一生に一度であるはずの、結婚。

できれば妥協はしたくない。

だが経験者たちは口を揃えて、「どこか妥協した方が良い」と言うものだ。

何かを諦めないと、結婚は決められないのだろうか?本連載では、その核心に迫る―。

前回は、二番目に好きな男と結婚した女を紹介した。今週は?




【File10:仕事にこだわっていた女】

名前:理子
年齢:29歳
職業:専業主婦
結婚歴:1年
夫の職業:医者

現在、埼玉県在住の理子さん。ご主人の実家が埼玉で病院を経営しているため、結婚を機に引っ越したそうだ。

理子さん自身は専業主婦。お料理教室に通ったりゴルフへ行ったりと悠々自適の生活で、羨ましい限りである。

「一見楽しそうに見えますよね…夫は、案外大きな病院の後継でもありまして。現在の院長夫人であるお義母さんから色々と教わる日々です。でもそれ以外は好きなことをして、楽しく過ごさせてもらっています」

実は結婚前は、IT関係の会社で営業をしていたという。

「こう見えて、結構成績が良かったんですよ」

華奢で色白の理子さんが、バリバリの営業だったというから驚きだ。

しかし現在は仕事をスパッと辞めて専業主婦を謳歌中。義母との関係も良好で、何不自由のない幸せな暮らしをしているように見える。けれども、結婚してからずっと不安に駆られているそうだ。


キャリアか、結婚か。女の前に立ちはだかる問題と悩みとは


IT系の会社に勤めていた理子さんと、医師として働く弘貴さん。一見何の接点もなさそうな二人が出会ったのは、マッチングアプリだった。

「何となく30歳までに結婚しておかないと、という強迫観念がありまして。でも周りに良い人もいないし、アプリを使い始めました。アプリでは、お医者さんとかハイスペの人も多かったんです」

そうコッソリ教えてくれたが、弘貴さんとマッチするまでに数人に会っていたという。

「でも誰もピンと来なかったんですよね…」

可愛らしい理子さんには、当然のことながらオファーが多かった。しかしそんな引く手数多な中で弘貴さんが一番になったのは、こんな理由だったという。

「初デートの時に、胸にストンと落ちるような感覚があったんです。“あぁ私はこの人と出会う運命だったんだなぁ”って。優しくて一緒にいると安心できる。外見もタイプだったし、まさに完璧な理想の相手でした」

それは弘貴さんも一緒で、二人はすぐに交際をスタート。

「出会いはアプリでしたが、こんなにも全ての相性が良くて、心安らげる人に出会えたのはある意味奇跡だと思っていました」

そして交際わずか半年でプロポーズされ、婚約、結婚へ。トントン拍子に進んだように見えた二人の結婚だが、ここで、理子さんは究極の選択を迫られる。

「プロポーズの後に、言われたんです。結婚したら、仕事を辞めて家に入ってくれる?って」




弘貴さんは、医者と言っても彼の代で三代目となる大病院の息子だった。当然責任も大きく、妻となる人は専業主婦になることを希望したのだ。

「仕事って一種のアイデンティティーだと思うんです。辛いこともあるけれど、仕事に助けられることもある。昔彼氏に振られた時、仕事があって良かったなぁと心から思ったことも(笑)」

結婚しても働く女性が急増する中で、もちろん専業主婦となる道を選ぶ女性もいる。理子さんはというと、単純に仕事が好きだった。

「“結婚=仕事を辞める”という発想が、全くなかったのでかなり焦りました。頑張って就活をして、思い入れのある仕事もたくさんやって来ました。仕事でしか得られない達成感や充実感を知ってしまっていたからこそ、仕事を辞めたくなかったんです」

だが弘貴さんの結婚に対しての唯一の条件が仕事を辞めることだった。

「苦渋の決断でした。上司にもクライアントにも恩があるし、何よりも仕事を辞めたら“佐藤理子”ではなくて、“院長先生の奥さん”とか、“〇〇ちゃんのお母さん”とか言われることになるでしょう?それが本当に嫌だったんです」

-自分の居場所が、世の中からなくなりそうで怖い。

そう思っていた。だが結局、理子さんは仕事を辞めて専業主婦になる道を選んだ。

「最後は、結婚さえすれば幸せになれるだろう、と。専業主婦も楽しそうだなと思って決断しました」


結婚か、キャリアか。悩んだ女が出した結論は正しかったのか?


「最初のうちは実際に楽しかったんですよ。毎日好きなように過ごして、夫を見送れば時間にも縛られず、自由気ままな日々。仕事をしていた時には忙しくて行けなったエステやネイルに行ったり、あとは平日のお昼間に一人で映画館へ行ったり。贅沢だなぁと思っていました」

だが、元々仕事人間の理子さん。そんな生活は3ヶ月で飽きてしまったそうだ。

「夫が帰ってくるまで、誰とも話さない日もあって…そんな日は無理矢理カフェへ行ったり買い物をしたりして店員さんと話すように試みたりして」

誰もいない家で、ただ弘貴さんの帰りを待ち侘び、時間が過ぎるのをじっと待つ日々。養ってもらっている以上、家事も完璧にしなければならないと思っているため、昼過ぎから夕食の準備に取り掛かることも。

子供がいたらまた話は違ってくるが、今の状態は理子さんにとってまるで苦行のようだという。

「外が暗くなり始めた夕方に台所に立っていると、急に虚しくなってくるんです。誰からも評価してもらえず、家で一人、私は何をしているんだろうか、と…」




はたから見れば、羨ましい悩みだろう。素敵な旦那様と結婚し、何不自由のない暮らし。憧れる人も多いはずだ。だが本人の中での葛藤は消えない。

「贅沢な悩みだということは分かっています。けれども未だに前の同僚のSNSや仕事で活躍している友達の話を聞くと、羨ましいなぁと思うことが多くて」

仮に理子さんが、弘貴さんの肩書き目当てで近づいて結婚したならば、今の状況はもの凄く幸せだろう。

しかし理子さんの場合、彼の肩書きより人柄に惚れ、そして結婚した。そこに今の葛藤があるようだ。

「何も社会に貢献できていないなぁと思うと急に不安に襲われることも。ボランティアをしたり、積極的に動くようにはしているのですが、それだけでは埋められない心の穴があります。仕事って想像以上に大きいもの。そしてそのやり甲斐は何にも変えられないものだと、辞めてから気がつきました」

愛情を選ぶ代わりに、仕事を妥協した理子さん。

その決断が正しかったのかどうか、未だに分からないようだ。

「何を買うにも、どこへ行くにも夫の顔色を伺う日々。だったら少額でも自分で稼いで自分らしさを確立し、自由に暮らせる方が幸せな気がします」

キャリアか、結婚生活か。彼女が両方を手に入れることは難しいのだろうか…?

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