「書店は減ったが出版点数は減っていない。つまり需要と供給の論理に合っておらず…」今村翔吾が語る<出版・書店業界>構造改革の必要性
文化庁が2024年9月に公表した令和5年度「国語に関する世論調査」によると、1ヶ月に1冊も本を読まないと答えた人が全体の6割を占めていたそうです。そのようななか、ジャーナリストである清野由美さんは、「書店業界では『本屋さんがなくなる』悲観論ばかりが叫ばれている」と語っています。そこで今回は、清野さんの著書『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』から一部抜粋し、シェア型書店「ほんまる」など3軒の書店を経営する直木賞作家・今村翔吾さんへのインタビューをお届けします。
【書影】シビアな数字と希望を持って語る、書店業界の現状と再興の道。清野由美『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』
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作家も実力を厳しく問われねばならない
―― まちの書店は減っているのに、出版点数は減っていない?
今村翔吾さん(以下、今村):そうなんです。これは、需要と供給の論理に合っていません。つまり、出版・書店業界の構造が、今の時代に合わなくなっている一方で、出版というものが文化を楯に、過剰に保護されてきてしまっている。そのようなシステムの弊害も、そこにはあるんです。
―― 本が貴重な物で、店に置いておけばとにかく売れた前世紀に、それを回す本の取次システムができあがり、再販制度と委託販売制度という保護制度もがっちり付いた。売れても、売れなくても、本を次から次へと世に出していけば、作家、出版社、取次、書店は、業界内でなあなあと回っていく。その中にいる人にとっては、ある意味、夢のようなシステムです。
今村:昔はドリームだったかもしれないけれど、作家の立場でいえば、健全な競争がそこに起きていない。だから、全体が沈んでいく。そういうことです。
この業界に構造改革は絶対に必要です
今村:作家はアスリートを見本にしなければならない、というのが僕の持論です。基本は実力勝負だけど、運の要素も大きくて、実力と売れる状況が必ずしもイコールじゃない。それでも生き残っていける人が作家になる。
そこには力量とともに、運や覚悟がいる。アスリートの世界では、それが当たり前なのに、作家という存在も、既存のぬるま湯的なシステムの中で、だらだらと生かしてもらっている気がしてなりません。
作家や作品に多様性は必要ですが、僕は守るべきことと、つぶすべきことは相反するとは思っていなくて、守るために、つぶれるべきものは、つぶれるべき。そうでないと、いずれみんなを巻き込む大崩壊が起きるのは歴史の必定ですので、この業界に構造改革は絶対に必要です。
―― 構造改革に対する今村さんの立場は、作家としての問題意識と、書店経営者としての問題意識の二つがある。そして、大所高所からの「議論」ではなく、現場の渦中にいながら、コマを進めようとしている。そのことが分かりました。
狼煙の目指す先は
今村:出版・書店業界を救うためには、大きく二つの流れがあると思っています。
一つは今、興りつつある書店業態の多様性の中から、それぞれの答えを見つけて、各人が自分たちの持ち場で力を尽くしてビジネスを広げていく戦法。シェア型書店というニッチなものも含めて、大手、中堅とは違う独立系書店がさまざまに登場していることは、一つの希望です。

(写真提供:Photo AC)
もう一つは、出版社、取次、書店と、業界全員が知恵を出し合って、構造改革に取り組むこと。
歴史小説風にいえば、あちこちで時代を変えるような一揆が起きているのに、それがばらばらのまま、個別に鎮圧されて、歴史の波間に消えていく……というバッドエンドのパターンは避けねばならない。これら二つを同時に進めて、影響力を相乗させていかないとダメですよね。最初は一家だけで立っていた楠木正成が、全国の武士をうまいことまとめて鎌倉幕府を倒した、と、そういう展開にもっていきたいんです。
―― 倒幕後のイメージはどうなるのですか?
今村:狼煙の目指す先は、なんといってもまちの書店の復活です。
アクションで旋風を起こしていきたい
―― まちの書店とは、我々がイメージするところの「本屋さん」ですね。私のような昭和の人間にとって、かつて本とは本屋さんに行って、偶然に出会うものでした。本屋さんにはその町々で違う文化の香りがあり、それを感じながら出会った本がたくさんありました。
今村:書店がまちにある意味って、人生の中で大事な出会いのためだと、僕自身も思っています。JR九州の佐賀駅構内に佐賀之書店を新規出店した時も、「今さら地方に書店ですか?」と、いろいろいわれました。
でも、閉店が取り沙汰されていた時の、きのしたブックセンターで僕は、小さな女の子とおばあさんらしき二人が絵本を選んでいる光景を見たんですよ。たった5分ぐらいの時間だけど、棚の前に立ち止まって二人でわちゃわちゃと楽しそうに話していた。そういう時間は、僕がこの書店を継承しなければ続いていかない。そう思うと、自分がこの世に生まれてきて、アクションを起こす意味が身に迫ってくるんです。
―― 今村さんにとって、アクションを起こすことの根源的な意味は何なのでしょうか。
今村:それは他の人生に影響を与える、ということですね。自己満足かもしれんけど、せっかく大好きなこの世界に入って、食べさせていただいているのなら、「今村翔吾がいない出版界は想像がつかない」「あの時、今村翔吾が動いたから、今の出版界がある」と、いつかはいってもらいたいじゃないですか(笑)。だったら、そこまでやったろうやないか、という思いがあります。
いうたら、調子こいているんです。だけど、お調子者でも何でもいい。みなさんからああだ、こうだといわれながら、アクションで旋風を起こしていきたいのです。
※本稿は、『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』(日経BP)の一部を再編集したものです。
