「僕は右翼なんですよ」山上徹也が接見で語った「左派からの応援への戸惑い」と一審裁判長の「意外な経歴」【溝口敦×鈴木エイト 特別対談】
Netflixオリジナルドラマ『地獄に堕ちるわよ』の参考文献にもなった『細木数子 魔女の履歴書』がいま再注目される暴力団取材の第一任者・溝口敦。
山上徹也と4回計90分にわたって接見し、その人物像や国民の多くがまだ気づいていない「安倍晋三元首相銃撃事件」の犯行動機を新刊『アンビバレント 山上徹也が私だけに明かした謎の核心』で解き明かした鈴木エイト。
暴力団とカルト宗教…社会のタブーに斬り込んできた二人のジャーナリストが語り合った特別対談をお届けする。
構成/平原悟
統一教会への追及をやめようとは思わなかった
エイト 僕はどちらかと言えば、宗教カルトの関係者のような、わりと面倒くさい人たちを相手にしてきましたが、暴力団取材のような仕事は全然やっていない。だから溝口さんの仕事を見て、「よくこんなことができるな」と昔から思っていました。
溝口 こちらこそですよ。昔は統一教会を扱っていた人は何人もいましたけど、ほとんど脱落していったでしょ。その中で、エイトさんはコツコツずっと続けてこられた。そこは本当に頭が下がります。「よくぞいてくれた」という感じですよ。
エイト そう言っていただけるとありがたいです。
溝口 長年同じテーマをやっていると、やっぱり飽きというものはあると思うんです。それを乗り越えて、ここまで事態を動かした。統一教会の解散命令請求にまで至ったこともそうだし、これは日本だけじゃなく韓国にも影響を与えるかもしれない。そういう流れを作った力は大きいと思います。
エイト 僕は飽きることはなかったですね。ただ、がっかりすることは何度もありました。報じても全然状況が変わらない時期が長かったので。でも、そこで追及をやめようとは思わなかった。多分、根に持つタイプなんでしょうね。
溝口 それはあるかもしれないね。
エイト 溝口さんの『魔女の履歴書』もそうですよね。二十年前の仕事が、ドラマ化も含めて今また再評価されている。ちゃんとした視点で仕事をしていたものは、時間が経っても価値が落ちない。「本物なんだな」と思いました。
山上徹也の人物像
溝口 僕も今回、エイトさんの『アンビバレント』を拝見しましたが、非常に感心しました。山上裁判の傍聴記なんだけど、読者が山上という人間にイラつきながら読み進めてしまう力がある。それは作品として成功していると思うんです。
エイト ありがとうございます。
溝口 こう言うと誤解されるかもしれないけど、山上は単純に「安倍コンチクショウ」「統一教会コンチクショウ」だけの人物じゃない。むしろ「迷い多きテロリスト」なんですよ。その実態が丁寧に描き出されているところが素晴らしい。
エイト 山上事件については、教団に家庭を破壊されたという側面と、彼自身が安倍晋三を支持し、信奉していたという側面、その両方が重なったことで、マイナスの相乗効果が働いたと思うんです。その結果、「安倍晋三という存在を消し去ること」が、自分の中で唯一の最適解になってしまった。
溝口 そうだと思う。僕はずっと、山上がなぜ「親を切って自活する」という発想ができなかったのか、不思議だった。母親を放り出してしまえば、その後の献金なんかできなくなるだろうし、自活する決意をしていれば大学にも行けた可能性もあったでしょ。
エイト 裁判でも、「家族を置いて自分一人でという風にはできなかった」という趣旨の発言をしていますね。
溝口 しかも彼は、お母さんと激しく対立していた兄ではなく、むしろ母親側についていた。そこが非常に不思議なんです。彼には反抗期はなかったのかな。
エイト 中学二年の時に母親の入信が分かって、家庭が壊れていく。ちょうど反抗期の時期なんですよね。その時、おじいさんやお兄さんが母親を責めている場面で、山上は母親を守っていた。父親は四歳で亡くなっているし、その後、自殺未遂もしている。精神的な成長がどこかで止まってしまったのかもしれません。
「山上事件は母親が作った」
溝口 母親こそ家庭を壊した元凶だったわけでしょう。それなのに最後まで断ち切れなかった。ある意味では、「山上事件は母親が作った」と言ってもいい。優しい子だったのかもしれないけど、優しいだけではどうしようもない。母親ってどんな人なの?
エイト 母親自身もちょっとエキセントリックというか、独特な人らしいですね。山上の地裁判決の日も、信者と普通に話をしていて、あまりナーバスな様子ではなかったと聞いています。
溝口 そうか。もし山上の方にも、その母親みたいな「俺は俺だ」という体質があれば、結果は違ったかもしれない。むしろ山上は、ある意味で母親の影響を強く受けている。信者ではないけれど、「統一教会的な人間」だったんじゃないかと思うんです。だからこそ、宗教は怖い。
エイト 宗教社会学者も、親のものの考え方の影響を受けていると分析していますね。本人に自覚はなくても。
溝口 だとすれば裁判でも、母親経由の宗教の恐ろしさが犯行を生んだという点を、もっと訴えてもよかったんじゃないかと思う。
エイト 弁護側の宗教社会学者は、実際にそういう証言をしています。ただ判決では、ほとんど取り入れられませんでした。「成育歴は背景にすぎない」「最終的には本人の意思決定が重要」という整理でしたね。
溝口 山上は統一教会を支持していたわけじゃない。でも、統一教会に支持されていた安倍を敬愛していた。そこも僕には理解しがたいんです。家族はあれだけ苦しんでいるのに、なぜ安倍を支持するのか。
エイト 本人は「僕は右翼なんですよ」と最初の面会から言っていました。世間で作られているイメージとは違う、との戸惑いも法廷で述べていた。だから、反安倍的な人たちや左派の人たちから応援されていることにも、どこか居心地の悪さがあったみたいです。
溝口 そういう葛藤があったからこそ、あれだけ執拗に準備をし、拳銃を作り、安倍の日程を追い続けて、実行まで行けたんだと思うね。
なぜ裁判官は安倍晋三と教団の関係に踏み込まなかったのか
エイト ところが、一審では「なぜ安倍晋三だったのか」という部分が全然埋められなかった。これは大きな問題だと思います。
溝口 安倍を信奉していた山上だからこそ起きた事件だったにもかかわらず、判決は、安倍側に何の問題もないことになっている。安部昭恵も、代理人が代読した意見陳述で、夫には何の落ち度も見当たらないとの旨を語っている。そういう判決になったことには弁護団の戦術の誤りもあったのではないか、と思う。
エイト 判決も、「社会問題は個人の内面で処理すべきだった」という整理でした。でも、社会問題というのは個人の内面だけで解決するものじゃない。統一教会問題や、安倍晋三と教団の関係に全く踏み込まなかったのは、何らかの意図を感じざるを得ませんでした。
溝口 要するに、今の司法は自民党や安倍派を恐れている部分があるんだと思う。自分自身の頭で判断していない。「思い切った判決を出すと、自分の出世に関わる」とか、そういうものがあるんじゃないか。
エイト ただ、山上事件の裁判長は、いわゆる出世コースの人であるはずなのに、むしろ大阪高裁から奈良地裁へ送り込まれてきた人で、形としては左遷に近いのが不自然です。ジャーナリストの青木理さんも、「もっと上からの意向があったんじゃないか」と言っていますが、その可能性はあると思います。最初から「そこには踏み込まない」という前提だったのかもしれない。
溝口 結局、判決は検察の言い分を一字一句なぞっているようにしか見えない。
エイト 僕もそう感じました。しかも、裁判員の存在感が極めて薄い。評議や評決の中に、裁判員の意見がどこまで反映されたのか疑問が残ります。高裁は裁判員裁判ではないので、山上にとってはさらに不利になるでしょう。だからこそ、この本が高裁の審理に少しでも影響を与えられればと思っています。
高市早苗と細木数子の共通点
溝口 その点で言えば、今のテレビがやっていることも、当たり障りのないものばかり。視聴者というより、政界の多数派である自民党に媚びている。僕が『週刊現代』で細木数子を叩いた20年前と、体質は何も変わっていないですよ。売れればいい、口当たりがよければいい。むしろ最近の方が拍車がかかっている。
エイト 高市早苗さんをめぐる報道を見ても、反省がないのは明らかですね。少し前に、テレビ局でコンプライアンス担当をしている人と話す機会があったんですが、『週刊文春』が報じている高市問題をどう扱うか、かなり慎重になっている印象でした。
溝口 実は細木と高市さんには共通点があると思っていて、高市さんって、言い過ぎちゃうところがある。それが細木数子と似ていて、魅力でもあるけれど、同時に欠点にもなる。最近も国会で、秘書のSNS活動を巡って「私は秘書を信じています」と言い切ったでしょう。ああいう断言は、後で攻撃材料になりやすい。
エイト ただ、高市さんの場合、「秘書を信じる」と言っている分、追い込まれた時には逆に秘書に責任を被せて逃げようとしているようにも見える。
溝口 それはあるかもしれない。でも、政治家と第一秘書って、実際には運命共同体みたいな関係でしょう。そこは一般にはあまり理解されていないと思う。
エイト 細木さんは、自分が教祖にはならなかったけど、教祖的な存在ではあったことはまちがいない。それも構造としては、テレビが育てた“教祖”みたいな感じでしたが、高市さんも実態以上に膨らんだ期待が生んだ首相という点も共通している気がします。もし細木数子が政治家になっていたら、今の高市さんみたいになっていたのかもしれませんね。
溝口 いや、その点では細木の方が、もう少しうまく立ち回っていたかもしれないですね。
【後編を読む】「『地獄に堕ちるわよ』は凡庸」ネトフリドラマの参考文献「魔女の履歴書」著者が語る、「ドラマで描くべきだった《細木数子の過去》」【溝口敦×鈴木エイト 特別対談】
【つづきを読む】「『地獄に堕ちるわよ』は凡庸」ネトフリドラマの参考文献「魔女の履歴書」著者が語る、「ドラマで描くべきだった《細木数子の過去》」【溝口敦×鈴木エイト 特別対談】
