大盛況だった Twitch の大物クリエイター、カイ・セナト氏のライブストリーミングイベント。ただTwitchにとっては諸刃の剣かもしれない

記事のポイント
人気クリエイターのカイ・セナト氏はライブストリーミングイベントで73万人のサブスクライバーを獲得し、Twitchの記録を更新した。
ただしTwitchはルール運用や広告主保護に課題を抱えることが浮き彫りに。トップストリーマーへの依存とリスク管理の難しさが指摘された。
セナト氏は多方面での飛躍を計画しており、Twitchはトップクリエイターの離脱リスクとプラットフォーム依存の課題に直面している。
人気クリエイターのカイ・セナト氏はライブストリーミングイベントで73万人のサブスクライバーを獲得し、Twitchの記録を更新した。
ただしTwitchはルール運用や広告主保護に課題を抱えることが浮き彫りに。トップストリーマーへの依存とリスク管理の難しさが指摘された。
セナト氏は多方面での飛躍を計画しており、Twitchはトップクリエイターの離脱リスクとプラットフォーム依存の課題に直面している。
クリエイタープラットフォームとしてのTwitch。その宣伝に、今回のイベントが大いに役立ったことは間違いない。しかし同時に、そこにTwitchオリジナルのIPがないことに起因する、さまざまな課題も浮き彫りになった。
セナト氏の今回の配信は、ある意味、ブランドセーフティをめぐるTwitchのガイドラインの限界を確かめるテストにもなった。業界専門家からなるTwitchの諮問グループ、セーフティ・アドバイザリー・カウンシル(Safety Advisory Council)は5月に解散したが、同社はその後、将来の広告主に向けてブランドセーフティツールを改善すべく、しかるべき手順を踏んできた。
その一環として、11月1日、政治的な内容をはじめとする、物議をかもすコンテンツを含んだ配信をユーザーの側で非表示にできる新機能が追加された。この新機能を使うと、コンテンツのラベルが生成されるため、ブランド各社は広告出稿するコンテンツのタイプについて、コントロールしやすくなるのだ。
とはいえ、セナト氏の今回の配信では、PG-13指定やR指定的な行動が時折見受けられたものの、Twitchの側で公的措置を取って、物議をかもしてもおかしくない内容から広告主を保護することはなかった。そして、そこに浮き彫りになったのは、一部の人気ストリーマーと広告主のニーズの相違だった。となると、必要になってくるのは両者のニーズの熟慮だが、その小さな針の穴に糸を通す作業には、かなりの慎重さが要求されることになるだろう。
なお、この記事が米DIGIDAYで最初に配信されたあと、Twitchの担当者から次の文面が米DIGIDAY宛に送られてきたという。「ライブコンテンツには独特の魅力がある。そこでは、Twitchストリーマーの本物の姿が見られ、視聴者はリアルタイムで展開する体験のなかで、自分と同じ興味を持つ人々とその体験を共有できる。Twitchストリーマーが自身のコミュニティにもたらす真正性と創造性は、ライブ配信とライブコンテンツクリエイターをメインストリームカルチャーの最前線へと押し上げている」。
Twitchの独自性
カイ・セナト氏は、Twitchでトップクラスの人気を誇るストリーマーのひとりだ。そんな同氏のソーシャルチャネルには、数千万人のフォロワーがいる。11月に1カ月間通して行われた今回のサバソンには、セナト氏本人以外にゲストも代わる代わる登場し、総売上の20%はナイジェリアに学校をつくるプロジェクトに寄付される。ケビン・ハート氏やクリス・ブラウン氏らセレブの出演もあって、ピーク時には約73万人のサブスクライバーが獲得された。なお、本件についてセナト氏の代理人にコメントを求めたが、回答はなかった。
セナト氏は広告主の関心も集めており、今回のイベントの直前にマクドナルド(McDonald)やNBAといったブランドとのパートナーシップも結んでいる。スポンサーシップによる収益こそなかったものの、今回のイベントでセナト氏はサブスクリプションとドネーションで数百万ドルもの売上を達成した。
各サブスクリプションの標準的な料金は4.99ドル(約750円)で、その売上の50〜70%をストリーマーが受け取ることになっている。Twitchも、セナト氏の今回のライブ配信を各種公式チャネルで大々的に宣伝した。Twitchにとって今回のイベントは、ライブ配信クリエイターのための場所といえば、いまもTwitchであることの十分な裏付けになった。
ブランドスタジオ、キングスランド(Kingsland)の創業者でCEOのダグラス・ブランデージ氏は、「YouTubeなどのプラットフォームで、これができるだろうか? できるかもしれないが、これがほかのプラットフォームの文化にはなっていないように思える」と語る。「ライブ配信は新たな深夜番組と化しつつある。クリエイターが自分のゲーム番組やトークショーを作れるまでに進化を遂げている。いかにもいまの時代だ。うまくまとまっており、それがTwitchのオーディエンス、特にZ世代のオーディエンスに受けている」。
ブランドセーフティをめぐる課題
記録更新の一方で、今回のサバソンにより、Twitchにとっての課題もいくつか浮き彫りになった。今回のイベントには、セナト氏とゲストがドラッグの使用や同性愛者嫌悪の噂を引き起こす原因をつくったり、クリス・ブラウン氏などの物議をかもすセレブを出演させたりといった(同氏は2009年に当時のガールフレンド、リアーナ氏に暴行を加えたことを認めている)、所々にTwitchのルールを逸脱していると思われる場面もあった。
ある場面では、ラッパーのセクシー・レッド氏が粉末状の薬物を吸引しているような様子が映し出された。これについては、のちにレッド氏本人が、あれはマリファナを巻いていたところだと証言している。また別の場面では、ある男友だちが別の男友だちの膝に座るところを目にしたセナト氏が、彼らをからかっているような様子も映し出された。
ドラッグの使用をうわさされる行為があったにもかかわらず、Twitchは何ひとつ措置を講じず、1カ月間のライブ配信中にセナト氏を罰することはなかった。同氏の行動とは何ら関係のないスワッティング事件(虚偽の通報で特別対応チームを派遣させること)が起きたのち、11月3日に6分間の利用停止が実施されたのみだった。
TwitchやYouTubeなどのプラットフォームで活動するオンラインクリエイターという、より広い視野で見れば、セナト氏は際立って物議をかもす人物でも扇動的な人物でもない。同氏は政治的な発言を避けており、モチベーションに満ちたメッセージをファンに向けて配信していることで知られている。しかし、Twitch随一の有名人であるセナト氏が何かミスを犯せば、ほかのストリーマーの場合よりも、どうしても目立ってしまう。
この記事の配信後にTwitchにコメントを求めたところ、担当者は同社のコミュニティガイドラインに触れて、それが全クリエイターに「客観的に」適用される点を指摘した。
大物クリエイターへの依存
Twitchは、なぜセナト氏のチャンネルの削除を避けたがったのか? その理由は数字を見れば明らかだ。Twitchストリーマーの成績や活動を追跡する統計データ/分析プラットフォームのサリーグノーム(SullyGnome)とツイッチ・トラッカー(Twitch Tracker)のデータによれば、Twitchの11月の全視聴時間の5%近くを、セナト氏のチャンネルが単体で占めている。
Twitchがなければ、セナト氏がいまのような名声を手にすることはなかったかもしれない。だが他方では、いまやTwitchも同氏のようなトップクリエイターに依存して、視聴者のエンゲージメントを維持している。
しかし、ブランドセーフティをめぐる問題が大きくなるにつれて、Twitch最大のスターであるセナト氏が、広告部門の立ち上げを目指す同プラットフォームのお荷物になってしまうおそれもある。この現状は、規模拡大路線を継続するTwitchが抱える、もっと大きな意味での課題の縮図でもある。同社のコンテンツとビジネスモデルは全面的にクリエイターに大きく依存している。そしてこれが、Twitchの首脳陣にもコントロールが難しく、コントロールできないとさえいってもいい、ブランドセーフティをめぐるリスクに同社をさらしている。
オーバーウルフ(Overwolf)のブランドパートナーシップ担当ディレクター、チャド・デ・ルカ氏は、「ライブという環境に潜むリスクは、その環境を自分でコントロールしないかぎり、広告バイイングによってロックが解除されたAmazon制作のプレミアムライブ配信のような場合、最高のサービスも受けられないし、モデレーションのためのさまざまな手段も講じられないということだ」と話す。
同氏は2019〜24年にツイッチ・プロパティーズ(Twitch Properties:ツイッチ・ライバルズ[Twitch Rivals]やツイッチコン[TwitchCon]同様、Twitchが所有・運営するサービス)の商業化を主導した人物だ。「ブランド適合性を正しくコントロールせずに出稿する。あるいはストリーマーと仕事を直接する。そのような場合、配信はどうなるのか? さまざまなケースが考えられるが、基本的にはストリーマーが取り返しのつかないことを口を滑らせて話したり、行ったりといったリスクが上がることになる」。
今後の展開は?
ブランドセーフティ問題の影がちらついてはいるものの、セナト氏の現在の評価は史上最高値にある。キック(Kick)などのライバルプラットフォーム数社は数百万ドル規模の契約をセナト氏に申し出て、乗り換えを促しているが、そうした申し出を同氏はすでに断っている。
しかし、ライブ配信の枠をこえて、より広い意味でのカルチャーへの進出を同氏が目指すようになるのはもはや時間の問題だろう。その兆しはすでにある。11月にセナト氏の配信にゲスト出演したケビン・ハート氏は、両者が映画やテレビで共演する計画が進行中であると発表したのだ。
セナト氏の人気拡大。そして、現実味を増してきたTwitchからほかのプラットフォームやエンタメチャネルへの同氏の飛躍。これらが示すのは、Twitchに潜在する弱点のひとつだ。Twitchは文化的妥当性への足掛かりを得るのに大いに役立つ。しかし、ひとたびそこにクリエイターのプレゼンスが確立されてしまえば、そのクリエイターがオーディエンスと広告主を引き連れてよそへ行くのを止めることはできない。
Gフューエル(G Fuel)やエンスージアスト・ゲーミング(Enthusiast Gaming)といった企業のクリエイター部門を率いた経験を持つeスポーツ界の重鎮、スコティ・ティドウェル氏は、「カイが今後も上を目指すのなら、自身の視野を戦略的に広げて、Twitchの先にも目を向けていかなければならない」と語る。「彼ほどのクリエイターなら、次のステップは当然、メインストリームメディアに活躍の場を広げることだろう。テレビや映画の世界でチャンスを追い求めることもそのひとつだ。彼のエネルギッシュな人柄や笑いのタイミングなら、幅広い層の心をつかむ役柄にぴったりだろう」。
[原文:Why Kai Cenat’s record-breaking subathon was a double-edged sword for Twitch]
Alexander Lee(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)
