福田正博 フォーメーション進化論

 セルビア、ベラルーシとアウェーで戦った東欧遠征は2連敗で終わった。0−2、0−1という結果もさることながら、それ以上に問題だったのは、試合内容だ。攻守両面において、ザックジャパンのストロングポイントが見られなくなってしまった。

 その要因のひとつは、試合勘が失われている選手が何人かいたことだろう。

 6月のコンフェデレーションズカップの頃は、ヨーロッパのシーズンが終わったばかりで疲弊していたり、ケガを抱えたりしている選手が何人かいた。ザッケローニ監督も「ヨーロッパのシーズンが始まれば、解決できる問題だ」と話していたが、いざシーズンが始まると、別の問題が浮上してきた。香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)や吉田麻也(サウサンプトン)が所属クラブでまったく試合に出られなくなってしまった。

 プロサッカー選手は、「毎週末、試合に出る」というサイクルの中でコンディションを整え、ゲーム勘を養い、自信を積み上げていくものだ。いくら「練習している」「紅白戦をこなしている」と言ったところで、それは公式戦の実戦経験とは雲泥の差がある。

 この2試合、やはり香川のプレイはどこかキレがなく、パスを出すタイミングがほんの少し遅かったり、ボールを持ち過ぎて奪われてしまう場面があった。吉田は、致命的なミスを犯したわけではないが、どこか自信なさげで慌ててしまうようなシーンがあり、堂々とコーチングしている姿はほとんど見られなかった。

 同じことは長谷部誠にも言える。今季、ヴォルフスブルクからニュルンベルクに移籍して試合に出られるようになったが、その前の2シーズンは、年間を通して起用されていたわけではない。また、試合に出られたとしても、サイドバックで出場することが多かった。

 代表戦はプレッシャーも大きいし、アウェーだと相手のレベルや対戦する選手の本気度が、ホームで戦うときよりも高い。そうした状況で、自信を持って堂々とプレイするのは簡単なことではない。長谷部に以前のような前線にボールを運ぶ推進力が見られなかったり、ちょっとしたミスが目立ったりするのは、そうしたことが原因なのではないだろうか。

 実は私自身も、1993年、「ドーハの悲劇」と言われるW杯アメリカ大会・アジア最終予選で同じような経験をした。つまり、当時、所属クラブの浦和で不調だったため、そのコンディションの悪さが代表でのプレイにもそのまま出てしまった。だから今、長谷部や吉田がどういう心境、どういうコンディションでプレイしているか、少しは分かるつもりだ。では、自信と本来のプレイを取り戻すには、どうすればいいか。それは結局のところ、クラブで試合に出て安定したパフォーマンスを発揮するしかない。

 長谷部は移籍して、試合に出られるようになった。そう考えると、香川や吉田も、冬の移籍市場で試合に出られるクラブに移籍するという選択肢を持っておいたほうがいいのかもしれない。

 また、2試合とも無得点に終わった攻撃面では、深刻な問題が生まれているように見える。

 香川はボールに触ろう、触ろうとして左サイドから中央に入ってくることが増え、本田圭佑も、ワントップの柿谷曜一朗を活かそうとしているからか、中央からのスルーパスが多く、中央偏重の傾向が強まっているように感じる。

 その結果、日本のストロングポイントだったはずの遠藤保仁、長友佑都、香川、本田による左サイドからの崩しがほとんど見られなくなってしまった。極端に言えば、本田と香川、柿谷の3人だけでゴールを奪おうとしている印象がある。

 たしかに日本は「パスワーク」や「ポゼッション」が武器だとは思うが、バルセロナやスペインを見ても分かるように、ドリブルでの仕掛けや、ピッチの横幅をフルに活用したサイド攻撃もなければ、相手の守備ブロックはそう簡単には崩せない。サイドから攻めるからこそ相手の守備ブロックが左右に広がり、中央にスペースが生まれるものだ。

 セルビア対日本戦と同じ日(10月15日)に行なわれたスペイン対ベラルーシ(W杯欧州予選)の映像を見たが、世界王者のスペインでさえ、中央からの攻撃が多かった前半は、ベラルーシの固い守りを崩せなかった。スペインが優勢になったのは、ペドロとヘスス・ナバスをサイドに張らせて、サイドを有効に使うようになってからだった。

 この試合でのスペインと同じように、日本ももっとサイドを有効活用する必要があるだろう。今は「自分たちのサッカー」にこだわり過ぎて、パスをつなぐことにばかりに意識がいっているように見える。

 振り返ってみると、現在は代表から外れている前田遼一が、ワントップとしていかに大きな役割を果たしていたかがよく分かる。前田は前線で起点となってタメを作り、相手DFを引きつけてスペースを作っていた。つまり、本田、香川、岡崎慎司ら2列目の選手たちの特長を引き出し、彼らを活かすことが非常にうまかったのだ。

 一方、柿谷はボールを受けて、ワンタッチではたいて裏に飛び出すプレイが多く、これでは、2列目が前線に飛び出してくる時間はなかなか作れない。もちろん、柿谷のプレイが悪いわけではない。セレッソ大阪のように、彼の得点力や裏への飛び出しを最大限に活かそうとするスタイルならば、十分に機能している。

 しかし、ザックジャパンは2列目にいる本田、香川、岡崎の能力を最大限に引き出す戦術を採ってきたことを考えると、前田の調子が戻ってきていない今、ポストプレイに長けている大迫勇也や豊田陽平という、Jリーグで好調なFWを起用する選択肢があってもいいと思う。

 この2試合の収穫を挙げるとすれば、途中出場したDF森重真人とボランチ山口螢が、それぞれの良さをある程度発揮したことだ。

 森重は欧州の屈強なFWを相手に渡り合えるフィジカルの強さがあり、3バックの右に入った時のボールの持ち出しや攻撃参加も効果的だった。かつては、身体能力の高い選手にありがちな、集中力を欠いたミスが見られたが、今はFC東京でキャプテンを務めるなど経験を積み、イージーミスをすることが少なくなっている。山口はもともと攻撃的MFの選手だからパスセンスが高く、同時にフィジカルが強い。ハードワークも厭(いと)わないから守備力も問題ないだろう。このふたりには、もっと出場機会を与えてほしいと私は思う。

 ザッケローニ監督がメンバーを固定していることに関して、批判の声もあがっているが、本来ならこの時期は、メンバーを固定して戦うべきだと私は考えている。コンビネーションを高め、細部の約束事を確認して連係を築き上げるには、同じメンバーでトレーニングと実戦を続け、同じ時間を共有していくほかないからだ。

 代表チームはクラブチームと比べて練習する時間が短く、連係を築きにくい。そうした難題を解決する手段として、ある特定のクラブの選手を中心メンバーに据えて代表チームを構成するやり方がある。たとえば、スペインはバルセロナ、ドイツはバイエルン、イタリアはユベントスの選手がチームの主軸を担っている。

 日本も以前はヴェルディ川崎、鹿島アントラーズ、ジュビロ磐田、横浜マリノスといった、そのときのJリーグでトップのクラブから、代表に選手が多く選ばれている時代があった。だが今は、多くの選手がヨーロッパに渡り、世界レベルで貴重な経験を積んでいる代わりに、ひとつのクラブの選手で「ベース」を作ることが難しくなっている。だからこそ、メンバーを固定し、できる限り同じ時間を共有する必要がある。

 とはいえ、メンバーを固定するデメリットは当然ある。今のザックジャパンは競争原理が働かず、閉塞感が漂っているのも間違いない。また、本田や香川はW杯本大会のメンバー入りはほぼ「当確」だが、柿谷はまだ「当落線上」だ。加えて、最初に触れたように先発11人の試合勘やコンディションが揃っておらず、選手個々のベクトルが同じ方向にまとまりにくい状況にある。

 メンバーを固定するのが理想ではあるが、マンネリを避けるために、刺激を与え、何かしらの手を打たなければならないときもある。それこそが代表監督の難しさであり、監督の腕の見せどころでもある。

 香川や吉田を起用し続けるのか。森重や山口を抜擢するのか。11月の欧州遠征でザッケローニ監督が、閉塞感を打ち破る手を打つことに期待したい。

飯尾篤史/構成