マットレスでも、布団でもない…40代から急増「寝ても疲れが取れない人」に共通する"枕選びの大間違い"
※本稿は、虎谷生央著、青木晃監修『健康寿命が“ぐーっ”とのびる! すごい「睡眠呼吸」』(あさ出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■マットレスよりこだわるべき「枕」
「枕難民」という言葉があるように、世の中には自分に合う枕がなかなか見つからず、何度も買い替えたり、試したりしている人が多いようです。理想の枕に出合えないのは、私がそうだったように、どの枕でもぐっすり眠れないからだと思います。
眠れないのは、私からいわせると、呼吸が浅くなるからです。
自然に呼吸が深くなる枕で寝ることが大切なのです。そして、私自身が寝具開発をするうえで気づいたのは、マットレスより枕のほうが呼吸の質に大きな影響を与えているということでした。
呼吸が深くなる枕を開発できれば、マットレスの性能は多少落ちても呼吸を深くできると考えていました。実際、枕が完成した今は、この枕さえ使えば、ふつうの体圧分散のマットレスでもぐっすり眠れると思っています。
枕が難しいのは、頭の重さ、首のアーチ、顎の動き、舌の位置、気道の広がりなど呼吸にかかわる要素が多すぎて、少しの角度や高さの違いが、マットレス以上に呼吸のしやすさに大きく影響するからです。
呼吸が深くなる枕があれば、マットレスにはそれほどこだわらなくていいと極論するのは、それが理由です。枕もマットレスと同じように、ウレタンに凸凹をつくっていろいろと試しましたが、ほんのちょっとした高さの違いで、呼吸が大きく変わることを体感しました。
■枕選びが難しい理由は「高さ・体圧」
理想的な寝姿勢とは、枕に頭を乗せたときに首と背中が自然なカーブを保つことで水平になり、空気の通り道となる気道がまっすぐに開いている状態といえます。
しかし、世の中にある多くの枕は、頭を乗せると頭が背中やお尻の位置より高くなります。
これが、一般的な枕のひとつ目の欠点です。
首の位置よりも頭が高くなると、気道の上のほうが折れた状態になります。これだけで空気の出入りがスムーズに行われなくなるため、呼吸がしづらくなります。

「頭を高くするのが枕」だと思っているところもありますが、子どもの頃は枕を使わずに寝ていませんでしたか? 実は、それがいちばん正しい姿勢なのです。頭部の水平を保つことで、前傾と後傾のしすぎを回避できます。
もうひとつの欠点は、マットレスと同じように体圧がかかることです。
マットレスに仰向けになると背中側から全身に体圧がかかるように、枕に頭を乗せると、頭だけでなく、枕と接する首にまで体圧がかかります。体圧を分散できるウレタン素材のような枕の場合、頭から首まですっぽりと沈み込むため、首から上には体圧がかかることになります。
ちなみに、そば殻や薄くて硬い枕なら、体圧は出っ張っているところに限定されます。枕の場合でも、この体圧が、呼吸を邪魔するのです。
■枕が呼吸を邪魔する3つの要因
首はいちばん後ろに頸椎骨があり、その前に食道があり、さらにその前に気管があります(図表1)。

気道の前側は軟骨に覆われていて外からの圧力に強い反面、後ろ側は食べたものや飲んだものが通るため柔らかい構造をしています。
寝入ると、筋肉同様に気管も弛緩するので、弱い呼吸で気管内圧が下がり、体圧によって気管が扁平につぶれるようになると考えられます。さらに、マットレスのところで話したように、体圧がかかっている場所の筋肉は動きづらくなります。
首のまわりには胸鎖乳突筋、斜角筋など、横隔膜や肋間筋の動きをサポートする筋肉が集まっています。首のまわりの筋肉の動きが鈍れば、横隔膜や肋間筋の動きも悪くなるということです(図表2)。

睡眠中の筋肉は、首のまわりの筋肉に限らず、必要最低限の動きだけになるお休みモード。体圧がかかると、さらに仕事をしなくなります。
整理すると、枕が呼吸を邪魔する要素は次の3つです。
?首にかかる体圧で気道が狭くなる
?首にかかる体圧で呼吸のときに働く筋肉が動きづらくなる
■「いびき」や「無呼吸症候群」の原因に
これだけの要素が重なるのですから、起きているときと同じように呼吸ができないのは当然です。起きているときに「いびきをしろ」といわれてもできないのは、気道がしっかり解放されているからです。
いびきは、気道が狭くなることで発生するといわれています。いびきを指摘されたことがある人は、もしかすると枕を変えるだけで解消するかもしれません。
頭が高くなる枕なら、使わないほうがいい。寝ているときの呼吸のためなら、そう言ってもいいほどです。
呼吸が悪くなる枕を使い続けていると、昨今メディアでも取り上げられることが多くなった、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の発症リスクを高めることにもなります。
SASとは、寝ているときに何度も息が止まる病気で、睡眠1時間あたりに何回無呼吸状態、低呼吸状態があるかで診断されます。
無呼吸は10秒以上完全に呼吸が止まる状態、低呼吸は10秒以上呼吸の流れが50%以上低下し、酸素濃度が3〜4%下がる状態とされています。40〜50代の男性に多く、女性は閉経後に発症率が増加する傾向があるといわれています。
■疾患やがんのリスクを高めることも
SASの初期段階では自覚症状がないため、ほとんど自分の呼吸が睡眠中に止まったり、弱くなったりしていることに気づきませんが、進行してくると昼間に眠くなるようになったり、集中力が続かなくなったりしてきます。
厚生労働省の調査によると、SAS患者はそうでない人に比べて、5年間での複数回の事故経験が約2.4倍であることが示されています。
SASが重症化すると、さらに深刻な事態を招くこともあります。SASは、睡眠中の呼吸停止や低酸素状態を引き起こし、それが酸化ストレスや炎症反応を誘発することで、高血圧、心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患、がんなどのリスクを高めるとされています。

また、最近の研究ではSASが、認知症やパーキンソン病といった神経変性疾患にも、影響を与えることが指摘されています。
SASは気道がふさがれて一時的に呼吸ができなくなったり、呼吸が極度に弱くなったりする病気ですが、その気道をふさぐ要因のひとつとなるのが、先述した枕で気道が狭くなる3つの要素です。
さらに、気道をふさぐ要素が、枕にはもうひとつあります。それは、枕を使うことで引き起こされる「舌根沈下」です。
舌根沈下とは、寝ているときに舌の付け根(舌根)がのどの奥に落ち込んでしまい、気道をふさいでしまう状態です。
■首を圧迫しない枕を選んでほしい
みなさんは、寝ているときの舌先はどこにあるのが正しいと思いますか?
正しい位置は、上あごです(図表3)。寝ているあいだ、舌先が上あごについていれば、舌根沈下が起こることはありません。

私は、舌根沈下は下あごがゆるんで下がるのが原因だと考えています(図表4)。どうして下がるのかというと、首まわりが圧迫されることで、あごを制御している乳様突起と舌骨をつないでいる顎二腹筋後腹と、舌骨と舌先を制御する顎二腹筋前腹の働きが悪くなるからです。

顎二腹筋がしっかり働けば、下あごがゆるむことはなく、舌先が上あごから離れることもありません。SASのリスクは大幅に軽減できるということです。
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虎谷 生央(とらたに・いくお)
睡眠と呼吸の専門家・トラタニ株式会社代表取締役社長
1950年石川県生まれ。同志社大学工学部化学工学科(現・理工学部化学システム創成工学科)卒業後、化学工業メーカーを経て、家業のインナー縫製会社「大阪縫製」に入社。ものづくりの現場に本格的に身を置き、立体構造設計の技術を活かして数多くのインナー製品の開発に従事する。2005年「トラタニ株式会社」を設立。現在は「呼吸と睡眠で健康寿命を伸ばす」ことをライフワークとし、商品開発・講演・執筆活動を通じて“呼吸の再発見”を広く社会に発信している。
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青木 晃(あおき・あきら)
内科医・一般社団法人日本抗加齢医学会専門医
一般社団法人日本美容内科学会理事長/一般社団法人日本健康医療学会常任理事/一般社団法人日本ウェルエイジング検定協会理事/一般社団法人日本抗加齢医学会評議員/元順天堂大学大学院加齡制御医学講座准教授。1961年東京都生まれ。防衛医科大学校卒業後、代謝・内分泌内科医として防衛医科大学校、旭川医科大学、自衛隊中央病院などで糖尿病、肥満症の臨床・研究に従事。2004年に日本で初めてのアンチエイジングクリニックである恵比寿アンチエイジングクリニックを開院。2007年、順天堂大学大学院加齢制御医学講座の准教授に就任。2033年、日本美容内科学会を立ち上げ理事長に就任。著書多数あり。
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(睡眠と呼吸の専門家・トラタニ株式会社代表取締役社長 虎谷 生央、内科医・一般社団法人日本抗加齢医学会専門医 青木 晃)
