早くも注目。2016年のドラフト戦線をにぎわす5人の逸材
2016年のドラフトが田中正義(創価大/投手/右投右打)のためのドラフトであることは、疑いようのない事実であろう。12球団すべてが1位指名してもまったく驚かない。それほど田中の素質は頭ふたつほど抜けており、まさに「怪物中の怪物」といえる。
190センチ近い長身から投げ下ろす速球は、普通に投げて140キロ後半、ちょっと力を入れれば軽く150キロを超える。それほどの"エンジン"を持っている。
変化球もスライダー、フォーク、チェンジアップにカーブ。このほかにもまだ隠し持っているかもしれない。カーブは110キロ前後で、フォークは130キロ後半。フォークに関しては、大谷翔平(日本ハム)のように「140キロ後半のフォーク」もすぐに投げられるようになるだろう。
不安があるとすれば、高校時代の肩痛を再発させないかどうか。だが、現在の創価大には同期にドラフト候補がふたりも控えるなど人材豊富。酷使や消耗は考えにくい。
あともうひとつ、一昨年秋の実戦を見て気になったのが、ストレートをあっさりセンター方向へ弾き返される場面が何度かあったこと。カウントを取りにいくストレートが、ひょっとしたら素直な回転なのかもしれない。ただ、この点に関しても、クレバーな田中のことだから修正できるだろう。田中については"盤石"といっていい。
その田中に続く存在として挙げたいのが、柳裕也(明治大/投手/右投右打)。田中とは対照的なピッチングスタイルの右腕だ。
スピードガンでの球速は140キロ前後だが、快速球と呼ぶにふさわしいキレと威力がある。それに加え、タテのスライダーに微妙に動くカットボール、さらにツーシームに100キロ台のカーブもある。このカーブがドロンとした軌道ではなく、キュッとタテに割れて、打者にとってはとにかく厄介なボールだ。
見た感じは地味かもしれないが、こういう投手が意外と相手打者を苦しめる。柳自身、緩急を意識し、駆使しながら投げているのも頼もしい。
投手にとって、一番大事な仕事は打者のタイミングを外すことだ。田中が詰まらせてタイミングを外そうとするタイプならば、柳は前のめりにさせてタイミングを外すタイプ。
そんな柳に心配な点があるとすれば、ストライクを集めすぎること。投球の中でストライクが多すぎるあまり、打者は待ちやすくなってしまう。東京六大学のリーグ戦でも、カウント球が甘く入る場面を何度も見ており、少々タイミングが外れてもパワーで持っていってしまうプロの世界では、よりいっそうの用心深さが必要になる。
高校生に目を移すと、まず真っ先に名前が挙がるのが寺島成輝(履正社高/投手/左投左打)だ。これほどのスケールと技術、将来性を兼ね備えた投手を久しぶりに見た。
184センチ87キロ。これだけのサイズがありながら、高めに抜ける"棒球"がほとんどない。アベレージも140キロ前半をマーク。ここ一番の場面で右打者のふところをえぐるクロスファイアーは145キロを超え、さらにフォークという絶対的な武器を持っている。動かす角度、落差、コースと、どれをとってもウイニングショットになるレベル。まさしく「20年に一度の逸材」だ。
ここまでの3人は間違いなく1位で消える選手。ここからは1位ではないかもしれないが、普通の選手には持っていない"個性"を持ったふたりを紹介したい。どちらも、プロ野球史に名を残せる素質も持った選手と見ている。
まずは、大学生の吉川尚輝(中京学院大/内野手/右投左打)。天才肌のフィールディングセンスを持ったショートストップだ。人間わざとは思えないアクロバティックなプレーを何度か目の当たりにしている。三遊間に飛んだ痛烈なゴロをダイビングキャッチし、次の瞬間、上体だけを起こして送球し三塁に進もうとした走者を刺したかと思えば、二塁後方に上がったフライを前進してきたセンターと交錯しながら背面捕球。
ただ、人ができないことをやってのける人間は、人が簡単にやってしまうようなことでポカをおかすことがある。捕球体勢に入った打球は100%アウトにできる確かさこそ、吉川がプロで名を残せる選手になるか否かの分かれ目になるだろう。
もうひとりは、高校生の鈴木将平(静岡高/外野手/左投左打)。おそらく高校生の外野手ではナンバーワンだろう。一昨年、彼が1年生のときも当時・横浜高3年の浅間大基(現・日本ハム)に次ぐ存在だと見ていた。
174センチ74キロ。決して大型選手ではないが、コンパクトなその体のなかに、外野手として、またリードオフマンとして必要な資質が内蔵されている。
内野ゴロを内野安打にしてやろうとする意欲。塁に出れば、初球から最高のスタートができる瞬発力と反射神経。スタートの鋭さはオコエ瑠偉(現・楽天)に匹敵し、塁間のスピードなら上かもしれない。
2ストライクまではフルスイングを貫き、長打力も超高校級。だが、追い込まれると一転、打ち方を変えて安打を放ち、選球眼も優れていて四球をもぎとる。バッテリーにとってはこれほど嫌な打者もいない。正真正銘、野球をするために生まれてきた選手。年間を通して元気でプレーできるだけの"心身の強さ"を養えば、プロで10年、不動のレギュラーを張れる選手だ。
今年秋のドラフトでここに挙げた5人の評価はどうなっているのか。彼らのこれからの動向に注目していきたい。
安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko

