「権力者が暴走しないためのシステムとして憲法を守りたい」と語る春ねむりさん=東京都渋谷区

 戦争、差別、搾取…。ミュージシャンの春ねむりさんは不正義を許さない。音楽の力を信じ、抗(あらが)う。「戦争とは、豊かさや美しさの対極にある。私は誰からも何も奪いたくないし、誰にも何も奪われたくない」

 ─政治に対して実直に語っている。

 「言語化するのが得意ということもあるが、政治に対する意見を主張するミュージシャンがあまりにも少ないからだ。音楽産業は資本主義や商業主義にからめ捕られて『脱・政治』化しており、より明確なメッセージを発信せざるを得ない状況にある」

 「アーティストが政治を語ると、交流サイト(SNS)で炎上し、たたかれる。正直、何も言いたくなくなる。でも、口を閉じたくない。他のアーティストも勇気を出してほしい。何も言えないのなら、『その態度は、あなたの表現や芸術に恥じないことなのか』と自問してみてはどうか」

 ─イスラエル軍による、パレスチナ自治区ガザでの集団虐殺(ジェノサイド)にも心を痛めてきた。

 「虐殺を受け止められていない。誰かの暮らしや生命を強引に奪ったり、搾取・収奪したりするような世界の構造の中で生きていることが苦しい。自分がただ生きているだけで殺りくに加担させられている現実に直面しているようで、ずっと納得がいかない。虐殺と占領が終結してほしいと願うばかりだ」

 「この残酷な世界に折り合いがつけられるのなら、音楽なんて辞めている。『戦争反対』と言えば『(頭が)お花畑』と揶揄(やゆ)されるが、人が殺されるより、花がいっぱい咲く世界の方が美しい」

 ─アルバム「ekkolaptόmenos(エコラプトメノス)」は、法による秩序や社会構造を見つめ直そうと試みた。

 「中学、高校時代に受けたキリスト教的教育の影響が大きい。国家や法、社会構造の前に、人間は生きているだけ、存在するだけで尊い。そう願うことは根源的な祈りで、誰からも否定されてはならない不可侵な領域だ。『もう何も奪いたくない』と歌った『iconoclasm(アイコノクラズム)』は、8〜9世紀に起きた『聖像破壊運動』に着想を得た。聖性が偶像に固定化され、システムに取り込まれ、権力強化のために機能するなら、その像は壊されるべきだ。現代に置き換えれば、平和をもたらすはずの国家や国境というシステムが対立を生み出し、戦争という悲劇に帰結している」

 「戦争とは、豊かさや美しさの対極にある。私は誰からも何も奪いたくないし、誰にも何も奪われたくない。でもそれだけのことがこんなにも難しいのだと、いつもいたたまれない気持ちになって演奏している」

 ─第2次世界大戦での日本の加害を反省する曲も収録されている。

 「『symposium(シンポジウム)』は、広島と長崎に原爆が投下された歴史を歌うところから始まる。戦後日本では被害の側面が強調されてきた一方で、植民地支配した朝鮮半島などでの加害は忘れ去られようとしてきた。平和教育に対する疑問への応答として作った」

 「群馬県高崎市に住んでいた2024年、県立公園『群馬の森』にあった朝鮮人労働者追悼碑が県によって撤去された。『これが歴史修正主義なのか』と怒りが込み上げた。K─POPが人気の今だからこそ驚いたし、許せなかった。日本国籍を持つからこそ、私は加害の歴史を避けては通れない」

 ─差別やデマがまん延する社会の拒絶を訴える街宣で、ライブも披露した。

 「どうして戦争をするのか。戦争の前提に虐殺があり、虐殺の前提に対象の非存在化がある。人種差別は権力維持のための道具になる。私は権力への加担を拒絶し、目の前に存在する人間を信じたい」

 「だから、アートとアクティビズム(積極行動主義)を実践している。振り切って行動する私が存在することで、声を上げる人々にも力が届くといい。希望を感じた瞬間もあった。別のライブ終了後、ファンがパレスチナのための集会に直行した。私の態度を受け取り、行動に移してくれた。台湾のファンは同人誌に『日本は台湾を侵略した帝国。国家同士の友情はありえない』と記しつつ、私の曲が好きだと書いてくれた。音楽は国境を超えると感動した。絶望の中の希望だった。私の音楽を聴いてくれる人々に生かされている」

 ─高市早苗政権は今年2月の衆院選後、改憲により強い意欲を示している。

 「楽観的に考えられない。権力者が人間の尊厳を奪ってきた歴史がある。だから、権力者に非倫理的な選択を行わせないため、権力者が暴走しないためのシステムとして憲法を守りたい。日本には自衛隊があるが、9条で交戦権を放棄しているから『戦争しない国』として踏みとどまっている。だが、高市政権が目指すのは『戦争できる国』だ。殺傷能力を持つ武器の輸出にも反対だ。戦争で、人を殺すことで利益を得ようとしていて醜悪だ。首相は『時が来た』と言ったが、頭を抱える。憲法の理念に現実が追い付いていないからだ。憲法に規定されているはずなのに、この国に暮らす全ての人々の平等や権利が保障されていない。外国人や、被差別部落や沖縄、アイヌ民族の人々、性的少数者が包摂されていると私は到底思えない」

 「改憲よりも優先すべきことがある。誰もが幸せになった時、私は『憲法に向き合えた』と言えるだろう。デモに参加する際、正直『憲法を守れ』と口にできていない。国籍など自らの特権的な立場を考えるからだ。でも、『憲法を守れ』とデモなどで声に出す時、私やあなたにとっての守りたい今や未来をこの言葉に込めることが大切なのだと思っている。絶望が向かってくるこの世界で、フェミニストでもアナキスト(無政府主義者)でも『しぶとく居座り、楽しく過ごして死ねるんだよ』というロールモデルになりたい。そのために、私は声を上げ続ける」

 ◆はる・ねむり ミュージシャン。2016年にデビューし、全楽曲の作詞・作曲・編曲を手がける。海外ツアーは100公演を超える。アルバム「春と修羅」「春火燎原」の発表を経て、25年に自主レーベルを設立した。