「ドミノ骨折」が高齢者を襲う 背骨・手足に次々…命を縮める恐れも 医師「50代から骨密度を測って」
まるでドミノが倒れるように骨が次々と折れていく…。
そんな「ドミノ骨折」が、高齢者を脅かしています。 なぜこんなことが起こるのでしょう。防ぐにはどうすればいいのでしょうか。 名古屋市名東区の国立病院機構「東名古屋病院」に聞きました。
「命にかかわる病気といえば、がんや脳梗塞、心筋梗塞などを思い浮かべる人が多いと思います。しかし、ドミノ骨折も命にかかわると言って過言ではありません」
こう話すのは、東名古屋病院で整形外科を担当する杉浦喬也医師です。
杉浦さんはかつて、こんな患者さんを診察しました。
「年のせいだと…」
80代の女性で、庭仕事中に軽い尻もちをついてから、腰が痛むようになりました。
最初は、年のせいだと思っていたそうです。
しかしいつまでたっても腰痛がなくならず、病院へ。
レントゲン検査をしたところ、背骨の腰の部分(腰椎)を圧迫骨折していて、受診が遅れた間に、背骨の上の部分(胸椎)も圧迫骨折していました。
背中が丸まって歩くのが不安定になり、杖が欠かせなくなってしまったといいます。
背骨がつぶれる「圧迫骨折」
一度骨折をしてから、さらに骨折が次々と起こる「ドミノ骨折」。
特に多いのが、背骨がつぶれる「圧迫骨折」です。
背骨には、30個余りの「椎骨」(ついこつ)が連なっています。
一つの椎骨がつぶれると全体のバランスが崩れ、周囲の椎骨に負担がかかり、次々とつぶれやすくなります。
背骨の中でも、特に胸椎から腰椎に移る部分(胸腰椎移行部)が、大きな力がかかってつぶれやすいといいます。
そうなると、腰や背中が「くの字」に曲がってしまいます。
ドミノ骨折が命にかかわる理由
背骨の骨折で体全体のバランスが崩れ、転んで足を骨折することも少なくありません。
転倒すると、股関節に近い太ももの骨(大腿骨近位部)が折れることが多く、歩けなくなってしまうため、骨を接合するなどの手術が必要になります。
手術には2週間前後の入院が必要で、その後、リハビリで2カ月から3カ月の入院をしなければいけません。
歩けないままで寝たきりになったり、介護が必要になったりすることも少なくないといいます。
杉浦医師が「ドミノ骨折は命にかかわる」と話す背景には、高齢者が大腿骨を骨折した場合、1年以内の死亡率が約20~30%にのぼるという報告があるためです。
「骨折によって歩行が難しくなると、活動量が低下し、筋力や心肺機能が衰えやすくなります。さらに肺炎や寝たきりなどになりやすくなることも影響すると考えられています」(杉浦医師)
骨折なのに痛くない?
骨折すると激しく痛んだり腫れたりするはずですが、ドミノ骨折は気が付かないことがあるといいます。
杉浦医師によると、ドミノ骨折では骨がじわじわとつぶれるため、急な強い痛みや腫れが出にくいといいます。
また、高齢者は痛みの感覚が鈍くなっていたり、ほかの病気で痛み止めの薬を飲んでいたりして、痛みを感じにくいことがあります。
痛みがあっても、「年のせい」と思いこんで我慢してしまうことも少なくありません。
杉浦医師は、それほど強い痛みがない場合でも、背中が丸くなったり身長が縮んだりする、寝返りをした時に痛むような場合は、整形外科を受診してほしいといいます。
原因は骨粗鬆症
ドミノ骨折の原因は、骨がもろくなる「骨粗鬆症(こつ そしょうしょう)」です。
骨粗鬆症は女性に多く、閉経後は女性ホルモンが低下して骨量が減りやすくなるため、50代以降で増え始め、60代以降でさらに多くなります。
一方で、男性にも起こる病気です。
骨粗鬆症による骨折患者の約2~3割は男性とされています。「女性の病気」と思われがちですが、男性も注意が必要です。
なぜ骨がもろくなる?
骨は固くて強いはずなのに、なぜもろくなってしまうのでしょう?
骨は一度できたら終わりではなく、数年かけて少しずつ生まれ変わっています。
古くなった骨は「破骨(はこつ)細胞」が溶かし、カルシウムになって血液中に流されます。このはたらきを「骨吸収」といいます。
そして「骨芽(こつが)細胞」が血液中のカルシウムなどを使って骨を修復しています。
しかしこのバランスが崩れてしまうと、骨を溶かすはたらきに、骨を作るはたらきが追いつかなくなり、骨の内部がスカスカになって弱くなります。
これが骨粗鬆症です。
女性ホルモンが影響
女性ホルモンの「エストロゲン」は、破骨細胞が働きすぎないようにコントロールしています。
高齢の女性に骨粗鬆症が多いのは、閉経などでエストロゲンが減り、破骨細胞の働きが強くなるためです。
加齢と女性ホルモンの減少以外にも、こうしたものが骨粗鬆症のリスクを高めるといわれています。
・過度の飲酒
・喫煙 ・運動不足 ・過度なダイエット ・過度な美白 ・遺伝 ・糖尿病や慢性腎臓病など ・ステロイドの使用 骨粗鬆症をどう調べる?
骨粗鬆症のリスクを知るには、「骨密度」の測定があります。
一般的なのは、腰椎や大腿骨に2種類の少量のX線をあてて測る「デキサ(DXA)法」です。
骨密度には、二つの指標があります。
ひとつは「YAM」(若年成人平均値)。
20~44歳の平均骨密度を100%とした時、自分の骨密度は何%かを示したものです。 数字が小さいほど骨が弱くなっていて、70%以下が骨粗鬆症と診断される目安です。もうひとつは「Tスコア」。
若くて健康な人の骨密度の平均を「0」として標準偏差(SD)の値で示すもので、国際的な基準になっています。 SDマイナス2.5以下が、骨粗鬆症と診断される目安です。骨密度の検査結果は、グラフでも示されます。
東名古屋病院では、青色のゾーンにあれば「正常」。黄色は気をつけた方がいい状態。赤色だと「要注意」です。
杉浦医師は「骨粗鬆症は自覚症状がなく、骨折して初めてわかることが少なくありません。50歳を過ぎた人は、予防のためにも骨密度を測ることをお勧めします」といいます。
一方で「骨の強さは、骨密度とともに『骨質』も関係しています。骨密度の数値だけで骨粗鬆症のリスクが判定できるとは限らないことも念頭に置いてください」と話しています。
2回目の骨折をしない
杉浦医師が強調するのは、「2回目の骨折を防ぐ」です。
「通常、骨は日常生活で簡単に折れるものではありません。もし『いつの間にか骨折していた』のであれば、骨粗鬆症による脆弱性骨折の可能性が高いと考えられます。大切なのは、その骨折を『最後の骨折』にすることです」
「ドミノ骨折を防ぐには、適切な治療やリハビリに加え、転倒しにくい住環境を整えることが重要です。また、必要に応じて家族や介護サービスの支援を受けることも大事です」
また、杉浦医師は「かかりつけの整形外科医をもってほしい」とアドバイスします。
「痛みは年のせい」と思い込み、受診が遅れてしまう人は少なくありません。
かかりつけの医師がいれば、「最近痛みが続くんだけど…」と気軽に相談することができるからです。(メ~テレ 山吉健太郎)
