「知らない」は本当か

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統一教会のことは「ほとんど知らない」

 何らかの指摘に対して「全面否定」が効果を持つかどうかは時と場合による。高市早苗首相は、旧統一教会こと世界平和統一家庭連合(以下、統一教会)との関係についてはほぼ全面的に否定しているものの、多くの理解を得られているかどうかは微妙なところである。

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 最初に確認しておけば、高市首相自身が公式に認めている統一教会との関係は以下の通りである。

〇2001年、統一教会と関係の深い雑誌で旧知の政治評論家と対談したことがある。

〇1994〜2001年の間、統一教会系の新聞「世界日報」に5回、インタビュー記事が掲載されたことがある。

「知らない」は本当か

 いずれも旧統一教会関係のメディアだという認識はなかった、ということである。

 注目すべきは、タレントの中田敦彦のYouTubeチャンネル(中田敦彦のYouTube大学)に昨年登場した際の受け答えである。ここで高市氏は、中田からの質問に対して、以下のように答えている(2025年9月30日配信動画より大意)。

「統一教会のことはほとんど知らなかった。彼らの教え、清和会との関係も知らない。『原理講論』も知りません。日本は韓国に原罪を持つ云々といった教義も知らない。教祖は文鮮明? っていう人なんですか。それも知りません」

統一教会をめぐる世代間ギャップ

 かなり勉強をしてきたと思われる中田はさまざまな角度から鋭い指摘を繰り返すのだが、高市氏は「初耳の話」というスタンスを崩さない。

 こういう高市氏の主張を視聴者はどう受け止めるのだろう。

「高市首相がそう言うのだからそうなんでしょう。知っているというなら証拠を示せ」か、「知らないはずがない。世界日報が統一教会系だというのは常識だし、教祖や教義についてもさんざん報じられてきたじゃないか」か、大きく二分されるだろう。

 前者のうち、特に若い世代には後者の「知らないはずがない」という主張を理解しづらいかもしれない。統一教会がテレビや週刊誌で大きく騒がれたピークは、1992年、有名タレントらが合同結婚式に参加した頃。それ以降も、折に触れて霊感商法は話題になっていたものの、ピーク時にははるかに及ばなかった。

 ピーク時に生まれた人が現在30代半ばなら、40代以下にとって統一教会問題が決して身近な存在ではなかったのは想像に難くない。

統一教会は“必須教養”だった

 一方で、現在50代以上で、ある程度ニュースに関心を持ってきた人にとっては、世界日報も文鮮明氏もすべて「常識」だ。前述の合同結婚式に関する報道が盛り上がっていた頃、統一教会に関する情報はあふれていた。

 それだけではない。中高年以上の世代で大学に通った経験を持つ人にとっては、統一教会や彼らの「原理運動」について知っておくことは、自己防衛のための必須教養だった。この経験を持つ世代と持たない世代のギャップは大きいだろう。

 1960年代後半〜1990年代にかけて、大学、とりわけ国立大学や有名私立大学のキャンパス内では、全国原理研究会、通称「原研」による勧誘が非常に活発だった。近年は「CARP」と名乗る学生団体の勧誘活動が報じられたが、この名称は原理研究会の英語略称である。

 むろん何を信じようと、また誰を勧誘しようと自由といえばそれまでなのだが、原研の場合、本来の終着点、すなわち統一教会であることを隠し、洗脳のような手段を用いること、学業の放棄や家族関係の崩壊につながること等々、数々の問題がすでに明るみに出ていた。

全国の大学に食い込んだ「原理主義研究会」

 当時の空気を知るために、週刊新潮のバックナンバーを開いてみよう。ご紹介するのは、1967年7月22日号掲載の「東大生二十人の『原理運動』」と題された記事だ(以下、引用部分の出典はすべて同記事)。

「試みに、あなたの知っている大学の先生か学生に、“原研”についてたずねてごらんなさい。『ああ、あれですか』と返事が返って来る。(中略)“全国大学原理研究会”といい、『既存のあらゆる宗教の統一をめざし、宇宙の根本原理を解き明かす』新しい宗教運動のことだそうだ。運動が激し過ぎ、ついには学業放棄や家出をする学生も出て、社会面記事になった。その中には“最高学府”東大の秀才約二十名も含まれている」

 この原研(または原理研)のバックに統一教会が存在しているのは、すでに誰もが知るところだった。そして全国の大学で、原研が要注意の対象となっていたことが記事から伝わってくる。都内の私大教授はこのように語っている。

「四月に一年生が入学すると、原研の連中は猛烈な“学内伝道”をやる。新入生ほど感化されやすい。夏休前の試験答案を見ると“この学生は入信したな”というのはすぐわかる。答案の結論に、必ず”統一原理“をうたっているからだ」

親はサタン

 むろん真理を求める気持ちは誰も否定しない。問題は結果として本人も周囲も不幸になっていくことだ。それゆえ、当時、新聞には「親泣かせの『原理運動』」と題する記事も出ている。

 いきなり親をサタン(悪魔)とののしったり、おどすかのような物言いで金を求めたり……この新聞報道を当時の教会は否定していたが、事実だったことはすでに常識であろう。

 前述の「週刊新潮」記事から、東大卒業生の父親(58歳・会社監査役)の嘆きの声をご紹介しよう。彼の息子は入信して、渋谷・南平台にある原研の本部に行ってしまったという。

 ちなみにこの本部は岸信介元首相、つまり安倍晋三元首相の祖父の公邸だった建物である。この広大な屋敷の中には、全国組織、東京組織、高校組織、東大ホームなどがあり、全国70大学、1000名といわれる会員が交代で“南平台参り”に集まって、常時30人以上の男女が宿泊していた。

 会社監査役員氏の息子はリヤカーを引いて回る、今でいう廃品回収業などに汗をかき、稼いだ金を献金に回していたようだ。

都合が悪くなるとサタン呼ばわり

「一昨年の六月、あの子は家を出て南平台に行ったんです。“卒業もしないうちに、そんな宗教活動なんかやって……”といったら、“学資を出してもらわなきゃいいんだろう”てなこというんですよ。“二十何年育てた親に向かってそんな言い方はないだろう”といったら、家を出てっちまいましたよ。(略)

 ……家へたまに戻って来ると、よく論争するんですが、“サタン”といわれたことは何度もありましたよ。説明できなくなったり、都合の悪いことになるとサタン呼ばわりするんですな。(略)

 なんとか彼が卒業した時、こういうんです。“兄ちゃんは卒業する時、洋服買ってもらった。ぼくは修練道場(注・教会の施設)の建設資金が必要なので、洋服のかわりに、その分お金でちょうだい”と。(略)

 一万五千円をやると、大喜びでね、ワシづかみにするや、“アリガトウ”といって、すっ飛んで行きましたよ」

 こうした息子や娘が入信したことに悩む親たちが結成したのが「被害者父母の会」である。新聞報道でその存在を知った全国の父兄からは、被害を訴える手紙が殺到した。「週刊新潮」の記事にはほかにもこうある。

「『うちの子は北大一年の時に原研に魅了され、学業を放棄して過激な奉仕活動をやるうちに病気になり、現在重体です』という惨たんたる話から、『修練道場の建設資金をせびられ、断ったら親せき知人から計十七万円も寸借してしまった』息子の例など……」

本当に初耳なのか

 時代が異なるため、最近の数億円奪われたという話に比べると、金額その他のスケールが小さく見えるかもしれないが、被害の図式はまったく同じである。

 こうした被害状況は、新聞、雑誌はもちろんのこと、学生たちの間でも広く共有されていた。同級生がある時から急に学校に来なくなったり、奇妙な言動をするようになったり、といったことが身近に起きていたからだ。

「原研の勧誘に気を付けましょう」といった呼びかけも当時は頻繁になされていた。

 その状況は高市氏が名門・神戸大学に入った80年代も同様。

 統一教会や文鮮明について「初耳」感を高市氏が前面に出す動画に対して、疑念のコメントが数多く並んでいるのには、こうした歴史的経緯も関係しているのである。

デイリー新潮編集部