月面の水分子はレゴリスの微小な空隙で作られる? 新たな生成メカニズムを提唱
乾燥した不毛の大地と考えられてきた月の表面に、実は「水」が存在していることは、近年の観測によって確実視されつつあります。
2020年にはNASA(アメリカ航空宇宙局)が、当時運用していた成層圏赤外線天文台「SOFIA(ソフィア)」の観測によって、月面の太陽光が当たる場所で水分子(H2O)を検出したと発表しました。
月面の太陽光が当たる領域で水分子を初めて検出、月面全体に分布している可能性も(2020年10月27日)
しかし、極端な環境下にある月の表面で、一体どのようにして水分子が生成・維持されているのか、その詳細なメカニズムは未だ謎に包まれています。
今回、東京大学大学院理学系研究科の庄司大悟特任研究員は、レゴリス(月の土壌)に含まれる微小な空隙(くうげき)が、水分子の生成工場としての役割を果たしている可能性を示しました。庄司さんの研究成果は学術誌「Scientific Reports」に掲載されています。

太陽風と月面の水分子の関係
月面の水分子がどこから来たのかについては、隕石の衝突や過去の火山活動など複数の説がありますが、有力な候補の一つが「太陽風」です。
太陽からは電気を帯びた粒子の流れである太陽風が常に吹き出していますが、その主な成分は水素の原子核である「陽子」です。この陽子が月面に降り注ぎ、レゴリスに含まれる酸素と結びつくことで、水酸基(OH、ヒドロキシ基)や水分子ができるのではないかと考えられてきました。
しかし、これまでの研究では、単に陽子がレゴリスに当たるだけでは水酸基は生成されても、水素が2つ必要な水分子まで成長するのは難しいとされてきました。水分子が生成されるには、微小隕石の衝突による熱などの追加要素が必要だとする説もありましたが、今回発表された研究は、レゴリスを構成する土壌粒子の「内部構造」に注目した新たなシナリオを提案しています。
ナノサイズの空隙が水分子を育てる?
庄司さんは、土壌粒子の内部に存在する直径数ナノメートルから数十ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)という非常に小さい泡のような空隙に着目。分子動力学シミュレーションを行ったところ、太陽風によって運ばれてきた水素原子が土壌粒子の中に入り込み、減速してこの空隙にたどり着くと、興味深い反応が起こることがわかりました。
空隙の内側の壁面には、原子同士の結合が切れて「手」が余っている状態(ダングリングボンド)の酸素原子が多く存在します。シミュレーションの結果、入り込んだ水素原子はこの「手」に捕まりやすく、壁面で高濃度の水酸基が形成されることがわかりました。
すると、狭い空隙の中では水酸基が密集することになるため、続々と運ばれてくる水素原子が水酸基と結合する機会も増えます。その結果として、空隙では水分子が効率良く生成される可能性が示されたのです。

論文によると、土壌粒子が月での“数日間”(地球の時間では数か月間)にわたって太陽風にさらされるだけで、空隙の周辺では重量パーセント(wt%)にして数パーセントもの水分子が形成され得るということです。
閉じた空隙と開いた空隙で異なる“水分子の運命”
また、今回の研究では、空隙の形によって異なる水分子の動きについても触れられています。
外部とつながっていない「閉じた空隙」の場合、生成された水分子は外に逃げ出すことができず、その場に留まります。これは、かつてNASAの「アポロ計画」で持ち帰られた月のサンプルから水分子が検出された事実と整合します。
一方、外部につながっている「開いた空隙」の場合、生成された水分子は外へ放出されます。放出された水分子は月面を移動し、やがて極域などの冷たい場所で氷として蓄積される可能性があります。これは、月面で観測されている水の量の変動や分布を説明する手がかりになり得ます。

月面における水の生成メカニズムや、その蓄積プロセスを解き明かすことは、将来の有人月探査や月面基地建設における水資源の確保・利用計画にとっても重要な鍵となりそうです。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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