解体・撤去作業が進む大阪・関西万博の会場跡地=4月13日、大阪市此花区夢洲(写真:共同通信社)


閉幕から8カ月近く経った「大阪・関西万博」。地元の経済界やメディアはこぞって「成功」と総括するが、実際はどうなのか。折しも、来春には大阪市の廃止を問う「大阪都構想」住民投票が行われる見通しになった。推進する大阪維新の会代表の吉村洋文・大阪府知事は「万博が成功し、都構想への思いが強くなった」と語るが、万博は成功したと現段階で本当に言えるのだろうか。各種経済指標から検証する。

(三浦 健史:ライター)

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

来場者2558万人の半数が大阪府民

 大阪・関西万博について大阪人に聞くと、すこぶる評判が良い。イベントとして単純に面白かったというのが圧倒的な意見だ。当初掲げていた2820万人には及ばなかったが、一般来場者数は2558万人と目標の9割に達し、その半数を大阪府民が占めた。府民のリピート回数も他府県に比べ際立っている。

 事実、万博は大阪府民にとって極めてコスパの良いレジャーだった。在阪企業を中心に事前に700万枚近くの前売券が購入され、それが社員に福利厚生として大量に配布された。どこからかチケットが回ってきたからタダで行けた、という声をよく聞く。

 通期パスも3万円と格安で40万枚も売れ、同パス利用者の平均利用回数が11.8回(1回当たり2542円)であることを勘案すれば、インフレで容易に海外に行けない中にあっては、極めて安価で疑似海外を楽しめるイベントだったのである。

 こうしたコスパの良さに加え、地元メディアの応援もあった。関西ではNHKが毎日朝のニュースで万博イベントを紹介し、民放の夕方の情報番組はどの局も万博会場からの中継を入れていた。実際、ビデオリサーチによる調査でも、来訪のきっかけの情報入手経路は地上波テレビ放送が36.5%とトップだった。

 会場内のメディアセンターの運営をはじめ、テレビ局や広告代理店へ発注された運営管理予算は150億円を超え、さらにこの外側に広告宣伝としての機運醸成費が加わったのだから、ビジネスとしては当然だろう。

大阪・関西万博の会場跡地に残る、保存される大屋根リングの一部=4月13日(写真:共同通信社)


「成功」評価は情緒的、目立つ負のニュース

 しかし、イベントとしての成功と地域経済への投資効果とは全く別だ。 事後に大阪商工会議所が行った企業アンケートでは92.7%が「成功だった」と回答しているが、上位に並ぶ理由は「大阪・関西の認知度が高まった」が最多であり、続いて「国際交流が拡大した」という情緒的なものである。

 そもそも事前に宣伝された主催者サイド発表の経済波及効果とは、単純に建設費などを産業連関表に投入して算出したもので、同じ予算額で別の事業を行ったとしても似たような効果額になるバーチャルなものだ。外からの消費を生み出さなければ、消費誘発効果も単に域内の別の消費から置き換わっただけにすぎない。

 またSNS上の称賛の声も、発信者の多くが万博関連の委員会メンバーや関係者で、評価の独立性には疑問が残る。

万博期間中にトラブルが相次いだEVモーターズ・ジャパン製の電気自動車バス。大阪メトロは路線バスへの転用を断念し、67億円の特別損失を計上した=4月、大阪市城東区(写真:共同通信社)


 むしろ、万博の目玉になるはずだった日本初のEV商用車メーカー「EVモーターズ・ジャパン」の民事再生法適用申請や、海外パビリオンの工事費未払い問題など、負のニュースばかりが目立つ。万博を契機に淀川左岸線などインフラ整備が進んだのだという考えもわかるが、本当に必要なら万博と関係なく整備すればよいだけだ。

 やはり万博があったからこそ大阪に産業集積が図られ、都市が発展したという事実が欲しい。こうした現実の経済効果がなければ、単に公共や民間が巨額の資金を拠出して浪費しただけになってしまう。

 だが統計を追っても、万博が大阪経済の基調を押し上げた痕跡はまだ確認できない。

大阪から本社移転止まらず44年連続で「転出超過」

 今年3月に発表された帝国データバンクの調査結果は衝撃をもって受け止められた。大阪府における本社移転が、44年連続の転出超過だったのである。もっとも1970年の大阪万博以降、大阪の域内総生産シェア、人口、経済規模はずっと下落傾向にある。今回の万博こそ、この長期トレンドを反転させる契機になると期待されたのだが。

 日銀短観で大阪企業の景況感を見ても、中小企業や素材産業といった従来大阪の強みであったところの数字がふるわない。素材系業種の鉱工業生産指数も2020年水準にまで戻っておらず、大阪で大きなウェイトを占める機械ですら徐々に在庫が積み上がり始めている状況だ。先行きについての回答も、不動産、情報通信を除けば軒並み不確実性が増している。

 2025年度の大阪府の企業倒産(法的整理)にしても4年ぶりに前年を下回ったとの報道がなされたが、実は休廃業は過去最多となっている。

新規求人9カ月連続減少、宿泊・飲食が大幅に縮小

 こうした動きと並行し、当然大阪府内の有効求人数も9カ月連続で減少している。求人倍率はこの3月で1.12倍と、万博準備期のピークから0.2ポイントほどマイナスとなっている。特に宿泊業、飲食サービス業の求人が大きく落ち込んでいる。

 梅田の再開発ビルの飲食は好調そうに見えるが、市内周辺部に目を向けると飲食の閉店・入れ替えが目立ち始めているからだ。関西地域の延べ宿泊者数も、2025年は万博が開催されたにもかかわらず前年比101%とほぼ横ばいで、日本人に限ればマイナス15%である。

 万博で新規に雇用された人員は警備を中心として非正規の高齢者が多く、所得増が地域消費に波及したとは言い難いのだろう。万博期間中、関西の観光地の入り込みがふるわなかったこと、入場者の大半が地元民であったことを考えると、単に消費先が域内で振り替わっただけに過ぎない。万博関連の入札契約を整理しても、大阪企業が受注したと思われるのは全体の45%程度である。

 雇用に不透明感が残れば、個人消費の動きも弱含みとなってしまう。大阪の百貨店売上高は、2025年度は前年度微減の1兆72億円。万博開催期間(4〜10月)に絞っても売上は減少している。関西地域の百貨店免税売上は前年の8割以下で、インバウンド需要の伸びも鈍化しているのだ。また万博があったにもかかわらず、2025年の大阪府の延べ宿泊者数は前年比微増にとどまっている。

 府内の新設住宅着工戸数は、2025年度は6.4万戸と前年から1割減。個人消費・住宅投資の双方で、万博による押し上げ効果が確認できない。

不動産は「梅田一極集中」、その他は停滞

 こうした動きに反して、不動産だけは調子が良い。大阪市内で土地、賃料が強く上昇する動きが見られる。市内中心部の商業地を中心に前年比2桁の上昇だ。いわばラグジュアリーブランドの路面店が並ぶエリアである。とはいえ、地価は万博会場に隣接する此花区、港区、住之江区の住宅地はさほど上昇していない。

 一方オフィスの賃料に目を向けると、上昇は梅田に限られる。難波、心斎橋、淀屋橋などのオフィス賃料は、維新の会創設者の橋下徹氏が大阪府知事に就任した2008年以前の水準には戻っていない。

移転してくる企業が相次ぐ梅田のグラングリーン大阪=大阪市北区(写真:共同通信社)


 梅田だけはトップレント(エリアで最も高い水準の賃料)となる新規の大型再開発ビルが次々と建設され、賃料上昇をけん引できているが、それ以外の地域では、築年数がかなり古いビルの賃料を上げようと思っても、賃料負担の上昇に耐えられる企業は梅田もしくは東京、そうでなければ兵庫県へ移転してしまうので、賃料が上がっていかない。しかも、そうした築古ビルの跡地はマンションばかりが建設されている。

 そのマンションも、大阪市内に限れば坪500万円の物件が即日完売する一方、それ以外の府下や隣接する兵庫県や神戸市では契約戸数、契約率ともに低下気味だ。東京と比べてエリートビジネスマン層や起業で成功した新富裕層の絶対数が少ないから限界が出てくる。

 つまり、不動産市場は一見好調だが、実態は梅田への一極集中と周辺部の停滞という二極化が進んでいると言える。

イベントとしては「成功」でも投資としては「失敗」か

 整理すると、大阪・関西万博は、地元住民にとっては格安で楽しめる一過性の「レジャーイベント」としては成功した。だが投資としての成果はいまだ統計には表れていない。

 経済産業省が発表した万博効果のまとめ資料も「新たな価値観への気づき・共有」「つながり・交流の拡大・深化」とポエムのような観念的な言葉が並ぶ。具体的経済効果も大阪・関西の知名度上昇による観光産業への波及が言及されるばかりだ。

 なぜこうなったのか。理由を考えるに、第一に、万博需要と大阪の産業構造が噛み合わなかったことにあるのではないか。受注の半分以上は大阪府外に流れ、雇用も非正規中心で、所得波及は限定的だ。

 第二に、会場エリアが中心部と離れ過ぎていたことがある。そのため、会場周辺エリアの都市開発が進まず、相変わらず不動産投資が梅田に集中し、周辺部には波及していない。事実、地価やオフィス賃料の上昇は梅田のみで、都市全体の成長にはつながっていない。

 第三に、長年続く本社転出と人口停滞という構造問題を覆す力を万博は持たなかったのではないか、ということだ。もちろん、これから空飛ぶクルマや再生医療などの新産業創出が実現されるかもしれないが、現状は不透明だ。

 今後、万博の成否を語るうえでは、イベントとしての成否と、投資としての成否を明確に区別する必要がある。両者を混同すれば議論はかみ合わない。単にイベント開催で大阪の知名度向上や国際交流を成果とするのであれば、万博という巨額投資はあまりに非効率だ。

 投資効果とは、イベントの賑わいや一時的な消費活動のことではなく、産業集積という“持続的な変化”を生むことである。もちろん、こうした投資は10年単位でみるべきだ、という意見は正しい。だったら、なおさら現時点で「成功」と結論付けるのはおかしいのである。

筆者:三浦 健史