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「再審」制度の見直しをめぐって、後ろ向きな姿勢を崩さない法務省や検察庁に対して、冤罪の被害者や弁護士だけでなく、与野党の国会議員からも批判が噴出している。

なぜ、これほどまでに“抵抗”するのか。現場で働く職員の声を取材すると、検察幹部が恐れていることが見えてきた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●袴田事件や福井事件でようやく見直しが議論に

再審は、刑が確定したあとに裁判のやり直しを求める手続きのことを指す。いわゆる「再審法」という独立した法律があるわけではなく、刑事訴訟法に定められた計19の関係条文をまとめてそう呼んでいる。

しかし、その規定は不十分なまま、70年以上にわたって見直しがされず、「無実の人を救えない制度だ」と批判され続けてきた。

こうした中、2024年から2025年にかけて、静岡一家4人殺害事件で死刑囚とされた袴田巌さんと、1986年の福井女子中学生殺人事件の前川彰司さんが、再審で無罪となった。

これらの事件では、検察官の不服申し立てによって再審開始まで長い時間がかかったことや、被告人に有利な証拠が開示されていなかった問題などが次々と明らかになった。制度見直しの機運が高まる大きな契機となった。

●制度設計の中に検察の影響が

2024年3月、超党派の議員連盟が主導して法改正に向けた議論が始まった。しかし、改正案のとりまとめが進む中で、法務省の議論が動き出す。

法務大臣の諮問を受けた法制審議会は2026年2月に見直し案をまとめ、それに沿った形で法務省案が作成された。ところが、この内容をめぐり、自民党内の会議で議員から異論が続出している。

法務省は4月15日に修正案を示したが、多くの議員が何度も求めている「検察官抗告の禁止」や「全面的な証拠開示」は盛り込まれず、「ふざけるな」などの怒号が飛び交う事態となった。

背景の一つとして指摘されるのが、改正案の作成にあたる法務省刑事局の人事構成だ。刑事局には検察庁から出向した検察官が多く、刑事局長も検察幹部だった人物だ。

そのため、冤罪の原因を検証されるべき当事者が、冤罪を防ぐための制度設計の中に入り込み、検察の意向が強く反映されやすい構図になっている。

●法改正が不可避とみるや抵抗続ける

こうした構造が、再審制度の見直しを難しくしてきた面は否めない。「無実を晴らせないまま亡くなった人はたくさんいるはずだ」といった指摘も根強い。

意図的な証拠隠しなど、組織的な犯罪と言っても過言ではない実態が次々と明らかになりながら、第三者による検証を実施することもなく、法改正が不可避とみるや法案作成の過程で抵抗し続ける。

それが今、霞が関と永田町で起きていることだ。

●検察内部にも「全部開示でいい」の声

一方で、検察も一枚岩ではない。

ある検察関係者は「現場の第一線の検察官世代からすれば、証拠なんて、すべて弁護人に開示すべきだという考えも少なくない」と語る。

そのうえで、こう続けた。

「平成初期より前の事件では、自白の強要がまかり通り、圧倒的に供述頼みのもろい捜査だった。そういう時代の捜査を知る上層部ほど、再審開始が右肩上がりに増えることを懸念して、検察官抗告の禁止や証拠の全面開示に反対しているとしか思えない」

●幹部やOBの懸念、過去の危うい事件の「掘り返し」?

別の検察関係者も、過去の事件との関係に言及した。

「裁判員裁判が導入された後は、証拠開示が広い範囲で義務付けられたが、今でも、『存在しない』と言っていた証拠が後から出てくるケースがある。導入前は、通常審で証拠開示の制度がなかったので、なおさら不都合な証拠は開示されていないケースが多いだろう」

つまり、古い事件ほど、再審が始まれば再検証にさらされ、新たな問題が明らかになる「パンドラの箱」が多く存在している可能性があるということだ。

見方を変えれば、過去の捜査に関わった検察幹部やOBにとって、自ら関わった事件が掘り返される“リスク”が高まることへの警戒感があるともいえる。

●影響は再審だけにとどまらない可能性

法改正の影響は、再審手続きにとどまらない可能性もある。

前出の検察関係者は声をひそめて、こう指摘する。

「検察を対象にした国家賠償請求訴訟はハードルが高く、違法性が認められることはなかなかない。それは、検察側が不都合な証拠をそれまでの刑事裁判で開示していないからだ。だから、原告としても立証がとても難しい。

だが、もし今後、法改正によって検察側が不都合な証拠も開示しなければならなくなると、国賠での違法性も認められやすくなってしまうだろう」

●組織の上層部への不信も「威信を守ろうとしているだけ」

同じ検察の中でも、世代や立場によって考え方に温度差がある。組織の上層部に不信感を抱く職員も少なくないようだ。

ある関係者は、再審制度の見直しに抵抗する法務・検察の対応についてこう語る。

「単に自分たちがしてきた捜査の否定を恐れ、検察の威信を守ろうとしているだけのようにも見える」