記事のポイント
ガルニエは「ムース」製品の言葉遊びを軸に、SNS発のキャンペーンを展開した。
キャンペーン後、対象商品はAmazonのスタイリング製品ランキングで10位から7位へ上昇した。
同ブランドは広告主ではなく「カルチャーの参加者」として、ゼニアル世代との接点を強めている。


5月12日、ヘアケア・ビューティブランドのガルニエ(Garnier)はインスタグラムに、動物のヘラジカ(moose)の画像と「moose_campaign_v4」というキャプションを添えたグリッドモックアップを投稿した。

その後数日間、創業122年のこのマスビューティブランドは、リアリティ番組『ラブ・アイランド(Love Island)』の元出場者TJ・パルマを起用したキャンペーンを公開した。キャンペーンの架空の設定上、パルマはガルニエのソーシャルメディアマネジャーとして雇われ、新たにパッケージリニューアルされたフラクティス・カール・ムース(Fructis Curl Mousse)を宣伝する役を担っているが、その指示を誤解し、本物のヘラジカを中心に据えたキャンペーンを作り上げてしまった、というものだ。

ヘラジカ×ムースの言葉遊びでバズを生む



「過度に作り込むのではなく、ソーシャル上の会話に乗っかり、コミュニティと本当に楽しいことをやりたかった。そしてときとして、それは言葉遊びのようなくだらないものになるのだ」と、ガルニエの米国マーケティング・事業運営担当AVPのフィリップ・タバック氏は語る。

キャンペーンの企画経緯について問われたタバック氏はこう述べた。「もしニューヨークでヘラジカが逃げ出したら(a moose was loose in New York)どうなるか、という議論をしていた。もしニューヨーク市にヘラジカが本当に逃げ出していると人々が思ったら、SNS上の会話はどうなるだろうか、と」。

キャンペーンのメイン動画では、ブランドの「社員」たちが、マーケティングマネジャーが当初ガルニエのインスタグラムアカウントがハッキングされたと思い込み、その後、パルマが「ムース(mousse)キャンペーン」を作る任務を「ヘラジカ(moose)キャンペーン」を作る指示だと誤解していたことに気づく、というシーンを演じている。

このネタは、インスタグラムのフォロワー数290万人を誇る@subwaycreaturesとのコラボ投稿へと続き、そこではガルニエのジャケットを着たそのヘラジカが地下鉄に乗っている様子が描かれた。後日の投稿でパルマはついに自身の間違いを認め、動画の冒頭で「どうやら、ムース(mousse)らしい」と語ったあと、製品を使ったチュートリアルをはじめている。

パルマとの共同インスタグラム投稿に加え、同ブランドは22人のクリエイターを起用してこの会話に参加させた。そのなかにはハリー・ヒル(インスタグラムフォロワー数8万3000人)、ジャズミン・スミス(TikTokフォロワー数57万4000人)、ミア・カラブレーゼ(インスタグラムフォロワー数23万2000人)が含まれ、いずれもヘラジカと一緒のコンテンツを投稿した。

この言葉遊びを使ったキャンペーンの結果、24時間以内に、問題のムース製品はAmazonのスタイリング製品トップ10ランキング(プラットフォーム上の販売実績ベース)で10位から7位へと上昇した。現在は6位につけている。

パルマが起用された理由のひとつは、彼が以前から同ブランドと接点を持っていたことだ、とタバック氏は語る。「彼の母親は彼が育つあいだガルニエを使っていた。彼が初めてスタイリング剤を使ったのは、母親のガルニエのヘアスプレーだったのだ」。

加えて、ガルニエは自社をユニセックスなヘアケアブランドとしてより明確に位置づけたいと考えており、その一環として意図的に男性クリエイターとの協業を増やしている。

「ゼニアル世代」を狙うカルチャーファースト戦略



このムース/ヘラジカキャンペーンは、ロレアル(L'Oréal)傘下のガルニエがここ1年半にわたって強化してきた、カルチャーファーストのマーケティング戦略の最新事例である。この期間、同社はインターネットユーモア、ファンダム、リアリティ番組、デート文化、そしてカルチャー固有のストーリーテリングを軸にしたキャンペーンを次々と展開してきた。

ターゲットは「ゼニアル世代(1977年から1985年頃に生まれた世代)」だと、新設のポジションであるガルニエUSのブランドイメージ&エクスペリエンス責任者ライアン・ブリッセンデン氏は語る。

この方針転換は、伝統的なマーケティングの効果が薄れ、消費者が自身のソーシャルコミュニティやカルチャー上の会話から影響を受ける世界において、消費者主導で起きてきたとブリッセンデン氏は述べる。「今日の消費者は非常に賢く、自分たちの暮らし方や話している話題、その瞬間にエンターテイメント性や関連性、意味を感じられるものを理解しているブランドを求めている」と同氏は語る。

「そのため我々は、従来の広告主のように考えるのではなく、むしろカルチャーの参加者として考えることを求められてきた。その結果、我々はガルニエを、消費者がすでに関わっているカルチャー上のモーメントやコミュニティに、本物らしく、会話的に、そしてときには予想外のかたちで織り込むことに注力してきた」。

「ブランドは生き生きしていなければならない。それは生きた文化の一部なのだ」とブリッセンデン氏は述べる。「ガルニエは、ブランドが生き生きとした形で存在感を示すことができる、こうした文化的瞬間に真に焦点を当ててきた」と同氏は語った。

ジゼルからシェールまで、幅広いタレント起用



その戦略により、多種多様な才能とのパートナーシップが実現した。この1年でガルニエは、リアリティ番組『バチェロレッテ(Bachelorette)』の元出場者であるグレッグ・グリッポ、ジャスティン・グレイズ、ジェイソン・タルティック、ニコール・スヌーキー・ポリッツィやルアン・ド・レセップスといったリアリティスター、ミュージシャンのベッキー・G、クィア・ラテン系ラッパーのヤング・ミコ、女優のソチル・ゴメスやクリスチャン・セラトス、そして直近では、2026年初めに同ブランドのグローバルアンバサダーに就任したスーパーモデルのジゼル・ブンチェンと協業してきた。

ブンチェンとのパートナーシップは、『ザ・シグネチャー(The Signature)』と題された大胆なショートフィルムでスタートし、YouTube上で120万回以上の再生を獲得している。6月、同ブランドはダイヤモンド・スリーク(Diamond Sleek)コレクションの新キャンペーンで、ソチル・ゴメスとシェールをペアリングする予定だ。

パートナーの幅広さは意図的なものだ、とブリッセンデン氏は語る。「重要なのは、我々のコミュニティと直接的なつながりがあり、ブランドと非常に合致しているパートナーを活用することと、ジゼルのような世界的な著名人と協力することでブランドイメージを高めることのバランスを取ることだ」。

「しばらくのあいだ、ブンチェンのようなレベルのスポークスパーソンはいませんでした。彼女と仕事をすることで、ブランドの価値を高め、彼女の価値観と我々の価値観を一致させるのにおおいに役立つ」と同氏は語った。

ブリッセンデン氏は、ガルニエの最近のマーケティング戦略の進化について、ブランドの文化的イメージを刷新するさまざまな取り組みの一環であると説明した。そのうえで、ガルニエが長年築いてきた「手軽さ(アクセシビリティ)」と「心地よい美しさ(フィールグッド・ビューティ)」というポジショニングを、さらに強固なものにするための手法でもあると述べた。

「ガルニエはこれまで歓び、楽観性、つながりをテーマにしたブランドだった。そして我々はいま、これをメガブランドレベルで言語化するための基盤づくりに取り組んでいる」とブリッセンデン氏は語り、同ブランドが展開をはじめている『Made to Feel Good』という新たなマーケティングプラットフォームに言及した。

「このプラットフォームには、植物の力を活かしていることや、ヴィーガンかつクルエルティフリー(動物実験なし)であるといった、ガルニエならではの独自の立ち位置と専門知識が凝縮されている。それと同時に、ブランドのアイデンティティを形作っている、五感に響く体験的な要素もすべて網羅しているのだ」。

[原文:From TJ Palma to Cher: How Garnier is reinventing mass beauty marketing]

Sara Spruch-Feiner(翻訳、編集:藏西隆介)