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日本はこの「禁じ手」を使うべきか

ついに、安倍晋三政権がルビコン川を渡り、「トランプ化」を始めた――。

先週7月1日、経済産業省は、「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」と題したペーパーを発表した。そこには、次のように記されていた。

〈 経済産業省は、外国為替及び外国貿易法に基づく輸出管理を適切に実施する観点から、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行います。

輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。

こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、厳格な制度の運用を行うこととします 〉

このように、韓国に対する「経済制裁」を発動すると発表したのだった。具体的には、以下の2点である。

1)韓国に関する輸出管理上のカテゴリーの見直し
7月1日より、韓国に関する輸出管理上のカテゴリーを見直すため、外為法輸出貿易管理令別表第3の国(いわゆる「ホワイト国」)から大韓民国を削除するための政令改正について意見募集手続きを開始する。

2)特定品目の包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え
7月4日より、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の韓国向け輸出及びこれらに関連する製造技術の移転(製造設備の輸出に伴うものも含む)について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うこととする。

1)に関しては、公聴会を経て来月にも実施する。2)に関しては、すでに7月4日から実施を始めた。偶然かもしれないが、この日は21日に投開票が行われる参議院選挙の公示日だった。

この件に関する世耕弘成経産相の2日の会見、翌3日に世耕大臣が発したこの件に関する11回ものツイート、そして韓国の反応など、先週から大きな話題となっている。私は一連の経緯を追っていて、日本という国が「パンドラの箱」を開けてしまったことを、残念に思う。

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たしかに、昨秋からの韓国側の行動――徴用工有罪判決、慰安婦財団解散、自衛隊機へのレーダー照射などは、日本として、決して容認できるものではない。だがそうかといって、日本は今回のような「禁じ手」を使うべきだろうか?

この大人げない対応による、何とも言えない「胸のつかえ」を、少し冷静になって分析してみた。すると、以下の10点において、やはり今回の措置は「愚策」と言わざるを得ない。

1)貿易戦争に勝者はいない

「貿易戦争に勝者はいない」(貿易戦没有贏家)、「合わされば則ち両者に利があり、闘えば則ち俱(とも)に傷つく」(合則両利、闘則俱傷)――これらは、米中貿易戦争で習近平主席が再三、述べている言葉だ。

丸一年続いている米中貿易戦争で分かったことは、まさにそういうことだった。6月2日に中国商務部が発表した約8300字に及ぶ『中米経済貿易交渉の中国の立場に関する白書』(前文、第1章、2章、3章、結論、二つのコラム)には、その具体例が詳述されている。

〈 アメリカの対中追加関税措置によって、今年4月までで中国の対米輸出は5ヵ月連続下降し、アメリカの対中輸出は8ヵ月連続下降している。2018年の中国企業の対米投資は57.9億ドルで、前年比10%(9割減)まで落ちた。

貿易戦争によって、第一にアメリカ企業の生産コストが上がり、第二にアメリカの国内物価が急上昇し、第三にアメリカの経済成長が鈍化し、第四にアメリカの対中輸出が阻まれた。今後、アメリカが中国市場を失えば、過去10年で対中輸出のために得た110万人の雇用が消える…… 〉

今回の場合、韓国貿易協会の統計によれば、昨年の日韓貿易は、851億ドルである。うち日本から韓国への輸出が546億ドルで、輸入が305億ドル。すなわち日本にとって韓国は、貿易黒字を241億ドルも出してくれている貴重な国なのだ。

そんな韓国に拳(こぶし)を振り上げたら、上記3品目の輸出企業ばかりか、他の日本企業にも悪影響が出るのは必至だ。

実際、韓国では先週から、強烈な日本製品への不買運動が始まっている。例えば、ファーストリテイリングのHPを見ると、ユニクロは今年2月末現在で、186店舗を韓国で展開している。これは日本国内の825店舗、中国大陸の673店舗に次ぐ数だ。そして2018年会計年度は、韓国で1兆3732億ウォン(約1263億円)も売り上げ、2344億ウォン(約215億円)の営業利益を記録している。

ところが、日本政府の韓国制裁による反発で、韓国では「ユニクロ不買運動」が高まっている。韓国のテレビは連日、「ユニクロがガラガラ」というニュースを流している。誰がユニクロに入るか監視している反日団体もあるほどで、一般の韓国人が店に入ろうという気には、とてもならないだろう。

一事が万事で、日本のスポーツシューズ、菓子類、日本酒……と、不買運動は広がっている。

2)貿易戦争は韓国の産業界を利することになる

米中貿易戦争に絡めて、周知のようにトランプ政権は、ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)を狙い撃ちにして、強力な制裁をかけた。私は5月末に、深圳にあるファーウェイ本社を訪問して、状況を直接確認してきた。その結果判明したことは、逆にファーウェイ社内の結束が高まり、自前でのチップの生産に全力を挙げ始めたのである。

これまでは、「アメリカから買えばいいや」と思っていたものが、突然手に入らなくなるのだから、当然と言えば当然だ。だがそれによって、アメリカの半導体業界は大打撃となった。その結果、6月29日にドナルド・トランプ大統領は、「ファーウェイへの制裁の一部を解除する」と述べ、「後退」を余儀なくされたのだった。

同様に、今回の日本からの制裁を受けて、これまで「日本から買えばいいや」と思っていた韓国企業は、急ピッチで3品目を自前で作ろうとするはずだ。もしくは他国から買おうとする。

韓国紙『毎日経済新聞』(7月2日付)の記事によれば、今年1月から5月の韓国の輸出統計で、3品目の日本からの輸出は、フッ化ポリイミドが93.7%、レジストが91.9%、フッ化水素が43.9%である。

たしかに2品目は日本からの輸入が9割を超えているが、フッ化ポリイミドは台湾からの輸入が3.9%、レジストはアメリカからの輸入が7.4%ある。またフッ化水素は、中国からの輸入が46.3%で、日本からの輸入を上回っており、台湾からも9.7%ある。 つまり、必ずしも「日本がすべて」というわけではない。

こうしたことから取り急ぎは、アメリカ、中国、台湾などからの輸入を増やそうとするだろう。その間に韓国産を急ピッチで展開していくはずだ。実際、7月3日には、韓国政府が半導体の材料や部品、設備の開発に毎年1兆ウォン(約920億円)規模を集中投資していくと報じられた。

日本商工会議所の三村明夫会頭も、7月4日の定例記者会見で、こう述べている。

「(制裁の)中身を正確に理解した方がいい。やや全体として過剰反応していると思う。日韓は相互依存関係が続くと思うが、韓国は(3品目を)国内で自分で作るようになるかもしれない」

3)徴用工問題の解決につながらない

そもそも日本が目指しているのは、徴用工問題を円満に解決することである。ところが今回の制裁が、徴用工問題の解決につながっているかと言えば、まったくそうなっていない。むしろ、韓国人の反日感情に火をつけ、火に油を注ぐ結果になってしまっている。

徴用工問題に関しては、昨年10月30日、韓国の大法院(最高裁)が新日鐵住金に賠償命令を下した。11月29日、今度は三菱重工業に対して同様の判決を出した。

今年に入って、1月9日、日本が両国の政府間協議を要請したが、韓国側は無視。5月1日には、徴用工問題の原告側が、新日鐵住金などの資産売却命令を裁判所に申し立てた。同月20日、日本が仲裁委員会の設置を韓国に要請したが、無視された。

そんな中、私が韓国の知人たちと個別に会っていると、「彼ら(原告団及びその支援団体)は日本に対してやりすぎだ」という声をよく聞いたものだ。韓国の中にも、原告側の暴走やそれを止めない文在寅政権への批判を胸に秘めた人々が、少なからずいたのだ。

それが今回の日本側の措置は、皮肉なことに原告側の活動を大いに活気づけることになってしまった。

5日午前中にソウルの日本大使館前で行われたデモは、韓国メディアが大々的に取り上げた。8月15日の「光復節」(日本の植民地支配から解放された記念日)までの判決履行を求めていくという。

加えて、これまで沈着冷静だった上記の良心的韓国人の反日感情にも、火をつけてしまったのである。

4)韓国人観光客や就業者を失う

今回の日本の措置によって、韓国で起こり始めていることは、日本製品の不買運動とともに、日本への旅行中止運動である。「ボイコットジャパン サジアンスムニダ、カジアンスムニダ」(買いません、行きません)と書かれたプラカードやTシャツを身に着けた若者たちが、街を練り歩くようになった。

日本政府観光局の統計によれば、昨年日本を訪れた韓国人は、753万8952人で、全体の24.1%を占める。これは中国人838万34人(26.8%)に次いで多い。韓国人は昨年、日本で約5842億円も消費した計算になる。

これが大幅減となることは、日本の観光産業、とりわけ地方経済を直撃することになる。安倍政権は、東京オリンピック・パラリンピックを開催する来年、外国人観光客4000万人突破を目標にしている。この先、韓国人観光客が激減すれば、この目標達成が困難になるのは間違いない。

もう一つ指摘しておきたいのは、日本国内における韓国人就業者についてである。

韓国の不景気と、日本の人手不足が重なったことで、昨今、韓国人の若者たちが日本企業で就職することが、ブームになっている。韓国人従業員の勤勉さや日本語能力は申し分ないので、これは日本企業にとっても、大変ありがたいことだ。

私は週に一度、明治大学で東アジア国際関係論を講義しているが、200数十人の学生のうち、約50人が韓国人留学生である。彼らの多くは大学卒業後、韓国に戻らず、日本で日本企業に就職している。ここ数年の就職率は頗る高く、外国人バイトに頼るコンビニ業界ではないが、少なからぬ日本企業が、韓国の有為な若者たちを頼りにしていることを感じる。

ところが、日韓関係が悪化していけば、彼らも日本に居づらくなるから、帰国者が増えるだろう。そのことは、人材不足に悩む日本企業にとって、由々しき問題となってくる。

5)「政冷文熱」に水を差し、韓流ブームが崩れていく

2013年2月に始まった朴槿恵政権、及び2017年5月に始まった文在寅政権の期間中、安倍政権との政治関係は、ほぼおしなべてよくない。だが韓流ブームは絶好調で、「政冷文熱」とも言える状況が続いてきた。

韓国観光公社の統計によれば、昨年韓国を訪れた日本人観光客は、295万人に達した。これは前年比28%増である。こうした日韓交流の増加は、政治問題と関係なく、文化的関係が熱を帯びていることを意味している。

特に、女性と若者である。内閣府が昨年12月21日に発表した最新の「外交に関する世論調査」によれば、「韓国に対して親しみを感じる」「どちらかといえば親しみを感じる」と答えた日本人は、全体の39.4%だった。だが女性だけに限ると41.9%。18歳から29歳までの若者は57.4%と、過半数が「親韓派」なのである。

昨年12月に邦訳版が出た趙南柱(チョ・ナムジュ)の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』は、今年前半の日本の文芸界の話題をさらった。3月に13万部を突破し、いまも売れ続けている。

読んでみると分かるが、この小説のストーリーは、多分に韓国的だ。34歳の専業主婦キム・ジヨン(1982年生まれの韓国人女児で最も多かった名前をつけた)は、IT企業に勤める男性と2年間付き合った末、3年前に結婚し、1歳の娘と3人暮らしだ。

そんな中、彼女に他人の人格が瞬間的に乗り移る現象が見られるようになる。自分の母親になったり、親しかった先輩女性になったりするのだ。そして「秋夕」(チュソク=旧盆)の日、釜山の夫の実家に一族が集まっている席で、ジヨンに自分の母親が憑依して、夫の両親への不満をぶちまけてしまう。驚いた夫は、彼女を産後の鬱病ではないかと疑い、精神科に行かせる。

精神科医は、彼女を解離性人格障害と診断する。病院通いを機にジヨンは、自分の人生が生まれてから現在まで、女性だということで、韓国社会の中でいかに差別を受けてきたかを振り返る……。

この本は、2014年に韓国で発売されるや100万部を超えるベストセラーとなり、文在寅政権がたびたび、この本を取り上げて女性差別やセクハラ防止を訴えている。そのような「文在寅公認本」が、日本でバカ売れしているのである。

K-pop部門でも、「防弾少年団」(BTS)をご存じだろうか? 2013年6月に韓国で結成された男性7人組のヒップホップ・アイドルグループで、言ってみれば「韓国版ジャニーズ」のような存在だ。アジア人初のビルボード1位を獲得し、今年2月10日には、グラミー賞のプレゼンターも務めた。

彼らは2014年6月に日本デビューを果たし、「日本中の女性を虜にした」という意味では、あの「ヨン様」以来の存在感を見せている。これまでオリコン週刊ランキングで1位になったシングル曲が4曲もあり、2017年6月には雑誌『an an』の表紙を飾った。

7月3日にユーチューブにアップされたばかりの日本語バージョンのオフィシャル・ミュージックビデオ最新作『Lights』の再生回数は、わずか5日後の8日現在で、2152万回にも上り、オリコンのデイリーシングルでトップだ。ちなみに、私がこのユーチューブを見た時、最初に安倍首相が映った自民党の選挙コマーシャルが出てきて、思わず苦笑してしまった。

韓流ドラマも、日本ですっかり人気が定着した感がある。テレビのBS放送を観ると、各局とも韓流ドラマに力を入れている。NHK総合も4月には『オクニョ運命の女』(全51話)を放映し、好評を博した。

多くの韓国ドラマの買い付けを行っている日本企業のバイヤーも証言する。

「ますます韓流ドラマの『爆買い』に拍車がかかっている。2015年には、1話あたり3万ドルが相場だったが、昨年から1話あたり20万ドルのドラマが続出するようになった。

例えば、『100日の郎君様』は1話あたり23万ドル。年初に韓国で放映終了した『ボーイフレンド』は、韓流ドラマ史上最高額の1話あたり30万ドルで契約が決まった。『ボーイフレンド』は全16話なので、計5億3000万円だ」

「韓流の聖地」と呼ばれる東京・新大久保は連日、ものすごい賑わいを見せている。今回の安倍政権の措置は、こうした日本人が楽しんでいる韓流ブームにも水を差すことが懸念されるのである。安倍首相の昭恵夫人も韓流ファンとして知られるから、夫婦ゲンカが起こるかもしれない。

6)弱者が強者に勝つ場合がある

アメリカと中国の貿易交渉、及びアメリカと北朝鮮の核交渉を分析して分かることは、本来なら強者であるアメリカが勝って然るべきだが、必ずしもそうなってはいないことである。それは、弱者の方が「本気度」で勝るからだ。

中国も北朝鮮も、「国を挙げて」アメリカに対抗していこうとしている。それに対し超大国のアメリカは、他にも解決せねばならない問題が山積しているので、あくまでも「片手間」で処理しようとする。その「本気度」の差によって、いつのまにか弱者が強者を凌駕していくのである。

今回の日韓問題について言えば、昨年の日本のGDPは韓国のちょうど3倍(日本が世界2位で韓国が12位)ほどなので、日本の方が強者である。もちろん、上記3品目に関しては、日本から中国に輸出しているのだから、日本の方が強者だ。

だが、日本政府の韓国への制裁は、あくまでも「片手間」にすぎない。その象徴的な例が、安倍首相の「忠臣」として知られる担当大臣の世耕経産相である。

あろうことか世耕大臣は、7月2日の会見で、前日に経済産業省が発表したこれほどの重大事を、自ら冒頭で説明しなかったのだ。

世耕大臣が冒頭で発言したのは、経済産業省が翌日開くイベント、山形県で起こった地震、そして経済産業省の幹部人事についての3点のみだった。それで記者たちが苛立ち、質疑応答になって、5回も連続して韓国制裁問題を質したのだ。しかも世耕大臣は、いまや韓国制裁のことなど忘れてしまったかのように、自らの選挙に奔走している。

それに対し、韓国は「国を挙げて」日本に対抗している。内政外交で窮地に立っていた文在寅政権は俄然、勢いづき、これまで文在寅政権に冷ややかだった市民たちまでもが、「反日」で共同歩調を取り始めた。さらに、来年4月に総選挙を控えているだけに、今後「反日」が盛り上がっていくのは確実だ。

例えば、韓国が対抗措置として、圧倒的優勢を誇る有機ELパネルや半導体の対日制裁をかけてきたらどうなるのか?

今後、「本気度」で勝る韓国の方が、日本を凌駕するようになっていく可能性が高い。

7)日本は争いに慣れておらず、危機に弱い

日本という国は、周知のように1945年以降、平和主義を貫いている。従軍した世代はほぼ絶えて、この74年間、平和にのほほんと生きてきた。つまり、争いに慣れておらず、危機に弱いのである。

至近な例で言うと、安倍首相が、「友人」のトランプ大統領のため一肌脱ごうと思ったのか、参院選前に外交得点を稼ごうとしたのかは不明だが、先月突然、イランを訪問した。だがアメリカとイランとの対立は1?たりとも動かず、逆に最高指導者のハメネイ師に説教され、あげくに日本のタンカーを襲撃されるという醜態をさらして帰国した。

それに対し韓国は。米中ロ日の4大国に挟まれ、常に「争い」の中で生きている。かつ、1953年に朝鮮戦争が休戦になったものの、それ以後も北朝鮮との対立は続いており、「危機」は常態化している。約2年の徴兵制も維持している。つまり「危機に強い体質」を維持しているのだ。

過去の日韓の争いを見ると、教科書問題、竹島問題、慰安婦問題など、いずれも「危機に強い」韓国側の強引な言動や要求などが、ある程度通っている。今回の徴用工問題に関しても、日本が「参戦」したことで、「危機に強い」韓国側のペースにハマっていくリスクがある。

8)日韓の争いは中国を利する

周知のように日本と韓国は、同じアメリカの同盟国であり、自由・民主・人権といった価値観を共有する民主国家同士である。

今世紀に入って、周知のように東アジアにおいて、社会主義国の中国が急速に台頭しており、東南アジアでも、経済を牛耳っているのは華僑グループである。そんな中、この地域で日本と韓国だけが「非中華圏」と言える。

だが、両国が争えば争うほど、社会主義国の中国を利することになり、相対的にこの地域でのアメリカのプレゼンスが落ちていく。「日韓弱って中国栄える」ことは、日本にとってよいはずがない。

過去には、日韓が争うと、互いの同盟国(親分)であるアメリカが、常に仲裁してきた。そもそも1965年に日韓国交正常化が実現したのも、アメリカの後押しが大きかった。その後も、2015年末の日韓慰安婦合意に至るまで、いつの時代もアメリカの歴代政権が、裏で巧妙に調整役を担ってきたのだ。

ところが、2017年以降のアメリカは、あの特異な「商談外交」を貫くトランプ政権である。大統領自ら「アメリカ・ファースト」と宣言しているように、とてもアジアの二つの同盟国のために汗をかいてくれるような政権ではない。

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そのため、日米同盟と米韓同盟を断ち切ることを目指している中国にとって、そもそも有利な状況が、東アジアで生まれているのである。そこへもって日韓が激しくいがみ合えば、まさに中国の高笑いが止まらなくなる。

その意味でも、日韓は協力・協調するのが正しい道である。両国がいがみ合うことは、長期的に見たら、両国が「中華圏」に入ってしまう道を早める行為に他ならない。

9)国際社会から「トランプと同じ」と見られるリスク

冒頭述べた「安倍政権のトランプ化」は、別に私が最初に述べたものではない。

例えば、日本が韓国制裁を発表した7月1日、米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、「トランプは日本へ行き、日本は彼につく 東京の捕鯨と通商政策は大統領のアプローチの真似を示している」と題したコラムを掲載した。

同紙は翌日も、「自由貿易のチャンピオンである日本がトランプのプレイブックから1枚を取る 韓国との通商摩擦によるグローバルな技術のサプライチェーンのダメージについて日本に懸念が広がっている」と題した記事を掲載した。

〈 技術の輸出を外交上の武器に使うという日本の決定は、国際的に連結した世界で、資源に乏しい国の脆弱性を長い間認識してきた国にとって、激動する戦略転換のシグナルとなっている…… 〉

このように今後、安倍首相が国際社会から「ミニトランプ」と見なされていくリスクが出てきた。アメリカのような圧倒的軍事力を持たない日本の首相が「トランプ気取り」をやっても、日本の国益にならないのは自明の理だ。

10)日本人の精神に合わない

最後に言いたいのは、日本よりも国力が劣る国への「制裁」は、日本人の精神に合わないということだ。

例えば、日本人がいまも敬愛している武士道は、「仁」や「礼」を重んじる。前者は「他者を思いやる心」であり、後者は「思いやりを形に表したもの」である。これらは「武士の情け」という日本の諺にもなっている。

武士は刀を下げているが、これは人を殺めるためのものではなく、あくまでも「名誉」の象徴である。

明治維新期の徳川幕府方の最大の功労者である勝海舟は、何度も暗殺の危機に遭いながら、「我は殺されても殺さず」と言って、決して刀を抜かなかった。いまでも日本語に「寸止め」という武士道の用語が残っているが、むやみに刀を抜くことは、決して日本人の美徳ではない。

***

以上、縷々書き連ねてきたが、安倍首相の「トランプ気取り」は、日本の国益にはならず、韓国と冷静に、粘り強く解決の道を探っていくべきだというのが、私の結論である。