Image: Novikov Aleksey / Shutterstock.com

2025年7月20日の記事を編集して再掲載しています。

元OpenAI社員のとある男性のブログが注目を集めています。

2024年5月から2025年6月まで、約1年間OpenAIに勤務したキャルビン・フレンチ=オーウェンさん。その1年間の勤務状況、会社の様子、心身共にすり減っていく自分を記したブログから伺えるのは、AIというブースターで急激に成長するスタートアップの中の状況。

AI業界は、莫大なエネルギー消費がたびたび議論の的になりますが、同じくらいマンパワーも消費されているのです。

仕組みよりスピードを、計画性より主導力を

キャルビンさんが転職で扉を開いたOpenAIは、いわゆる従来のテック企業の仕事とは違いました。GPUと、Slackの無限通知と、Apple(アップル)が開かれて見えるほどの秘密主義文化を燃料に、スタートアップ企業をロケットに縛り付けて打ち上げたような仕事だったのです。

「OpenAIについてまず最初に知るべきは、その成長がいかに急激かということ」と、ブログにて綴るキャルビンさん。転職してOpenAIにやってきたときはわずか1,000人強だった従業員数は、1年後には3,000人を優に超えていました。

「在職期間でいうと(1年で)上位30%の位置に上がっていたことになります」

シリコンバレーでは稀にある爆発的成長は、コミュニケーション、チーム構造、雇用、プラダクトロードマップなど、企業のすべてに影響を与えます。激変のなか、OpenAIはいかにして、革新的ツールChatGPTやCodexをリリースしてきたのでしょう?

キャルビンさんいわく、会社の中はまさにカオス。ボトムアップの能力主義が溢れ、組織の仕組みよりもスピードが、厳格な計画よりも個人の主導力が重視される環境だといいます。

社内コミュニケーションはほぼSlack。Eメールはほぼ皆無で、勤務した1年間で受信したメールは10通にも満たず。大きな決断、技術的書類、ディスカッション、プロジェクトを牽引するリーダーシップ、そのすべてがとてつもなく速いスピードで、チャットのスレッドにて展開されていきます。

もし、重要なメッセージを1つでも見逃せば、知らない間にプロダクトがローンチされているかもしれない。そんなスピード感。

設計図なしの設計

外から見ていると、これだけのプロダクトをローンチするには、細部にまで注意を払った長期的プランがあるのかと思いますが、キャルビンさんいわくほぼ即席。

「出勤初日に今後四半期のプランを聞いたところ、そんなものはないと言われました」

トップダウンによる計画はなく、リサーチャーと開発者個人個人が思いつくアイデアで会社は動いており、個々が自発的にそのアイデア実現に取り組むのがよしとされているといいます

「実行力こそすべてという考えです(とにかく手を動かす)。

一部の人が特に許可もないまま実行していき、それが良さそうなら周りの人たちがヘルプしてチームを作るという感じでしたね」

キャルビンさんいわく、この環境だと個人リサーチャーに権限が集中しやすく、彼らが実質「ミニ役員」のような立場になっていたといいます。

スピード重視で動くためにはお金がかかります。キャルビンさんいわく、メインのソフトウェアシステムである「サ・サーバ」と呼ばれるバックエンドモノリス(すべてのサービスが集約される巨大コードベース)は、従業員にとってはちょっとしたゴミ捨て場状態にあったとか。

この状況でCodexをたった7週間でゼロからローンチまで漕ぎ着けたのは、シンプルにすごいの一言。この7週間、実はキャルビンさんにとっては、プライベートで新生児が生まれたばかりの7週間でもありました。

「ほぼ毎日、寝るのは23時から真夜中すぎ。うちには新生児がいたので、毎朝5時半に起床。7時にはオフィスに向かいます。週末もほぼ仕事でした。

チームとしてがむしゃらに邁進していました。1週1週がとにかく貴重で大きかったからです」

絶対的秘密主義

激務の職場カルチャーは、一言で言えば秘密主義。

開発者は、社外で開発中のプロジェクトの詳細について話すことを禁じられています。情報は厳しく分割され、複数の認証が必要な異なるSlackスペースで管理。

Clavinさんいわく、中の人ですらメディア発表で初めて知る新プロダクトもあったといいます。

「社内にすらまだ発表されていないニュースをメディア経由で知ることは、もはや日常茶飯事でした」

秘密主義たる理由は、知的財産を保護するためだけではありません。グローバルに加熱するAI市場を支配するためのストーリーを管理するためでもあるのです。

そのストーリーには、政府の規制、Google(グーグル)やAnthropic(アンスロピック)というライバル企業、会社のすべての動きにリアクションするSNSやメディアの評判も含まれます。

良くも悪くも社会から向けられる強い視線で、OpenAIはより秘密主義になっているわけですが、一方で身動きが取れなくなるようなことはないようです。

「OpenAIはこの環境でも方向性を変えていきます。OpenAIほど大きな企業が(身軽に動くという)気質を維持しているのは、注目すべきところです。目的のための決断は非常に迅速です」

社内はカオス状態といえど、キャルビンさんいわく社員1人1人は、正しいことを気にかけていたといいます。

彼がここでいう正しいこととは、目の前の現実的な実用性、AIの安全性であり、よくいわれるSF世界のようなAIの話ではないのですけど。

「よりフォーカスされていたのは、仮説的なもの(知能爆発やAIによる権力追求)でなく、実質的なリスク(ヘイトや暴力的、政治的見解をコントロールするような内容、生物兵器の制作、自傷行為など)です」

エゴサがすごい

キャルビンさんのブログで驚いたのは、SNSの動向、特にXでの意見をOpenAIがとても気にしているということ。

「OpenAI関連のツイートをして拡散されたら、社内の誰かが見て、その意見を検討している可能性はかなり高いですね。この会社はTwitterの雰囲気で動いてるからねって、よく友達がネタにしていたくらいです」

従来の企業ロードマップを持たない代わりに、次の指針となるのはまさかのバイラルトレンド。OpenAIが予測不可能かつパワフルなテック企業である秘密は、ここにあるのかもしれません。そしてその企業を作るのは、Slackのメッセージに埋もれ、計画も睡眠もなしで突き進む社員1人1人のマンパワー。

そう。そこはまさにテック業界修羅の国。

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