季節に合ったフレーバーなども続々と開発されている「コアラのマーチ」

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「超ひもQ」、「チョコフレーク」、「キスミント」……。昨今、さまざまなロングセラーのお菓子が終売となり、店頭から姿を消している。そんな中で、株式会社ロッテを代表するチョコ菓子のひとつ「コアラのマーチ」は今年35周年を迎えた。特徴的な六角形のパッケージにキュートなコアラの絵柄。商品としての完成度の高さは誰もが知るところだが、「コアラのマーチ」が“ラッキーお菓子”の先駆けであることはあまり知られていない。今回は、“ラッキーお菓子”誕生のきっかけをポイントに、「コアラのマーチ」の歴史を株式会社ロッテで同商品を担当する江幡辰也さんに教えてもらった。

【貴重写真】発売当時のコアラ12種、現在では見ることができない幻の絵柄も

■ コアラ初来日に合わせて開発された「コアラのマーチ」

「コアラのマーチ」が発売したのは1984年3月。ちょうど同年、東京の多摩動物公園、名古屋の東山動植物園、鹿児島の平川動物公園に、オーストラリアからコアラが初来日するというタイミングだった。

江幡さん「弊社はもともと、1980年代初頭に空洞型ビスケットにチョコレートを注入する技術を開発し、商品化を進めていました。そんな折にコアラ来日のニュースを聞いて、モチーフをコアラにすることに決めたんです。パンダ初来日時のブームも記憶にあり、コアラも盛り上がるだろうと踏んだわけです」。

そこから急ピッチで、コアラの絵柄をプリントしたコアラ型のビスケットと、ユーカリの木をモチーフにした六角形のパッケージを開発。この斬新な形の箱は、画一的なパッケージが多かった当時、店頭で大いに目を引いたという。また、「コアラのマーチ」という名前も、コアラ初来日に由来している。

江幡さん「体毛が灰色で1日のほとんどを寝て過ごし、動きの少ないコアラですが、ネーミングは『コアラが楽しくマーチングバンドを組んで、日本にやってくる』というイメージから付けられました。そして名前に合わせて、全12種の絵柄の中で約半数は太鼓やラッパなどの楽器を演奏しているものが採用されたんです」。同社の狙いは的中し、パンダブームに次ぐコアラブームが到来し、発売後すぐに人気は上昇したという。さらに、その人気を確固たるものにしたのが、“ラッキーお菓子”=“ラッキーコアラ”の誕生である。

■ ラッキーコアラ誕生の秘密。きっかけは消費者の“勘違い”

そもそも“ラッキーお菓子”とは、「アポロ」や「ミルキー」「ハッピーターン」などレアバージョンが存在するお菓子のこと。「コアラのマーチ」の「まゆ毛コアラ」や「盲腸コアラ」といった“ラッキーコアラ”は、それらの先駆けとなった存在なのである。1990年頃、「まゆ毛コアラが出ると幸せになる」という口コミが爆発的に広がり、女子高生を中心に“ラッキーコアラ”ブームが巻き起こった。驚くべきことにそれらは、メーカーが狙ったものではなかったというのだ。

江幡さん「一生懸命ラッパを吹いているときの眉間の“シワ”が、“まゆ毛”と勘違いされたものが『まゆげコアラ』。転んでケガをした傷跡が描かれたコアラが『盲腸コアラ』と呼ばれるようになりました。つまり、お客さまの勘違いがきっかけとなり、“ラッキーコアラ”は生まれたんです。この“ラッキーコアラ”の誕生は、35年の歴史の中でもターニングポイントになった出来事のひとつだと思います」。

当時、メーカーとしてはコアラの絵柄にはあまり注目しておらず、それぞれに名前を付けてはいなかった。しかし、このブームを受けて「お客さまは絵柄に価値を見出してくれている」という気付きが生まれ、絵柄を増やし、それぞれのコアラに名前を付けるようになっていった。その後、ブームに追従するように他社からはイチゴとチョコが逆になった“逆アポロ”や、包紙に「大吉」と印刷された「ミルキー」などが続々と登場し、“ラッキーお菓子”という価値観は広く浸透していった。

■ 本当はラッキーじゃない!? ラッキーコアラが出る確率は……

ブームになったことで、多くのメーカーが“ラッキーお菓子”というアイデアを取り入れたが、「コアラのマーチ」は、それらと決定的に異なっている点がある。そもそも“ラッキーコアラ”は、決してレアバージョンではないというのだ。

江幡さん「先ほどの話の通り、『まゆ毛コアラ』や『盲腸コアラ』はお客さまの口コミから生まれたもので、今も昔も確率操作などはしていません。各絵柄が出る確率はすべて同じなんです。ただ、1990年頃は約50種ほどでしたが、現在は365種の絵柄があります。そう考えると、現在の方が出る確率は低いので、ラッキーといえるかもしれません(笑)」

ご当地絵柄や期間限定絵柄なども登場し、一時絵柄は500種を超えるまでに増えたという。

しかし、バリエーションが増えたことで「なかなか目当ての絵柄が当たらない」という声が寄せられるようになったことから、2015年に「選抜総選挙」を実施。WEBの一般投票を経て365種に絵柄を絞ったそうだ。

■ 食べるだけじゃない、“レアを当てる”という価値感が時代にフィットした

江幡さん「私たちもコアラというキャラクターにブランドの価値があるということは、お客さまに教えてもらいました。それから、絵柄募集や選抜総選挙など、キャラクターを生かしたキャンペーンを多く行うようになりました。今のコアラのマーチがあるのは、お客さまのおかげだと言えますね」。

元来、お菓子はおやつとして食べるだけのもので、おいしさや値段が価値基準だった。しかし、“ラッキーコアラ”のブームを受けて消費者の中に「レアバージョンを当てたい」という新しい購入動機が生まれた。そして、ネットやSNSの隆盛という時代の潮流もそうした価値観の変化の追い風となった。消費者が発信力を持ったことで、「レアバージョンが当たった! 見て見て!」といった具合に承認欲求を満たしたい消費者マインドにうまくフィットしたのかもしれない。

■ 卒業していったコアラたちはオーストラリアの森へ帰る

江幡さん「『コアラのマーチ』は、常にお客さまの声や時代の変化を敏感に取り入れ、新しい試みを続けるようにしています。最近では、ラグビーワールドカップに合わせて、『ラグビートライコアラ』を開発。ほかにも『AIコアラ』や『ドローンコアラ』などトレンドを意識した絵柄も採用しました。逆に、ポケベルを持ったコアラや、ワイヤレス時代なのにケーブルの付いたイヤホンを装着しているコアラには、オーストラリアの森に帰ってもらいました」。

基本的に絵柄はコアラ型のビスケットの形に合わせて顔や体、手足をデザインしたものが多い。しかし、近年はビスケット全体をキャンバスのように使い、余白を生かしたものや背景までプリントされたものなども登場しバリエーションに幅が生まれている。江幡さんがお気に入りだという「子どもコアラ」は、ビスケット表面の中央に小さなコアラが描かれていて、大部分は余白になっている。

江幡さん「絵柄が出る確率はすべて一緒なので、ぜひ自分だけのお気に入りを見つけてほしいですね」。

■ 愛され続ける理由は、時代を取り入れる柔軟な姿勢

過去発売した限定フレーバーにも、そうしたチャレンジの軌跡を見ることができる。夏祭りをイメージした「わたあめ味」や個性的な「メロンクリームソーダ味」、フレーバーを隠し、特設サイトの謎解きストーリーをクリアすることで味が確認できる「なぞのコアラのマーチ」など、ユニークな味や斬新な仕掛けで話題を呼んだものも多い。

キャンペーンも同様で、全国に逃げ出したマーチくんたちを、さまざまなヒントを手がかりに探し出す「7匹のコアラを探せ!キャンペーン」(2013年実施)や、今回の発売35周年を記念した「コアラのマーチ絵柄募集キャンペーン」などでも注目を集めている。

江幡さん「ほかにも、海外限定絵柄の展開や、ARアプリと連動して英語単語の勉強ができる『えいごのコアラのマーチ』など、さまざまな取り組みを行ってきました。そうした挑戦の積み重ねが今につながっています」。

口コミを公式として取り入れ、“ラッキーコアラ”として打ち出した判断や、消費者の声、トレンドに向き合いながら柔軟に変化とチャレンジを続けるブランドの姿勢こそが、「コアラのマーチ」が35年もの長きにわたって愛され続けている理由なのかもしれない。(東京ウォーカー(全国版)・平井あゆみ)