三菱重工業、IHI、三菱電機…国家が威信をかけた次期戦闘機「F3」、その《脅威的すぎるスペック》とは
日本の産業界が総力を挙げる「日の丸」の意地
日本の空の守りを支えてきたF2戦闘機の退役が始まる2035年。その歴史的転換点に向けて、日本の防衛産業と国家の威信を懸けた巨大プロジェクトが加速している。日本、イギリス、イタリアの3ヵ国が共同で進める次世代戦闘機開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」、通称「F3」開発プロジェクトだ。
今、この「F3」が世界の防衛関係者から熱い視線を浴びている。カナダがGCAPにオブザーバーとしての参加を検討し、ドイツやスウェーデン、ポーランド、さらにはアジア諸国までもが関心を示す。かつて「独自開発を阻むアメリカ」という壁に突き当たった日本の戦闘機開発は、今や世界を引き寄せる「巨大な磁石」へと変貌を遂げた。日本の技術の粋を集めたこの「第6世代機」は、一体、どのようなスペックを秘め、なぜこれほどまでに各国を惹きつけるのか。その内幕を、参画企業の動向と地政学的な背景から読み解く。
「F3」開発において、日本の防衛産業界は、かつてない布陣で臨んでいる。主契約者として機体設計の舵取りを担うのは、名実ともに日本の防衛産業のトップを走る三菱重工業だ。同社は先んじて先進技術実証機「X2」の開発で培ったステルス技術や機体統合能力を注ぎ込み、欧州勢と対等に渡り合っている。
心臓部であるエンジンの開発を担うのは、IHI(旧・石川島播磨重工業)である。航空自衛隊の現役機に搭載されるエンジンのメンテナンスで磨かれた技術に加え、世界最高水準の耐熱材料技術を駆使し、驚異的な推力と高耐久性を両立させる次世代ターボファンエンジンの開発に挑む。
そして、現代の戦闘機において「勝敗を分ける」と言われる「ミッションアビオニクス」=電子機器やレーダー、センサー類を統括するのが、三菱電機だ。複数の目標を同時に捕捉し、高度な電子戦を展開するための「目」と「耳」は、同社のデジタル技術の結晶となる。
対するイギリス側は、名門BAEシステムズが機体を、ロールス・ロイスがエンジンを、レオナルドの英国法人が電子機器を担当。イタリアからは防衛大手のレオナルドと、エンジン分野でアヴィオ・エアロが加わる。この「日英伊連合」は、まさに各国のナショナル・チャンピオン企業が手を取り合った、防衛産業における「ドリームチーム」と言える。
「第6世代」という未知の領域:驚異のスペック
「F3」は、現在、世界で主流となっている「第5世代」戦闘機(F35、F22など)を凌駕する「第6世代」戦闘機として定義されている。そのスペックは、これまでの戦闘機の概念を根底から覆すものだ。
1.AIによる戦術支援
最大の特徴は、人工知能(AI)の全面的な導入だ。パイロットは、激しい空中戦の中で膨大な情報処理を求められるが、「F3」ではAIが周辺の敵味方の識別、最適な攻撃ルートの提案、電子戦の管理などをリアルタイムで支援する。これにより、パイロットは「操縦」から「意思決定」へと役割をシフトさせることが可能になる。
2.無人機との高度な連携
「F3」は、単独で戦う機体ではない。自機を囲むように飛行する複数の無人機を統制し、先行して敵陣を偵察させたり、おとりとして機能させたりする「チーミング能力」を備える。これにより、母機となる「F3」の生存率は劇的に向上し、広範囲な空域を圧倒的な情報優位のもとで支配できる。
3.「制空戦闘」に特化した圧倒的な機動力とステルス性
現在、日本も導入しているF35は、対地攻撃や対艦攻撃もこなす「マルチロール(多目的)」機だが、「F3」は、日本の防衛のための全ての地上作戦・海上作戦の前提になる「航空優勢」の将来的な確保に主眼を置き「制空戦闘(空対空戦闘)」に特化している。そのため「高速機動戦闘能力」、つまり、F35を上回る高速巡航能力と、高高度での格闘戦能力、そしてあらゆる方向からのレーダー照射を跳ね返す高度なステルス形状が採用されることになる。
4.ネットワーク中心戦(NCW)のハブ
「F3」は、陸・海・空の自衛隊ユニット、さらには、同盟国の軍隊とリアルタイムでデータを共有する「空飛ぶサーバー」としての機能を持つ。三菱電機の技術による高度なセンサーフュージョンにより、自機が見ていない敵の情報も、他機や衛星からのデータを通じて瞬時にコクピットに投影されるのだ。
「トランプ・リスク」が押し上げたGCAPの価値
今、なぜこのGCAP(F3)に世界中の関心が集まっているのか。そこには冷徹な国際政治の力学が働いている。
一つは、フランス、ドイツ、スペインが共同開発を進めている「将来戦闘航空システム(FCAS)」の停滞だ。このプロジェクトは、仏独間の主導権争いや産業界の意見対立で開発が難航しており、多くの国が「実現可能性が高いのはGCAPの方だ」と見切りをつけ始めている。
もう一つの決定的な要因は、アメリカの動向、いわゆる「トランプ・リスク」だ。トランプ政権が開発を公表している次世代機「F47」は、同盟国との協力体制が不透明であり、アメリカの「自国第一主義」への懸念から、多くの国が米国製兵器への過度な依存に不安を感じている。
特にカナダは、第二次トランプ政権下での関税交渉や外交圧力により、アメリカとの関係が急激に悪化。カーニー首相が「対米依存からの脱却」を掲げるなかで、日英伊という信頼できるパートナーが主導するGCAPへの接近は必然の流れと言える。
さらに、ヨーロッパでは、ドイツ、スウェーデン、ポーランド、アジアでは、シンガポール、オーストラリア、インド、サウジアラビアといった国々が、この計画を注視している。日本の防衛関係者が「各国から引く手あまただ」と漏らすほどで、この背景には、アメリカの独走を牽制しつつ、最新技術を手に入れたいという各国の戦略的思惑が重なっているのだ。
国際契約の締結と「2035年」への高い壁
開発は着実に進展している。2026年4月、開発を管理する3か国の政府間機関「GIGO(ジャイゴ)」と、機体設計・開発を担う合弁会社「エッジウィング」との間で、初の国際契約が締結された。ちなみに、GIGOは、イギリスに本部を置き、初代トップである首席行政官には、日本の岡真臣・元防衛審議官が就任している。また、エッジウィング社は、三菱重工、BAEシステムズ、レオナルドが共同で立ち上げた組織で、イギリスに本社を置き、初代CEO(最高経営責任者)には、イタリアのマルコ・ゾフ氏が就任した。今回の契約締結により、約1145億円(6億8600万ポンド)の資金が拠出され、開発は「概念設計」から「基本設計」へと本格的なフェーズに移行する。
しかし、前途は多難だ。小泉進次郎防衛大臣が強調するように、日本は2035年の配備を「絶対目標」としている。これは、日本のF2戦闘機が2035年から順次、退役することが決まっており、防衛上の空白期間を作ることができないためだ。
対して、イギリスやイタリアには日本ほどの切迫感はない。ユーロファイターの後継としての配備時期には、ある程度の柔軟性があるため、今後、追加の開発費用や機能のアップグレードを巡り、日本が求めるスピード感と欧州勢の「余裕」との間で、調整が必要になるだろう。
また、参加国の増加も「諸刃の剣」だ。販売先が広がることは1機あたりのコストの削減につながるが、開発段階で発言権を持つ国が増えれば、仕様の決定が遅れ、2035年の目標が遠のく恐れがある。日本政府が、カナダの参加を現時点では「開発に関与しないオブザーバー」にとどめ、初号機については日英伊の3か国で主導権を握る姿勢を崩さないのは、こうした現実的なスケジュール管理のためである。
「F3」の開発費用は、総額で約5兆円に達すると見積もられている。これは日本の防衛予算としても空前の規模だ。しかし、この投資は単なる軍備の増強に留まらない。
三菱重工、IHI、三菱電機といった日本を代表する企業が、世界最高峰の技術開発に挑むことは、素材産業、精密加工、ソフトウェア開発など、日本の広範な産業の裾野に巨大な波及効果をもたらす。かつて戦後の日本が新幹線や自動車産業で世界を席巻したように、航空宇宙産業を日本の「新たな稼ぎ頭」へと成長させるラストチャンスでもあるのだ。
次期戦闘機「F3」は、単なる「目新しい戦闘機」ではない。それは、日本が直面する厳しい安保環境を切り拓く盾であり、同時に日本の技術力と国際的なプレゼンスを再び世界に証明するための試金石でもある。
2030年の初飛行、そして2035年の実戦配備。我々は、その「技術の粋」が日本の空を舞う日を、固唾を呑んで見守ることになる。
筆者は、「F3」をはじめ日本の戦闘機開発・導入の歴史を詳述した『次期戦闘機の政治史』(千倉書房)を著した。この本は、2025年度の日本防衛学会・猪木正道基金特別賞を受賞したほか、各方面で高い評価を得ている。ぜひ一読をお願いしたい。
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