長崎・雲仙の名湯・小浜温泉、「蒸し釜料理」で“蒸しパ”が密かな人気 100℃超の高温源泉がもたらす極上の温泉体験

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噴気があちこちから立ち上る長崎県雲仙市にある小浜(おばま)温泉では、家族や友達同士で集まって、 温泉蒸気を活用した“蒸しパーティー”をする姿をあちこちで見かける。宿で、飲食店で、広場で……。今度の休みは、小浜温泉で “蒸しパ”はいかが?

温泉の蒸気で作る「蒸し料理」

温泉の蒸気や地熱を活用した「蒸し料理」は、火山と深い関わりをもつ日本ならではの食文化。地域によって「源泉蒸し」「地獄蒸し」「温泉蒸し」など呼び名はさまざまだが、温泉の蒸気で蒸すと食材の旨みが増すため、全国各地の温泉地や宿で、調理法として広く取り入れられている。

小浜温泉の源泉は約30カ所ある。各宿がそれぞれ源泉を所有しているほか、飲食店や広場でも「蒸し釜料理」を味わうことができる。

過去には「105℃」を記録した源泉

小浜温泉地下の源泉温度は100℃を超えている。過去には「105℃」を記録したこともあり、「源泉温度105℃」にちなんで、町の中心に位置する広場「小浜マリンパーク」には全長105mの足湯が設置されている。

小浜温泉の足湯

マグマの熱で温められた温泉の源泉が100℃以上になるのは、地下深部では圧力が高いためだ。水の沸点は圧力で変化する。地上の1気圧では、水は100℃で沸騰するが、小浜温泉の源泉は高い圧力を受け、沸点が上昇したわけだ。


「湯棚」の裏にある無料の「蒸し釜」

広場には源泉が流れ落ちる「湯棚」があり、その裏側には誰でも無料で利用できる「蒸し釜」が設けられている。

棚田のような「湯棚」に源泉が流れる

誰もが利用できる「蒸し釜」

ここは市民や旅行者の気楽な蒸しパーティーの場所。売店で販売されている卵を蒸すこともできるし、蒸しかご(200円)を借りて、近隣のスーパーで購入した野菜や魚を持ち込んでもいい。卵を蒸す場合、温泉水よりも温度が高い蒸気だから、茹でるよりも短い「8〜10分」とのこと。

車で鮮魚店やオーガニック直売所まで足を延ばせば、さらに本格的な蒸し料理を楽しめる。

蒸し釜スペースは全部で6基。誰もが安全に利用できるよう、浅めの構造でやけどしにくいよう配慮されている。「空」の札がかかっている釜を選んで、使用する。

蒸し釜料理の食材調達は飲食店で、新鮮な魚介も揃う

スタッフがひもを引っ張って「蒸し釜」を開閉する(「海鮮市場 蒸し釜や」)

食材調達が面倒だと感じる人は、飲食店を利用すればいい。『海鮮市場 蒸し釜や』は14基の温泉蒸し釜を備えていて、いけすの新鮮な魚介類をその場で蒸して食べることができる。点心、ちまき、鶏肉、豚肉、カニ、カキ、エビ、ひおうぎ貝、ジャガイモ、トウモロコシなど、豊富な食材が揃っているので、好きなものを購入する。

モワモワの煙で「蒸し釜」の中ははっきり見えなかった

蒸し釜はモワモワの蒸気に覆われていて、見るからに高温だと分かる。蒸気による火傷の恐れがあるため、この店では蒸し作業はスタッフが担当する。ヒオウギ貝、とうもろこし、豚肉とキャベツなどを盛り合わせた「蒸し豚セット」は7分も待っていれば出来上がった。

好きなものを選び、店に調理してもらう

「蒸し釜調理」を体験できる宿

宿泊先で「蒸し釜」を使って調理したい人は「湯宿 蒸気家」へ泊まってみよう。ここは以前は『田中荘』という温泉療養の宿だったが、2014(平成26)年にリニューアル。「蒸し釜」を11台備える、素泊まりの湯治宿として人気だ。

「湯宿 蒸気家」の「蒸し釜」

客室は手足を伸ばして寝転べる和室を中心に18室。ベッドを置いた洋室や大人数で泊まれる大広間もある。

「蒸し釜」もキッチンも自由に使えて、しかもきれい。

小浜産の天然塩や小浜温泉にあるスパイス専門店「スパイス工房BONGA」のスパイス類は無料で使える。

小浜の塩が用意されている

「スパイス工房BONGA」の各種スパイスが無料で使える

こだわりの醤油、ごま油、菜種油は販売されているので、購入して調理に使い、持ち帰ることもできる。

販売している醤油、ごま油、菜種油

グループで泊まって蒸しパーティーをするもよし、一人宿泊でじっくり湯治をするもよし。リーズナブルな料金だが、大広間以外はトイレ付き、貸し切り風呂もある。

冷蔵庫には地元のおいしいアイスも

路地裏の温泉“おたっしゃん湯” 番台に座るのは御年93歳!

小浜温泉に行ったら、外せないのが昭和レトロな趣の『脇浜温泉浴場』。通称「おたっしゃん湯」だ。国道57号線から1本入った湯の町通りを歩き、さらに路地裏へと入ると、趣ある建物が見えてくる。

地元の人に愛される「脇浜温泉浴場」

番台に座っていたのは宅島美代子さん。なんと御年、93歳。脇浜温泉浴場に嫁いだ美代子さんは今は閉館してしまった旅館『小浜荘』を2004(平成16)年に取得し、2016(平成28)年に廃業するまで旅館の女将業も12年間にわたってやっていたそうだ。

朝の番台に座る宅島美代子さん

「おたっしゃん湯」は、美代子さんの舅ら親族3人が昭和12(1937)年に共同で立ち上げた。その名前は、美代子さんの姑の一番上のお姉さんの名前にちなんで“「おタシさん」の湯”ということらしい。

約100℃の源泉と天然水をあわせて、あつ湯とぬる湯に分かれた浴槽を入浴客が好みの温度に調整する。

地元の人の憩いの湯なので、「お正月から入りたい」という声もあって、休みなく営業をしているそう。温泉は透明だが、少し白くも見える。

湯船は「あつ湯」と「ぬる湯」の2つ

泉質は体の巡りが良くなる塩化物泉で、まったりとした肌触りが心地よく、芯から温まってぽかぽかになる。入ったあとはしばらく汗がひかないほどで、小浜温泉の温泉力を体感できる。

のどかな路地裏の風景に癒され、しっかり温まって帰りたい。

なお、旧小浜荘の建物は、「おたっしゃん湯別館」(仮)として、今後、近隣の人がショートステイできる場所づくりを行っていくそうだ。

1300年前の風土記にも載る名湯・小浜温泉

【施設データ】

『小浜温泉足湯 ほっとふっと105』

住所:長崎県雲仙市小浜町北本町905‐70

電話:0957-74-2672(雲仙観光局 小浜温泉観光案内所)

『蒸し釜や』

住所:長崎県雲仙市小浜町マリーナ19‐2

電話:0957-75-0077

営業:11時半(土日祝日11:00)〜15時(14時半LO)、17時半〜22時半(20時半最終入店)

定休日:不定休

『湯宿 蒸気家』

住所:長崎県雲仙市小浜町北本町14‐7

電話:0957-74-2101

定休日:不定休(だいたい日曜日)

料金:1泊1室2名利用時平日素泊まり1名6000円〜、訳ありツイン(眺望が望めない)同4000円〜、1室1名利用時平日素泊まり7000円〜、訳ありツイン5000円〜(消費税・入湯税込)

『脇浜温泉浴場』

住所:長崎県雲仙市小浜町南本町7

電話:0957-74-3402

営業:5時~21時

定休日:年中無休

料金:400円(回数券10枚2000円)

【小浜温泉】

雲仙岳の南麓に橘湾に面し、海と山に囲まれた小浜温泉はあちこちから立ち上る湯けむりが趣ある温泉地。源泉温度は100℃以上、毎日1万5000トンの温泉が湧く。開湯は定かではないが、和銅6(713)年に編纂された『肥前風土記』には、「高来(たかく)の峰の西南より、温泉の湧出するのが見ゆ」と記されている。湯治場として利用されるようになったのは、20世紀初頭からという。旅館数は15軒(うち旅館組合に加盟しているのは13軒)。九州新幹線諫早駅からバス約1時間の小浜ターミナル下車。

文・写真/野添ちかこ

温泉と宿のライター、旅行作家。「心まであったかくする旅」をテーマに日々奔走中。「NIKKEIプラス1」(日本経済新聞土曜日版)に「湯の心旅」、「旅の手帖」(交通新聞社)に「会いに行きたい温泉宿」を連載中。著書に『旅行ライターになろう!』(青弓社)や『千葉の湯めぐり』(幹書房)。岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、熊野古道女子部理事。

【画像】壮観!全長105メートルの足湯。「蒸し釜」と、棚田のような「湯棚」(14枚)