(撮影:山田英博)

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健康の不安、家族の病気や介護、看取りなど、病と人生にまつわるお悩みに、医師で小説家の南杏子さんが回答します。(構成:内山靖子)

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Q:帯状疱疹後の神経痛がつらい。痛みに強くなりたいです。(岡山県・主婦・76歳)

3年前に帯状疱疹を発症しました。それからずっと神経痛に悩まされ、今でも毎日ピリピリとした痛さが続いています。

薬を5種類も飲んでいるのに、ちっとも痛みが治まりません。病院の先生には「徐々によくなる」と言われるだけ。

「痛みに敏感すぎる」とも言われました。少しでも和らぐように、マッサージや鍼も受けてみようかと考えています。

痛みに強くなりたいので、何かいい方法はないでしょうか?

「痛みに弱い」と自分を責める必要はありません

3年間も苦痛に耐えていらっしゃる。とてもつらい状況だとお察しします。痛みは、それがどんなに小さなものであっても、「生きていこうとするエネルギーを根こそぎ奪ってしまうもの」です。

どこかが痛いとまずは我慢するのに精一杯で、ものごとを冷静に判断したり、楽しいことをしようと考えたりする精神的な余裕も生まれません。

そんな時に「痛みに敏感すぎる」と言われてしまうと、気持ちまで追い詰められてしまいますよね。

帯状疱疹後の痛みは、甘えや気のせいではなく、神経そのものが傷つき感覚が過敏になったためで、相談者さんが弱いわけではありません。「痛みに強くなりたい」とおっしゃっていますが、「自分は弱い」と責める必要はないのです。


(イラスト:山崎のぶこ)

そのうえで、帯状疱疹についてみていきましょう。これは体内に潜んでいる水疱瘡(みずぼうそう)ウイルスによって引き起こされる皮膚疾患です。『婦人公論』世代は、子どもの頃に水疱瘡にかかった方が多いと思われます。水疱瘡の原因となる水痘・帯状疱疹ウイルスは、病気が治った後も死滅せずに体の奥にある神経節という神経の根元に潜伏しているのです。

そのウイルスが、老化や疲労、ストレスなどにより免疫機能が低下して活性化すると、神経の中を移動し、皮膚に出てきて炎症を起こす――これが帯状疱疹です。体の左右どちらかの神経に沿って、痛みを伴う発疹が帯状に現れるという特徴があります。

この病気は、発症時に皮膚に強い痛みやしびれを生じるだけでなく、症状が治った後も神経の損傷が残り、神経痛の原因となる場合があるのです。年齢が上がれば上がるほど、この帯状疱疹後神経痛(PHN)が発症しやすくなることも明らかに。

まさにこれが、相談者さんが悩まされている痛みの原因です。PHNによる強い痛みで、うつ症状を生じる方もいます。ですから、決して相談者さんが痛みに弱いわけではないのです。

痛みは数週間で治まることもあれば、数年間続く場合も珍しくありません。そして、神経痛が長期に続くと、脳が痛みを増幅させる回路を学習してしまうことが。これが「敏感すぎる」と言われるほどの状態になっている原因と思われます。

つまり、痛みを強く感じるのは相談者さんの性格や根性の問題ではなく、自然な生理現象なのです。

痛くない刺激を取り入れて神経の回復を待つ

これからは、「痛みに強くなること」ではなく、「痛みと脳の関係を少しずつ変えていく」ことが大切です。病院での治療と並行して、皮膚をなるべく刺激しない素材の衣服を着たり、やわらかいタオルを使ったり、心地よい香りを活用したりするなど、痛くない刺激を意識的に取り入れるようにしましょう。

家事を休むことも治療と考えてください。十分な睡眠を取り、過剰な不安やストレスを取り除くように努めましょう。

栄養バランスのよい食事を心がけるのも、神経の回復を促すために大切です。とくに、ビタミンB12は損傷した末梢神経を修復する作用があります。シジミやアサリなどの貝類、サバやイワシなどの青魚、レバーや卵黄などに多く含まれますので、積極的に摂ってください。

ところで現在、相談者さんは何科の病院に通院なさっているのでしょうか? 一般に、帯状疱疹は皮膚科の診療科目ですが、帯状疱疹後神経痛は神経の痛みですから、ペインクリニックや痛みの外来など、痛みを専門に扱う病院を検討するのもいいでしょう。

また薬を5種類も内服しているとのことですが、薬の組み合わせや用量が整理されないまま増えている場合、効果を感じにくくなることもあります。一度、処方内容を整理してもらうのもいいかもしれません。

マッサージや鍼も、人によっては効果を感じるので試す価値はあります。ただし、体への強い刺激は逆効果になることも。帯状疱疹後の神経痛があることを必ず施術者に伝えてください。

医師になりたての頃、初めて接したがん患者さんのことが忘れられません。その患者さんは、痛み止めのモルヒネを使い始め、痛みのせいで寝たきりだった生活を脱し、買い物や美容院に行き、趣味の俳句を詠み、友人とお茶を楽しむこともできるようになったのです。

痛みがなくなるだけで、人間はこんなにも前向きになり、人生をイキイキと過ごすことができるものなのかと本当に驚きました。

そう考えると、相談者さんも、一刻も早く痛みから解放されてほしいと願わずにはいられません。ご自分に合った方法を見つけて、再び前向きな人生に大きな一歩を踏み出されることを心からお祈りしています。