フリーの演技を終えて抱き合う三浦璃来・木原龍一組【写真:ロイター】

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ミラノ・コルティナ五輪

 ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケートのペア・フリーが16日(日本時間17日)に行われ、三浦璃来・木原龍一組(木下グループ)がフリー世界新となる158.13点をマーク。自己ベストの合計231.24点で、涙の金メダルを掴んだ。2019年のペア結成から遂に五輪チャンピオンに。「巡り合えたのは奇跡」と語る2人には、信頼を崩さないためのちょっとした“約束事”があった。

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 ショートプログラム(SP)はまさかの5位。一瞬よぎった絶望は、1日で跡形もなく消し飛んだ。

 フリーは「グラディエーター」。トリプルツイスト、3回転トウループ―2回転アクセル―2回転アクセル、スロー3回転ループなどをほぼミスなく成功。SPで失敗したリフトも問題なく、本来のりくりゅうらしい美しさで観客を魅了した。フィニッシュで木原は男泣き。リンクサイドで歓喜するコーチ、スタッフだけでなく、観客席で見守った坂本花織も涙した。

「龍一君に巡り合えたのは奇跡なんだよ」。三浦が周囲からよく言われることだという。

 木原は「辞めようとしていた時、声をかけてくれた。この出会いがなければこうして(北京からの)2大会五輪に出られなかった。感謝しかない」と振り返る。引退を考えていた2019年夏、三浦から誘いを受けてペアを結成。昨年4月の国別対抗戦でも「自分たちはいろいろ苦労があって、ようやく巡り合えたパートナー」と表現している。

 2022-23年シーズンにはグランプリ(GP)ファイナル、四大陸選手権、世界選手権を同一シーズンに制する「年間グランドスラム」を達成。昨季は世界選手権で2度目の優勝を果たしている。日本ではカップル種目が日の目を見ない時期も長かったが、2人は世界のトップへ突き抜けた。

 スピード感あふれるスケーティング、高さ満点のリフトを鮮やかにやってのけるが、息ぴったりなのは取材を受けるミックスゾーンでも同じ。時に漫才のような掛け合いを演じて記者を笑わせながらも、互いに顔を見合わせ、頷きながらコメントするのが常。「信頼」だけでは言い表せない絆を感じさせた。

2人が「決して言わない」と決めた“約束事” 「プログラムが終わった後…」

 どんなに相性が良くても、競技をやっている以上ぶつかり合いもあるもの。昨春、2人に“約束事”はあるか聞いたことがある。

「常にプログラムが終わった後は、ポジティブな一言。決してネガティブなことを言わないって約束して、お互いやっています」(木原)

 振り返りは「なぜダメだったか?」ではなく「どうすればよくなるか」にフォーカス。コミュニケーションの流れは「このツイストはよかったよね。でもデススパイラルは少し、こうだったね」と、よかった部分から入る。

 うまくいかない時ほど、気になるのはネガティブな部分。そこで物事を前に進めるためにも、まずできている部分を意識する。だから練習後のフィードバックでも、口から出るのは常にポジティブな言葉だ。

「自分の失敗をすごく気にする」という三浦も「失敗よりも良かった点について話し合うことができたので、マインドもすごく変わりました」と結成してからの変化を語った。仮にちょっとしたぶつかり合いがあっても「その日のうちに解決。次の日の練習に持ち越さない」を意識している。

 年の差は9歳。最初は木原が引っ張っていたが、互いに怪我などを乗り越える過程で、いい意味で“弱さ”を見せられるように。いまでは支え合える関係が出来上がった。

 ミラノではSPでリフトを失敗してから、木原の涙が止まらなかったという。金メダルが決まった後、号泣する木原を見た三浦は思わず「も〜マジで泣いてばっかり!」と笑った。「今回は私がお姉さんでした」。木原も「昨日終わった時点で『全部終わっちゃったな』と思っていたんですけど、璃来が力強く引っ張ってくれたのでなんとか戻ることができた」と感謝した。

 2006年のトリノ五輪で荒川静香さんが日本フィギュアスケート界史上初の金メダルをもたらしてから20年。同じイタリアの地にまた、金色の足跡が残った。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)