「ウィンウィンをめざすのが交渉」 という認識は甘い!?

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『交渉の武器』の著者・ライアン・ゴールドスティン氏と、『下町ロケット』(池井戸潤/著)に登場する神谷修一弁護士のモデルとなった知財のスペシャリスト・鮫島正洋弁護士氏の対談が実現した。テーマは「強い相手にも負けない交渉の原則」。経営資源や社会的知名度で劣るベンチャー・中小企業が大企業との交渉で勝つには、どのようなことを意識すればいいのか。2人の弁護士が語り合った(構成:前田浩弥)。

交渉のゴールは「合意」ではない

ライアン・ゴールドスティン氏(以下、ライアン) 『交渉の武器』の中でも触れたことですが、ここで改めて「交渉」の定義について共有させてください。

 世界で最も権威のある英語辞典である『オックスフォード英語辞典』では、“Negotiation(交渉)”について、“Discussion aimed at reaching an agreement.(合意に達することを目的に討議すること)”とまとめられています。

 この定義はもちろん間違いではないけれど、この定義には弊害もあると思うんです。というのは、合意をゴールに交渉をする人を見かけるからです。だからこそ、不利な条件で合意してしまって、結果として損害を被るようなケースがある。私は、それは交渉ではないと思っています。

 だから、『交渉の武器』の中では、「交渉」を「自分の目的を達成するための手段」と定義しました。自分の目的が達成できないのであれば、合意する必要もない。つまり交渉が決裂しても構わない。私はそう考えているんですが、鮫島先生はいかがですか?

鮫島正洋氏(以下、鮫島) 同感ですね。
「ビジネスにおけるゴール」と「交渉で合意に至ること」とは、直接関係がありません。それを履き違えると、交渉で失敗します。

「ビジネスにおけるゴール」とは、一例を挙げれば「年度初めに立てた事業計画を達成すること」であったり、「掲げている企業理念を叶えること」であったりと、会社によってさまざまです。そのゴールに到達するために必要な合意であればしたほうがいいのですが、条件によっては、合意することでかえって「ビジネスにおけるゴール」を達成できなくなる場合もあるでしょう。自分の目的が達成できない方向に行く合意は、意味がありません。

ライアン でも、熱を入れて交渉すればするほど、いつの間にか手段が目的化してしまって、本来の目的を見失ったまま合意してしまうことがありますよね?

鮫島 そうなんですよね。
 特によくあるのは……語弊があるかもしれませんが、「サラリーマン的な発想」で働いている方ですね。合意を得られれば、それが「自分の手柄」になりますから、安易に合意してしまいやすいんです。まさに「手段の目的化」ですね。彼が会社の業績を預かるようなポジションでない場合はなおさら、安易な合意に陥りやすい傾向にあります。

 あるいは、たとえば1年かけて交渉を続けてきて、最終的に「合意しない」という決断を下せば、上司から「この1年間は何だったんだ」と思われ、評価を落とすかもしれません。社内評価を落とさないために、合意を取り付けたい。このような個人的事情が絡んでくると、「本来の目的」からズレた合意が生まれやすくなりますね。

ライアン それは、ありますね。ただ、たくさんの時間を使って何回も交渉を重ねていると、やっぱり「そろそろ合意したい」という気持ちになってくるのもわかる。そんなときこそ、「合意することが目的ではない」「自分の目的を達成するために行うのが交渉なんだ」ともう一度、思い出してほしいと願っています。

鮫島 私たち弁護士が担う重要な役割のひとつは、そのような状態に陥っているクライアントに対して、「当事者」でない立場から冷静に「その条件で合意しても、あなたがたのビジネスのゴールからはかえって離れてしまいますよ」とアドバイスすることなんでしょうね。

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