「出所したら母の髪を切りたい」刑務所で理容師になった受刑者、“全部ダメだった”過去と再出発
「今考えたら、全部がダメだったなと思います」
川越少年刑務所に服役する受刑者の男性は、自らが起こした事件について、そう振り返る。
昨年、理容師の国家試験に合格し、現在は刑務所内にある理容室で、外部から訪れる地域住民らの髪をカットする日々を送っている。
ハサミを通して見つめ直した過去と、出所後の未来について話を聞いた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●2年間の訓練を経て国家試験に合格
──なぜ理容師の資格を取ろうと思ったのですか?
もともと髪の毛をセットすることや、おしゃれ、ファッションが好きでした。自分の好みの形に整えるのも好きですし、いろんな人と関われるのも楽しい。理容師っていい仕事だなと思います。
──いつから訓練を始めたのですか。
理容師の免許を取るために、2年間職業訓練を受けて、去年の3月に国家試験に合格しました。今は刑務作業として、この理容所で実践的な接客をしています。
──試験に合格してから、何人くらい接客しましたか?
200人くらいは担当させていただきました。この理容室は平日しかやっていないので、1日に3〜4人くらいのペースです。カットすること自体には、もう緊張しなくなりました。
●初めての接客での失敗と「ありがとう」の重み
──初めて外部のお客さんを1人で担当したときのことは覚えていますか?
はい、すごく緊張しました。国家試験でやるようなミディアムスタイルの髪型を注文されたのですが、人形で切るのとは全然違って、練習通りにうまく切れませんでした。
カットだけで30分くらいかかってしまい、結局、先生にたくさん直してもらいました。うまくできなかったので悔しかったです。
──理容師の仕事にやりがいを感じることはありますか?
髪の毛を切らせてもらって『ありがとう』と言われたときは、やっぱり、うれしい気持ちになります。そのときにやりがいや喜びを感じましたね。
──お客さんの希望を言葉で聞いて髪型にするのは難しいと思いますが、工夫していることはありますか?
切りすぎないことですかね。気持ちとして長めに残すようにして、お客さまの様子をちょっとずつ伺いながら最初はやっていきます。2回目、3回目のお客様になれば、前回どんな感じで切ったのかがわかっているので、あまり悩みません。
──年配のお客さんと話すことは難しくないですか?
捕まってから逆にニュースを見るようになったので、昔に比べたら年配の方との共通の話題がわかるようになりました。それに、『若いから教えてあげるよ』という感じで、お客さまの方からいろいろお話ししてくれることもあります。
●「自分が事故らなければいい」 ルールを無視していた過去
──刑務所に入ることになった過去の自分を今どう思いますか?
捕まる前の自分を振り返ると、今考えたら全部がダメだったなと思います。ルールを守るという意識がなかったし、仲がいい子や自分の周りの人にしか興味がありませんでした。
他の人のことを全然配慮していませんでした。だからこそ、マナーや法律などのルールも全く守れていなかったです。
──ルールというのは、どんなことですか?
たとえば信号でも「自分が事故らなければいいや』と思って赤信号で進んだりとかですかね。捕まってから自分を振り返る中で、世の中にルールがある意味や、「なんでこんな決まりがあるのか」を考えるようになりました。それまで、ルールを気にしたことがなかったなと感じます。
●出所後に一番切りたいのは「母の髪」
──出所後、社会で生活することへの不安はありますか?
捕まったのが初めてだったので、出所することの大変さをまだ経験したことがありません。なので、どんなことが大変なのかは想像しかできていなくて、ただ漠然と『大丈夫かな』という不安はあります。
──出所して、最初に髪を切りたい人は誰ですか?
やっぱ親ですね。お母さんです。迷惑をかけたんですけど、今も支えてもらっているので。自分がお母さんのためにできることっていったら、髪を切るくらいしかないので、それくらいはできたらなと思います。資格を取ったことを伝えたときも、喜んでくれていました。
──出所後の意気込みはありますか?
一番はもう再犯しないことです。そして、自分の犯罪によっていろんな人に迷惑をかけたので、その人たちに少しでも恩返しというか、何かできることをしていきたいと思っています。
──どんな理容師になりたいですか?
理容師としては…お客さんの人生を、髪を通して少しでも豊かにできたらいいなと思います。
