イギリスの市民生活と経済を大混乱に陥れるEUからの「合意なき離脱」に突き進むボリス・ジョンソン首相(55)。


元新聞記者のジョンソン首相 ©共同通信社

 9月3日の議会再開からジョンソン首相は、「合意なき離脱」に関連する採決で立て続けに敗北を喫した。法案審議をめぐってはジョンソン首相による保守党の党籍剥奪や離党、辞任は23人にのぼり、与党は大幅の過半数割れ。英国政治はメルトダウン状態に陥っている。

 ジョンソン氏の秘策は、10月末に「合意なき離脱」を強行し、EUから解放された高揚感が広がるなかで11月上旬に総選挙を行うシナリオだった。しかし下院につづき上院でも、「ブレグジット延期法案」が可決。EUと離脱条件について合意できないならば来年1月末まで離脱期限の再延長を要請しなければならなくなった。

「再延長するぐらいなら野垂れ死んだ方がマシ」と捨て台詞を吐くジョンソン首相。二度にわたり解散・総選挙を求める動議を出したものの、可決に必要な賛成定数を得られなかった。

 ジョンソン氏が追放した保守党議員21人のなかには、第2次世界大戦の英雄で欧州統合の提唱者であった故チャーチル首相の孫ソームズ氏や、議員歴49年の「下院の父」クラーク元財務相など閣僚経験者が含まれていた。さらには弟ジョー・ジョンソン氏も兄についていけず閣外相と議員を辞任。保守党内に衝撃が走っている。

野党がEU残留で一本化し選挙協力できるか

 一方で、野党の体たらくも深刻だ。最大野党の労働党はEU離脱か残留か煮え切らない。鉄道・水道・郵便・エネルギー会社と一部株式資本の国有化を公約に掲げる社会主義者コービン党首への警戒心は、野党内でも根強く、自由民主党、スコットランド民族党とともに一枚岩になれず、分裂状態が続く。

 総選挙はもはや不可避の情勢だ。年内、年明けのいずれにしても、解散すればジョンソン氏率いる保守党は、強硬離脱派ブレグジット党に流れた票を奪い返し、過半数をとる可能性は約50%もあるという。

 野党側は、EUの本部・ブリュッセルでジョンソン氏に頭を下げさせ、無様な姿を満天下に知らしめてから総選挙に持ち込みたい考えだ。野党がEU残留で一本化し選挙協力できるかどうかで雌雄は決まる。

 在英の日系企業はほぼ全社が「合意なき離脱」を想定している。だが筆者は、メイ前首相の離脱協定案が否定され、ジョンソン氏による「合意なき離脱」の行き先が不透明になった今、英国はEU残留に傾いていくのではないかと見ている。

(木村 正人/週刊文春)