――海外では、正しい判定を導くためのポジショニングというより、説得力あるポジショニングが求められる。たとえばペナルティーエリア(PA)内の事象で、PA外から見たほうがジャッジしやすくとも、PA内に強引にポジションを取るような。

「そうですね。日本では、選手たちのプレーエリアに入らないように適度な距離感で判定をしていました。多少違ったポジションからでも、判定が間違っていなければ、選手も、審判インストラクターも何も言いません。日本では、正しい判定をすることが求められます。

 ですが海外では、ポジショニングが遠くて正しい判定をしても、『ラック(運)で合っていた』と言われてしまう。『いや、この争点ならば、この距離感で、この角度のほうが』と言っても、それは通用しません。

 分かりやすい例がコーナーキックです。コーナーキックは様々な所で、選手たちが駆け引きを行なっています。その監視をするためには、ペナルティエリア外からのほうが見やすいし、日本のレフェリーのポジショニングの多くはそうです。

 でもAFCの大会だと、『そのポジショニングではよく見えないぞ』となってしまう。これは、どちらが良いとかの話ではなくて、AFC仕様にしないといけないと思いました。今までのポジションよりも、例え5メートル近付いたとしても判定は変わらないかもしれません。でも、AFCが望むポジションは5メートル近付くこと。なので、それを意識しました。

 ラフシャンを見ていれば分かりますよね。凄いスプリントで、ペナルティエリア内にも入ってポジションを取る。そこで多少選手と接触してしまっても、とにかくテレビ画面に映るようなポジションを取る。ただ、AFCもFIFAも、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)が導入されるようになってから、ポジショニングに変化があったと感じています」

――日本は質を意識されますけど、AFCやFIFAの大会では量を求められたわけですね。海外は、無駄走りで魅せることも要求された。

「そうですね。求められた走りをすると、いつか怪我をする可能性があると感じました。それでアジアカップを終えた2015年の2月から、身体を作り直しました。国際審判員としてのターニングポイントですね」
 
――身体作りはどのようなことをされましたか?

「長距離は苦手ですが、短距離は得意。でも、カウンターについていって、さらに争点まで入っていくとなると、今まで以上に距離も伸びますし、スプリントも必要になります。それを何往復も何試合もやるとなると、怪我をする可能性が高まります。

 まずは、筋力トレーニングを増やして、走り込みに耐えられる身体を作りました。周りに『何をやっているの?』と不思議がられたのをすごく覚えています。

 でも、イングランドに2010年と2014年のエミレーツ・カップの担当を含め、3回行ったのですが、イングランドでは朝から筋力トレーニングをするレフェリーが多いんですよ。なかには身体が重すぎないかな? というレフェリーもいますが、基本的にはしっかりと身体を作っています。ピッチ上での存在感も意識していて、トレーニングで内から出る自信もあるでしょうし、今日、明日で身に纏えるわけではなくて、続けることで『レフェリーオーラあるよね』と思われる、単純なサイズだけではない大きさがあります」

――アシスタントレフェリーの方に取材した時に、「私は小柄だから、レフェリーよりも、アシスタントが向いている」と仰られていたのを思い出しました。他にもイングランドのレフェリーと触れ合って、驚いたことはありましたか?

「私が2010年にイングランドに行った時、マイケル・オリバーが24歳でプレミアリーグのレフェリーデビューをしたのですが、その時に年上のレフェリーたちが『マイケル・オリバーを2022年のワールドカップで吹かせる』って言っていたのをすごく覚えています。そこまで逆算すると、24歳でプレミアリーグを吹いていないといけない。育てるための割り当てでもありますよね。