御曹司が美女のアプローチを絶って、休日にデートする女性とは?
同じ会社、同じ部署。そこで働く、27歳・同い年の美女ふたり。
世渡り上手のあざとい女子と、真面目過ぎて融通が利かない女子。
彼女たちは見た目から性格、そして行動まで、何もかもが“正反対”なのだ。
そんなふたりが恋に落ちたのは、同じ会社のイケメン次期社長!?
美女ふたりからアプローチを受ける御曹司は、一体どちらの女性を選ぶのか。
◆これまでのあらすじ
大手製菓会社の次期社長・英琉は、広報部での研修を終えて、まもなく他部署へと異動する。彼との距離を縮めることができずに焦った七瀬は、大胆なイメチェンを図るも完全にスルーされてしまい、次第に気持ちが冷めていく。

Vol.12 ふたりと離れて思ったこと
「英琉、バレンタインのお返しは、“みんな”にちゃんとしたものをあげましょうね」
僕が小学生のころ。
バレンタインの日に、クラスの女の子数人からチョコをもらって帰宅すると、母にこう言われた。
どうしてかと聞くと、チョコをあげるのにはすごく勇気がいるのだから、相手が好きな子でもそうでなくても、しっかりとお礼をするのがマナーだと言うのだ。
― 好きな子はわかるけど…みんなにあげるの?僕がお菓子の会社の子どもだから?
当時まだ幼かった自分は、それがどういうことなのか、よくわからなかった。
けれど、毎年ホワイトデーには、母のために趣向を凝らしたお返しをしていた父のことをよく覚えている。
ある年は海外旅行、そしてまた別の年は、母が好きなバラを使った特大のアーチを庭に作ったこともあった。
はたまた、仕事の付き合いか何かで義理チョコをくれた相手には、いかにも高級そうなお菓子の詰め合わせを用意していたのだ。
そんな両親を見て育った僕は、自然とホワイトデーという日を大切にするようになったのだった。
しかし、父の会社に入社して、初めて迎えたバレンタインデーとホワイトデーのあと。
好意的な態度で接してきてくれる紗良と七瀬に対して、僕はずっとこんなことを考えていた。
― あのお返しは…よくなかった。
さらには、一度は断ったInstagramの相互フォローも、気まずい雰囲気になるのが嫌だという理由で、結局彼女たちとつながってしまった。
そのうえ、これ以上ふたりとの距離が近くならないように、早く次の部署へ異動したいと自分勝手なことを思うようにもなっていた。
そうして迎えた、広報部で過ごす最終日の午後。
仕事の引き継ぎを終えデスクの片づけをしていると、部長が血相を変えて駆け寄ってきた。
「一ノ瀬さんっ!社長が…」
英琉の父に、一体何が…?
「社長が倒れたそうです。すぐに、病院へ!」
部長からこう聞かされると、僕はスマホとバッグを手にタクシーに飛び乗った。
だが…父の最期には間に合わなかった。
尊敬していた父の死。
母や姉、家族の全員が大きなショックを受けて、悲しみに暮れる日が続いた。それでも、通夜と葬儀を終えると、僕にはやらなくてはいけないことがドッと押し寄せてきたのだ。
まずは、1週間ぶりに広報部に顔を出した。部長が僕の身のまわりのものをまとめ、すでに社長室へと運んでいたので、なじみのあるデスクは空席になっていた。
「ちゃんとしたご挨拶もできずに、申し訳ございませんでした。今まで、お世話になりました」
みんなの前で挨拶を済ませると、紗良と七瀬が何か言いたげにこちらを見ていた。僕は、軽く会釈をしてその場を去った。
とてもじゃないけれど、彼女たちと会話をする気分にはなれなかったのだ。
◆

「社長、定例会議お疲れさまでした。次の外出の予定は15時ですので、車の用意ができ次第、声をおかけします」
8月になり、僕が社長に就任してから3ヶ月がたった。
社長と呼ばれることには、まだ慣れない。それに、正直に言うと右も左もわからないまま、父を補佐してくれていた役員や秘書の力を借りて何とかやっているような状態だ。
それでも、ここにきてわずかだがホッと一息つく時間を持てるようにもなってきた。
そこでふとスマホを手に取ると、数ヶ月ぶりにInstagramにログインする。
― ん?DM…誰からだろう?
未読になっているダイレクトメッセージの中には、ちょうど今朝、紗良から送られてきたものもあった。
Instagramで紗良からのメッセージが。そこに書かれていた内容は…?
『一ノ瀬さんっ!会社のインスタのフォロワーが5万人になりました〜!すごくないですか?今度、一緒にお祝いしませんか?』
― 5万人か、すごいな!頑張ったんだな…。そういえば、長谷川さんからもメールが届いていた気がする。
『社長、会社の公式Instagramのフォロワーが5万人に到達しました。お時間があるときに、見ていただけると嬉しいです。長谷川』
相変わらずのテンションの紗良。対する七瀬は、丁寧な文章で、どこか遠慮がちにメールを送ってきていた。
LINEではなく、Instagramやメールで接触してきたのは、社長という僕の立場を考えてのふたりなりの気遣いなのかもしれない。
― しかし本当に、正反対のふたりだな。
彼女たちと顔を合わすことがなくなってしばらくたった僕は、どこか懐かしい気持ちでメッセージに目を通した。
それから、言われたとおりに会社のInstagramを開いてみる。すると、紗良と七瀬、それとフード系インスタグラマーのnatsukoが試行錯誤しながら、投稿の内容を考えている姿が目に浮かんだ。
以前は立ち位置があいまいで、ふたりとは中途半端な関わり方をしてしまったけれど、今はもう過去の自分ではないし、そうであってはいけない。
僕は、彼女たちのメッセージを読み、仕事ぶりを確認して改めてそう実感したのだった。
その日の夜。
仕事を終えて実家に帰ると、しっかり閉めて出かけたはずの部屋のドアが開いていた。僕が、恐る恐る中を覗き込むと、そこには…。

「あ、英琉!おかえりー!」
「…あのさ、勝手に部屋に入らないでよ!」
当たり前のように僕のベッドの上に座っていたのは、姉だった。しかも、何か企んでいるかのような顔をしている。
「ねえ、今週末一緒に出かけない?私、行きたいところがあるの!時間は、13時!」
「ずいぶん強引だな、僕の予定とか聞かないの?」
「まあまあ、行ったら楽しいから!」
それだけ言うと、姉は、夫と娘が待つ自分の家へあっさりと帰っていった。
― 何を考えているんだろう…。あの顔は、絶対何かあるよな。
そう疑いはしたものの、連日深夜まで書類を読み込んだり、経営についての勉強をしたりしているうちに、あっという間に週末になった。
時間通りに家にやってきた姉と向かった先は、フランス北西部の伝統料理・ガレットやりんごの発泡酒シードルが楽しめる『ル ブルターニュ 神楽坂店』。
「ちょっと英琉!明るいところで見ると、ひっどい顔…もっとちゃんとしてきてよ!」
「…うるさいな。いろいろとやることがあって、忙しいんだよ」
店に到着してもなお、姉と小競り合いをしていると、いきなり彼女の声色が変わった。
「来た来た!麗奈、こっち!」
「ごめーん、お待たせ…?あれ、こちらは?」
麗奈と呼ばれたその人は、鮮やかなグリーンのセットアップが良く似合う目鼻立ちのはっきりとした女性だった。それに何だか、姉と少し似た雰囲気だ。
― これは、どういう状況なんだろう?
僕は、のちに彼女と…なんてことは、このときはまだ想像さえしていなかったのだった。
▶前回:片思いを実らせるため、ロングヘアを20?カット!有名女優に似ていると褒められ喜んでいたら…
▶1話目はこちら:容姿と性格が真逆の美女ふたり。そこに御曹司が配属されて…?
▶NEXT:4月28日 木曜更新予定
姉と2人で出かけるだけだと思っていた英琉。そこに現れた新たな女性の正体は?

