製作したバイオリンを持つ池尻雅博さん=2026年2月、愛知県一宮市

 愛知県一宮市の閑静な住宅街に、夫婦でバイオリンの製作や修理を手がける「池尻弦楽器工房」がある。職人の池尻雅博さん(53)は28歳で脱サラし、楽器製作の道に進んだ珍しい経歴を持つ。本場イタリアで磨いた技術を駆使したバイオリンは「力強く華やかな音」と評判。池尻さんは「何百年と弾き続けてもらえる楽器を作りたい」と目を輝かせる。(共同通信=木村海里)

 「ゴリッ、ゴリッ。シュッシュ」。ノミやカンナで木を削る音が工房に響く。壁一面に並ぶ工具を使い、手元を照らすランプの明かりを頼りにミリ単位の細かな作業を行う。工程ごとに分担する工場製とは異なり、目指す音色に向け手作業で当たり、完成まで2〜3カ月程度かかる。修理依頼や講師業などとの兼ね合いから、製作できるのは年間わずか三つほどだ。

 広島県福山市出身の池尻さんは物作りが好きな子どもだったが、兄のバンド活動に影響を受け、中学からドラムを始めた。専門学校を卒業後、仕事の傍ら趣味として音楽を再開。中高時代に熱中したドラムではなく、単体でメロディーを奏でる楽器を弾きたいとバイオリンを選んだ。

 ある日、図書館で目にしたバイオリンの製作本をきっかけに物作りへの気持ちが再燃。28歳で会社を辞め、東京の音楽学校で技術を学び、弦楽器専門店の修理担当として就職した。同じ職人の瑞穂さん(44)と2006年に結婚し、さらなる技術向上を目指し夫婦でイタリア北部のクレモナへ。歩くだけでどこからかバイオリンの音色が響く街。夫婦そろって学校の授業を受け、名器を見るため足しげく博物館に通った日々を池尻さんは「豪勢な生活ではなかったが、長い新婚旅行をしていたような気分だった」と笑顔で振り返る。

 帰国後、店をオープン。2026年4月には、一宮市内の別の場所に移転予定だ。池尻さんは「楽器が本来持つ力を発揮できるよう、技術を身近に届けたい」と話す。

バイオリンを製作する池尻雅博さん=2026年2月、愛知県一宮市

工房でバイオリンを持つ池尻雅博さん=2026年2月、愛知県一宮市