横浜FMの“スタグル”がすごい! 「人を誘いたくなるスタジアム」への挑戦
試合開催日に30台以上のキッチンカーが出店、SNSでも話題に
「マリノスのスタジアムグルメ(スタグル)がすごい」「うらやましい」――。
SNSを見ていると、そんな声をよく目にするようになった。
横浜F・マリノスは今年1月、キッチンカー事業を手がける「Catering&Delivery Service Association(以下、CDA)」社とオフィシャルスポンサー契約を結び、その分野のプロフェッショナルと協力を始めた。
そして、今や試合日の日産スタジアムでは、30台以上ものキッチンカーが並び、多種多彩なグルメを楽しむことができる。そんな子どもから大人まで楽しめる横浜FMの食文化にスポットライトを当ててみたいと思い、横浜FMのマーケティング本部FRM事業部Jリーグ運営担当、矢野隼平氏に話を聞いた。
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――このところ、「マリノスのスタグルがすごいぞ」という声をよく耳にするようになり気になっていました。クラブとしてスタグル展開に力を入れ始めたきっかけはなんだったのでしょう?
「きっかけは二つあります。一つはホームゲームでの満足度調査で、ファンの方々からグルメを充実させてほしいという声が非常に多かったこと。もう一つは私自身、入社3年目ですが、学生時代からグルメを目的にイベントへ行くことが好きだったので。担当者として、そこに力を入れることを決めました」
――今年1月にはCDA社と提携しました。この経緯についても教えていただけますか?
「昨年と一昨年までは、私がすべてのオペレーションを担っていました。キッチンカー業者を呼んで、出店するお店の選定から日程調整まで。ただ、どうしても他の業務と重なって片手間になってしまっていたので、アウトソーシングするべきだと感じました。昨年までの経験で、イベントの充実にはキッチンカーは欠かせないとも感じていたので、そこに焦点を当てた施策をしようと考えていました」
――出店するお店はすべてCDA社に一任しているんですね。
「そうですね。スポンサーをしていただいている松屋さんとHUBさんを除けば、すべてCDAさんにお任せしています。代表の須谷真央さんとは初めてお会いした時から、人としてもビジネスパートナーとしても息が合うところがあったんですが、実は偶然大学の学部の先輩でもあったんです。そういった縁も感じました」
――CDA社のツイッターを見ていても、ユーザーからの「出店してほしい」という声に即座に対応し、実際に出店が決まるという流れがあって、その柔軟さとスピーディーさに驚きました。
「本当に心強いです。CDAさんは出店しているキッチンカー業者の方々からも信頼がある企業だということも実感しています」
売上は倍増 他クラブにはない強みで差別化も
――「スタグルの充実」に取り組み始めて、ここまでの感触はいかがでしょう?
「当初から考えていた『スタグルを充実させる』という点で言えば、売上ベースで昨年までの倍以上の成果が出ています。もちろん、売上がすべてではないですけど、はっきりと数字に表れているところです。狙いが間違っていなかったなという喜びがありつつ、安堵感もあります」
――実際に利用しているファンやサポーターからの反響も多いのではないでしょうか。他クラブのサポーターが「羨ましい」と言っている声も目にします。
「本当にありがたいことで、嬉しい限りです。SNSなどを通して、喜んでいただけている様子を目にしています。一昨年や昨年にはそこまで感じることができなかったんですけど、今年に入ってからアウェーのお客さんが増えたとも感じています。それが一つのカルチャーを作れているということなら、なおさら嬉しいですね」
――「マリノスといえばスタグル」というブランディングができつつあると?
「Jリーグの中では鹿島アントラーズさんのスタグルは有名ですよね。そういったクラブに少しでも近づけたら嬉しいなと思っています。キッチンカーを使ったスタグルの展開は他のクラブでもやっていることですが、マリノスではその内容をプロフェッショナルに任せています。それによってメニューが他とはかぶらなかったり、東京都内でも有名な店舗を集めてもらっている強みで差別化できていると自負しています」
“スタグルは入り口” 勘違いしてはいけないことは…
――SNSの影響もあって、今やスタグルも口コミで評判が広まります。グルメというジャンルは、なかなかスタジアムに行く習慣のないライト層のお客さんに向けても訴求しやすい部分でもありますよね。
「そうですね。サッカークラブの名前でSNS検索をかけると、今の時代はグルメに関するものがたくさん出てきます。ピッチの写真か、イベントの写真か、スタグルの写真かというくらいに。インスタグラムなどの波及効果の大きさは感じていて、今注力すべきポイントだと考えています。オクトーバーフェストや肉フェスなど、グルメ系のイベントには人がたくさん集まりますからね」
――お腹を満たすことは当然だと思いますが、それだけではないスタグルが提供できる価値はどんなものがあると考えていますか?
「特に、初めて来たお客さまに提供できるものは二つあると思っています。一つ目は楽しいという感情を味わっていただくための“ワイワイ感”。ワイワイしている場所は、それ自体が演出になっています。『サッカースタジアムってこんなにいろいろなイベントをしてるんだ』ということが、パッと目で見て分かるようにすることで、大きなインパクトを与えられます。
もう一つは、やっぱり美味しくないとスタグルの意味がないということです。楽しいだけではなく、やっぱり食べた時に感動と喜びを与えられたらと思っています。ただ提供するだけなら、私一人でもできたかもしれないことですからね」
――既存のファンやサポーターが、人を誘ううえでの“口実”としても、スタグルには大きな意味があるように感じます。
「そうですね。初めて来る人にピッチ上での90分間の魅力は伝わりにくい部分もあります。スタグルは既存のファンやサポーターの方々が、初めての人を連れてくる口実になったらいいなと思います。
ただし、クラブとして勘違いしちゃいけないのは、『スタグルを目当てにお客さんは増えない』ということです。90分間の試合の応援体験が、サポーターになるうえでのマストな条件になることは間違いない。なので、スタジアムに1回来た人が、2回、3回と来てもらうための“入り口を作る”感覚でやっています」
人を誘いたくなるスタジアムへ、改善に取り組む二つの課題とは?
――イベントの開催を重ねているなかで、今、感じている課題はありますか。
「一つはお客さまが増えたことによる行列です。店舗によっては1時間待つところもあるので、その問題解消のために予約専門のキッチンカー導入を進めています。事前に予約をして、時間になったらキッチンカーに受け取りに行く形です。トイレの問題もそうですけど、スタグルで1時間も待ち時間が生まれてしまうのはお客さんも受け入れ難い部分がありますから。
もう一つは出店エリアの拡大。日産スタジアムはあれだけの大型スタジアムですけど、場外イベントができるスペースは限られています。今は東西に約30店舗のキッチンカーを出していますが、それでもまかないきれないほどの需要になっています。単に拡大できたとしても、目立たないところに出店しても意味はないですし、上手くお客さまの動線を作っていきたいです。CDAさんも、需要に対しての絶対数は足りてないと言っています」
――最後に、さらなるスタグルの充実に向けて目指すところを教えてください。
「今年から注力し始めた部分なので、まだまだ他クラブに追い付けていないのが現状だと思っています。マリノスのスタグルといえば『賑わっていて、おいしい』というところまではきている。でも、例えば『鹿島といえばもつ煮』というほどのメニューはまだできていない。今後は、横浜の街にも関連させた代表的なメニューを出していきたいです。そして、“人を誘いたくなるようなスタジアムづくり”を目指していきます」(石川 遼 / Ryo Ishikawa)
