価される可能性があります。
このような事前の法的知識を含め、私人逮捕の名のもとにユーチューバーが正義を振りかざすのには限界があると私は感じています。
■密漁犯を竹竿で叩き突いて取り押さえたケース
では具体的に、私人逮捕はどこまでが正当で、どこからが違法行為に相当するのでしょうか。ここからは逮捕者が犯人を取り押さえた際に怪我を負わせたとして傷害罪で起訴されたものの、無罪となったケースを見ていきます。
1.1975(昭和50)年4月3日 最高裁判所第一小法廷
問題となった罪名:傷害罪
あわびの密漁犯人を現行犯逮捕するため密漁船を追跡中、同船が停船の呼びかけに応じないばかりでなく、三回にわたり追跡する船に突込んで衝突させたり、ロープを流してスクリューにからませようとしたため、抵抗を排除する目的で、密漁船の操舵(そうだ)者の手足を竹竿で叩き突くなどし、全治約一週間を要する右足背部刺創の傷害を負わせた行為。
社会通念上逮捕をするために必要かつ相当な限度内にとどまるものであり、刑法三五条により罰せられない、とされた。
あわびの密漁犯人を現行犯逮捕するため約三〇分間密漁船を追跡した者の依頼により約三時間にわたり同船の追跡を継続した行為は、適法な現行犯逮捕の行為と認めることができる。
「現行犯逮捕をしようとする場合において、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとをとわず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法三五条により罰せられないものと解すべきである」(判決文)
■“力ずく”の許容限度は解釈にゆだねられている
犯罪が成立するためには、?構成要件該当、?違法性、?責任のすべてを備える必要があります。私人による現行犯逮捕は、その行為を外形的に捉えると、傷害罪(刑法204条)や、逮捕罪(刑法220条前段)、監禁罪(刑法220条後段)等の?構成要件に該当しますが、適法な現行犯逮捕であれば、正当行為(刑法35条)として、?違法性が阻却されることになり、犯罪が成立しないことになります。
上記判例は、私人による現行犯逮捕が、正当行為(刑法35条)として違法性が阻却され犯罪が成立せず、無罪となった事案です。
ここで、私人による現行犯逮捕が「適法」でなければ、刑法35条の正当行為に当たらないわけですが、適法というためには、逮捕に伴う有形力の行使が逮捕の目的を達成するために必要最小限度でなければならず、不当に過大な有形力の行使は許されません。
私人による現行犯逮捕時の有形力行使の許容限度について定めた規定はなく、もっぱら解釈にゆだねられています。この点に関する判例として、上記のあわび密漁事件の判示が以降のひとつの基準となっています。
■さすまた、警棒、刃物、スタンガンも使っていいが…
それでは、私人逮捕する際はどんな武器を使ってもいいのでしょうか。11月下旬に東京・上野の貴金属店で発生した強盗未遂事件では、従業員がさすまたで応戦する様子が話題になりました。
判例の基準に従い、犯罪の性質や犯人の状況、逮捕までの経緯、逮捕時の状況から判断すれば、場合によっては武器の使用も可能といえます。そのため、さすまたのほか、防犯グッズの警棒やスタンガンなども、場合によっては社会通念上相当として許されるといえます。
また、逮捕するのが、私人という捜査の専門家ではないこと、現行犯という一般的に緊急性が高い場合であることに鑑みると、比較的強度の実力行使が認められやすいとも考えられます。正当防衛の論点で「武器対等の原則」というものがありますが、被逮捕者が拳銃や日本刀などを所持していれば、これに対抗するため、刃物を含めて武器の使用も認められうるといえます。
ただし、被逮捕者が丸腰であり、逮捕者が素手で逮捕でき得る状況であったのに、不相応な凶器を使用した場合には、必要性、相当性が認められない可能性があります。また体格、男女の別、年齢差、その場の状況などから逮捕者よりも被逮捕者が明らかに攻撃力が劣っているのであれば同様に凶器の使用は認められませんが、これは事案ごとに異なると言わざるを得ません。

■格闘技経験者が起訴された「勘違い騎士道事件」
別の観点で、私人による逮捕の際に相手を怪我させてしまった場合、その容体の重さによって逮捕者が逆に有罪になってしまう場合はあるのでしょうか。
あわび密漁事件では、逮捕時に全治約1週間の怪我を犯人に負わせていますが、適法性判断において重視されるのは、当該逮捕「行為」となります。もちろん「結果」も行為の適法性を判断するに際し、斟酌はされますが、あくまで逮捕行為が相当であったのか、といった点が重視されるのです。
空手の有段者、ボクシング経験者など格闘技をしている人間が現行犯に危害を加えた場合についても説明します。私人による現行犯逮捕の事案ではありませんが、最高裁判所が誤想過剰防衛について刑法36条2項による刑の減刑を認めた事例で「勘違い騎士道(きしどう)事件」というものがあります。
これは、酩酊(めいてい)した女性を助けようとした空手三段の男性が、女性を介抱していた男性が殴りかかってくるものと誤信し、とっさに回し蹴りをして同人を転倒させ、頭蓋骨骨折等の傷害を負わせ、その傷害による脳硬膜外出血および脳挫滅により死亡させて傷害致死罪に問われた事件です。
■誤信したとはいえ、体格差や力の差が考慮され有罪に
最高裁判所(昭和62年3月26日決定)は、「本件回し蹴り行為は、被告人が誤信したA(男性)による急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかである」として、傷害致死罪の成立を認めた上で、刑法36条2項による減刑を認めました。
当該判例の解説によると、攻撃者のとった攻撃態度の状況(ファイティングポーズのような態度をとった)、体格差、被告人が空手道だけでなく、居合道、柔道、杖道などにも精通していたこと、回し蹴りの方法(足の甲を使っていたとしても、転倒の危険が無いとはいえない)などが考慮されているようです(岩瀬徹『最高裁判所判例解説 刑事篇〈昭和62年度〉』100頁)。
私人による現行犯逮捕の有形力行使についても、当該誤想過剰防衛の判例が参考になるかもしれません。しかし、私人逮捕の相当性の要件をめぐっては、犯罪の性質、犯人の状況、逮捕までの経緯、逮捕時の状況等が従来から指摘されてはきましたが、事柄の性質上、あまり具体的な類型化には親しまないとの指摘もあり、裁判例の集積が望まれているところです。(香城敏磨・最判解説昭和50年度67頁)
■転売ヤーの私人逮捕はほぼ不可能
話を私人逮捕系ユーチューバーに戻すと、彼らの行為は上記の判例とはまったく異なる状況であることがわかります。その代表的な例がチケットの不正転売です。
例えばAさんがチケットを、Bさんがお金を渡しているシーンを目撃したとします。私人逮捕系ユーチューバーは「チケットの不正転売だ!」と騒ぎ立てるかもしれませんが、もしかしたらAさんとBさんは友達で行けなくなったチケットを譲っているのかもしれませんし、他人だとしても定価で販売しているのかもしれません。
仮に、本当に転売ヤーによる不正転売だったとしても、それはあくまで結果であって、なぜ今この場で、不正販売だと知り得ることができたのかは証明できません。違法になりえる転売かどうかを第三者が判断することは極めて難しく、私人逮捕(現行犯逮捕)できる理由にはならないのです。
また、ここ最近だとユーチューバー本人が不正転売を申し込み、高い金額での取引を確定させた後に取引現場で「あなた不正転売やってたでしょ?」と詰め寄るケースも散見されます。
たしかにこのケースだと現行犯ではあるため、私人逮捕が成立するかもしれませんが、今野容疑者のように、教唆罪(※他人をそそのかして、その人に犯罪を実行する決意を生じさせること)に問われる可能性があります。
■おとり捜査まがいの行為は「共倒れ」のリスクも
「おとり捜査」という言葉を聞いたことがあると思います。刑事ドラマではよく出てきますが、実際は警察が犯意を誘発して犯罪をさせ、逮捕する行為は法律で認められてはいません。警察ですら「おとり捜査」のハードルはかなり高いのに、犯罪者を逮捕するために私人逮捕系ユーチューバーという新たな犯罪者が生み出されているとしたら本末転倒です。
今野容疑者は覚醒剤取締法違反の容疑ですが、自作自演の私人逮捕は教唆容疑でしょっぴかれる「共倒れ」のリスクがあります。つまり当たりにいく行為は基本アウトなのです。私人逮捕そのものは必要な制度だと私は考えていますが、一般人が「私人逮捕だ!」とむやみに行動するのはやめてもらいたいものです。
迷惑系ユーチューバーだけでなく、10〜20代の若者に人気のTikTokなどのSNS投稿にも注意が必要です。民事面と刑事面での問題が絡む話になりますが、投稿内容によっては「違法」と判断される可能性があり、具体的には肖像権侵害や名誉毀損が成立してしまうケースが考えられます。

■モザイクをかけない投稿はアウト
煉獄コロアキこと杉田容疑者は、女性にモザイクをかけずに、チケットを高額で転売していたとの内容で動画を投稿していました。相手側の許可なくモザイクなしで動画を投稿するのは、かなり法的リスクが高いです。
例えば、電車やバスなどで乗客の顔を撮影してマナーの悪さを指摘する投稿が拡散されることがありますが、投稿の書き方や載せ方によっては名誉毀損になり得ますし、勝手に投稿するだけでも肖像権侵害になり得ると私は考えます。
若者が面白がって投稿する内容の多くはセーフではなく、親告罪(※被害者からの告訴がなければ検察が起訴することができない犯罪の種類)などの理由により「野放し状態」になっていると考えたほうがよいでしょう。つまり、被害者が投稿を見つけて告訴すれば、逮捕されるリスクが高まるということです。
最後に、私人逮捕系にかかわらず、街中で動画を回している配信者に絡まれた時の対処法をお伝えします。
相手に関わらない、取り合わないのが一番ではあるのですが、もしそれでも付きまとわれた場合は、毅然(きぜん)とした態度で警察を呼ぶことをおすすめします。しつこくされたからといって撮影しているカメラをはたいたり、相手を突き飛ばしたりすると賠償を要求される場合があり、得策ではありません。
自分が法的リスクを犯さないためにも、まずは関わらないこと。それでもしつこく絡んできたらすぐに通報して警察へ助けを求めること。この方法が一番安全です。
----------
正木 絢生(まさき・けんしょう)
弁護士
大阪府生まれ。慶應義塾大学法科大学院修了。弁護士法人ユア・エース代表。株式会社TSUNAGU取締役。第二東京弁護士会所属。bayfm「ゆっきーのCan Can do it!」にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などメディア出演も多数。YouTubeやTikTokの「マサッキー弁護士チャンネル」にて、法律やお金のことをわかりやすく解説、配信中。TikTok
----------
(弁護士 正木 絢生 聞き手・構成=佐藤大輝)
