名手アフマダリエフも支配した「次元の違い」 元世界王者の米解説が分析した井上尚弥の優位性 中谷潤人戦に高まる関心「イノウエはパワーだけじゃない」

昨年9月のアフマダリエフ戦。この試合で井上はさらなる進化を遂げた姿を見せた(C)Getty Images
余計な煽り要素もゼロな決戦
「THE DAY やがて、伝説と呼ばれる日」――。そう銘打たれた興行のメインを飾る決戦への関心が高まってきている。来る5月2日、東京ドームで開催される世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)と、WBA、WBC、WBO世界同級1位・中谷潤人(M.T)による珠玉の一戦だ。
【動画】繰り出されるボディショット!井上尚弥の“音”に着目
昨春に日本国内の年間表彰式で、すでに「最強」の地位を欲しいままにしていた井上が中谷に「1年後の東京ドームで盛り上げよう」と言葉を向けて以来、このメガカードに、格闘技界の流行でもある「煽り」は皆無。無敗を維持したお互いの「強さ」が物語の軸となってドラマ性が熟成されてきた。
ここまで余計な要素がなく、創り上げられてきたマッチアップは昨今では珍しくもある。だからこそ、数多のメガファイトを生み出してきたボクシングの本場であるアメリカでも、井上と中谷のどちらが勝つのかに熱視線が注がれている。
やはり話題の中心に置かれるのは、いまだ敵なしの“怪物”である井上を、無敗のチャレンジャーである中谷が倒せるか否か。そのシンプルな点である。
ルディ・エルナンデスという聡明なトレーナーを抱える中谷は、「井上選手はグー、チョキ、パーすべて出せる選手。僕もすべて出せるように準備しないといけない」と語るように、いかなる展開に追い込まれても対応しうるだけの準備をしている。米国でのトレーニングを重ねた28歳は、これまで以上にパンチの引き出しを作っていくはずである。
ただ、対峙する井上もそれは同様。「強さは認めています」と公言する“モンスター”が、「自分が絶対王者だから」と驕るはずがない。2025年に計4試合の過密日程をこなした中で、かつてないほどのタフさと戦術の豊富さを身に着けた33歳は、「最強の刺客」とも評される中谷に対しても戦略を練り、アジャストしていくはずである。
では、数多の名勝負を見定めてきたアメリカの識者たちは、大都市・東京を舞台に実現するメガマッチの展開をどう見定めるのか。やはり論じられているのは、井上優位の見方だ。無論、それは中谷を軽んじるものではなく、王者の凄まじい才能を評価しての意見である。

記者会見で向き合う井上と中谷。二人のマッチアップには様々な意見が寄せられている(C)Getty Images
元世界王者が見た中谷の「課題」とは?
米『ProBox TV』シリーズの解説者で、元WBO世界スーパーライト級王者のクリス・アルジェリ氏は、米ボクシング専門YouTubeチャンネル『Inside Boxing』で「あのMJだって、“イノウエキラー”だと言われていた。『イノウエに勝つ男』とかね。本人も『あいつを倒すのは俺だ』と強気に言い続けていた。でも、実際に勝ったのはイノウエだった。しかも、ほぼ完封に近い内容だ」と、昨年9月のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)戦を回想した。
確かに圧倒的な地力の差を見せつけた一戦だった。当時、「判定勝ちでもいい」と語った井上は、序盤から軽快かつ巧妙なヒット&アウェイを継続し、アフマダリエフを窮地に追い込みながら大差の判定勝ちで防衛した。
アルジェリ氏は、この攻守両面での成熟した戦いが完成したことで、中谷も苦戦を強いられると予測した。
「イノウエが持っているのはパワーだけじゃない。次元の違う技術もあるんだ。だからこそ、俺たちは今まさにイノウエの偉大さを生で見ていると声を大にして言うんだ」
さらに「イノウエは負けることを恐れてない。常にリスクを取って、最も厳しい戦いを選び続けている。彼は間違いなく歴代屈指の偉大なファイターだ」と熱弁を振るったアルジェリ氏は、「俺もナカタニがイノウエに勝つ可能性はあると思っていた。勝っても不思議はないと考えていたんだ」と吐露。続けざまに、中谷の抱える課題を指摘している。
「ジャブのバリエーションの少なさ、それとジャブを“武器”として使えていない点が気になる。彼のジャブは強打を隠すためのものに過ぎない。それじゃイノウエには通用しない。相手の動きを止めるジャブがないとね。イノウエのような選手に勝つには、すべてが揃ってないといけない」
アルジェリ氏が熱心に論じたように、さまざまな予測は飛び交っている。それは逆に言えば、この試合に向けた興味の高さの表れでもあると言えよう。
果たして、ゴールデンウイークのど真ん中に開催される珠玉の一戦は、いかなる決着を見るのか。まさに世界が「伝説と呼ばれる日」を心待ちにしている。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
